表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成人男は、厨二的都市伝説を信じない  作者: めーる
1章 『忘却』の喫茶店
3/6

1章 第2話

 数十分後、湊人は仕事場に到着すると……自身専用パソコンなどが乗せられている、デスク前の椅子に腰を下ろして、


「はぁ……今日は朝から散々だ……」


「あら、朝から溜息なんか吐いちゃて、どうしたのかしらっ?」


「え?」


 背後の美しい声に反応して振り向くなり、湊人の鼻先にツンっと冷たく硬い物が触れた……と、視界に……女性用スーツに身を包む、茶髪長髪で大きな瞳の細身な美女が映った。


「あ、早乙女(さおとめ)先輩……」


「朝からしょげちゃっている君には、これをあげる!」


 そう言って早乙女先輩は、湊人の鼻先から冷えた缶コーヒーを離すと、湊人へシッカリ手渡す。


 そんな行動に、感動しながらも驚きを隠せない湊人は、首を傾げて、


「え? 奢りですか?」


「奢りだよ」


「給料一日前ですよ?」


「私をなんだと思っているの?」


「最近、合コン通いの……」


「もう良い、それ以上言うな。愛華ちゃんが、傷付いちゃうよ?」


 自分の名前語尾に『ちゃん』を付けている、早乙女先輩という人は……湊人の三年上の先輩だ。

 湊人が会社へ入社する三年に、この会社へ入社した先輩。湊人の歳よりも、三歳年上の二十五歳の先輩である。


「本当に奢りなんですね?」


「本当だよ」


「それじゃ、有り難くいただきます……」


 湊人は軽く会釈をすると、手に持つ冷えた缶コーヒーを開封する。

 その後、中身の冷えた液体を喉に通した瞬間だった。


「飲んだね?」


「え?」


 早乙女 愛華は、湊人が飲み口へ唇を付けたと共に、ニヤリと笑みをこぼす。


 不審に思った湊人は、すぐさま缶から唇を遠ざけて、


「あのっ! なんかあるんですかっ!?」


「そりゃね……」


「僕を騙したんですか?」


「物騒な事を言うねぇ……。些細な願い事を一つばかりの叶えて貰うだけだよ?」


「拒否権は?」


「えっと……その手に持ってる缶コーヒーは、誰に奢ってもらったのかな?」


 湊人は、手に持っている缶コーヒーを見つめながら、長い溜息を吐くと、


「……分かりました」


「やった! それじゃ、仕事終わりに……少しばかり付き合って貰うね!!」


 早乙女は、はしゃいだ様子で湊人の視界から消えていった。





 ――湊人は、今日の仕事ノルマを達成させ、定時時刻に帰宅の準備をしている。


 その間、


「おーい!」


 遠くから駆けてくる早乙女の姿を、湊人は発見する。


 そして早乙女は目的地へ到着するなり、湊人の肩にぽんと手を置いて、


「仕事は終わったかい?」


「今、帰宅の準備をしていますよ」


「それは感心な事だ。愛華ちゃんは、喜んじゃうよ」


「……光栄な事です」


 時刻は六時半……八月の窓から確認出来る外景色はもう真っ暗だ。

 この時間帯だと、地下鉄は多少混み合っているだろう。


「あの、そういえば……。朝言っていた、些細な願い事って何なんですか?」


「あー、えっとねぇ……」


 早乙女はあやふやした一言を述べると、ポケットからスマホを取り出し、調べ物を開始した。


「あの……」


「ちょっと待ってね……今、調べ物してるから」


「あ、はい……」


「よし、待たせた! コレだよ、私の願い事はっ!!」


 待たされて数秒……湊人の視界にスマホ画面が映された。


「何ですかこれ?」


「画面に映っている文字を読んでみて」


「え……? 幻の……コーヒー店??」


「そう、私は此処に行きたいの!」


「そうなんですか」


 画面には、『幻のコーヒー店』と記される大きな文字とか、コーヒー画像などが、色々映されている。


「あの、場所とかって大丈夫なんですか?」


「それが、大丈夫じゃないのよ……」


「え? 地図の見方って分かりますか?」


「地図の見方ぐらい分かるわよっ!」


「じゃあ、なんで……」


 湊人が呟くと、再びスマホを眼前に突き付けられて、


「この記事……いえ、どんなに検索しても、お店の住所や地図が出てこないのっ!」


 湊人は突き付けられた画面へ、シッカリと目を通す。


「ほ、本当だ……」


「でしょ?」


「行くの諦めたら、どうですか?」


「それはイヤ」


 子供のように首を横へ振る早乙女を目前に、湊人は「……わかりました」っと、頷く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ