対馬動乱:血とて鉄となる
お詫びと訂正
・前話で投稿したお話で工作員が神社周囲から襲撃するという内容でしたが、訂正前の原稿を投稿していたことに気が付かず申し訳ございませんでした。ですので、前話の最後の部分は訂正と修正されております故、何卒宜しくお願い致します。
「ついに来たか………」
李は爆発の音で目を覚ました。
そして、襖をそっとあけるとこちらに近づいてくる者たちを見た際に、自分が殺されるのだろうと直感で感じ取った。
大韓帝国の刺客が襲いにくると、そしてその刺客は目撃者を抹殺するべく神社の鳥居を越えて神社の境内に足を踏み入れている。
要塞の弾薬庫が爆発し大火災が発生しているので多くの人は要塞の方に注目して、この集落にやってくるのは早くても明け方になるだろう。
どのみち、周囲は包囲されているので李の運命は決定したも同然の状況であった。
「私のせいで………無関係な人まで傷つけるのは避けたい………私が出ていけばみんなが助かるんだ………」
李は襖を開けて、何かを書いた紙を包むと草履を履いて一歩一歩外に歩き出した。
李には死ぬ覚悟ができている。
もう良いのだと、下手に住民を巻き込んだ銃撃戦になれば大勢の罪なき人々が死んでしまい、それこそ将来日本と大韓帝国との間で問題になるのは誰の目から見ても明らかだ。
自分の命を差し出して良くしてくれた住民が助かるのであればそれでいいのだ、本当であれば12月29日で死んだ命………神主さんや地元住民は大韓帝国から亡命してきた人々を匿ってくれていたのだ。
その多くが学者などの知識人が多く、定期便で対馬から長崎県に向かって、そこから神戸、大阪、東京などの大都市圏の亡命者コミュニティーの居住地へと移住していったが、彼らは将来祖国の地に戻ってきた際に自分達を良くしてくれた日本の役に立ちたいと語り、また住民たちに涙を流しながら感謝の言葉を言っていたそうだ。
「今度は私が人々を守る番だ、もう…終わりにしよう」
李は呟く。
それが誰も知られることなく散っていく運命が確定しているとしてもだ。
祖国では仲間を売り飛ばして自分だけ重罪を逃れたことをいつも苦悩していた、取引によって仲間の殆どは死刑を執行されて家族は国賊であると石を投げられて子供であっても容赦ない暴力を受けていた。
李はそうした仲間の家族にせめてもの償いとして金銭支援を行い、噂の届かない田舎への移住を勧めたり、日本への亡命を手伝っていた。
しかし、死んだ仲間の命は帰ってこない。
志を同じにした仲間はもう戻ってこないのだ、すでに墓の下…。
呼び掛けても応じることはない、二度と。
今までの思い出が走馬灯のように駆け巡る中、李は工作員によって捕らえられた。
この時、李は暴れたりせずに大人しくしていたという。
そして手に握っていた紙を工作員に渡すと李は早く自分を撃ち殺すように工作員に願い出たとも語られている。
「私は仲間を売って生きていた裏切り者だ、冥土に着いて仲間に詫びたい。せめて同じ民の者に最後を見届けてもらいたい」
その願いは幸運にも工作員によって叶えられた。
そして工作員たちにとっても手間が省けたものであった。
李は工作員たちに銃を突き付けられた状態で海の方にやってきたのだ。
とはいえ、そこは断崖絶壁の場所であり、高さは約30メートル…下には凸凹した岩がたくさんあるので落ちれば死ぬのはほぼ確実だ。
李は工作員たちに「ありがとう」と礼を言ってから自ら崖から飛び降りたのだ。
波が岸壁に当たった直後に骨と肉が砕ける鈍い音が鳴ると、李の体は一度海から浮き出るとそのまま暗闇の海の中に消えていったのだ。
工作員たちは一発の銃弾を発砲することなく李の抹殺を完了したのだ。
そして重要書類の一部である文章の回収にも成功したのだ。
要塞を破壊し李の抹殺を完了した、上々な成果でもある。
彼らは夜が明けるまでに再び上陸した場所に停泊していた船に戻って対馬から脱出した。
翌々日になってようやく弾薬庫が爆発した際に生じた火災が鎮火したが、要塞近くの集落が焼けてしまい焼失した家屋は42棟にも及ぶ。
長崎から派遣された警察による大規模な調査が行われており、警察は弾薬庫が爆発したのは「事故」と「事件」の両方で捜査を進めている。




