対馬動乱:煙硝
李の抹殺を行う事が最優先目標であるのだが、対馬北部で大規模災害を発生させないと不自然に思われてしまう。そこで、本命を狙うのは精鋭中の精鋭に任せて本隊は別行動で、ある場所へと向かっていった。
その場所とは、対馬北部に建設されている要塞であり、大規模災害を起こす切っ掛けを作るうえで欠かせない存在であるのだ。
対馬北部には対ロシア、対大韓帝国用の沿岸要塞がいくつか建設されているのだが、この対馬北部に建設されている白浜崎沿岸要塞に建設員として働かされているのは減刑と引き換えに労働に従事している受刑者が多い。
受刑者の大半は九州地方各地に収監されていた者が殆どだ、盗みや喧嘩などの暴行事件の容疑で逮捕された者の多くが迫りくるロシア帝国・大韓帝国の脅威に対して早急に対応しなければならない。
そのためにも軽犯罪など比較的罪の軽い受刑者が要塞建設の為に駆り出されることになったのだ、労働と引き換えに刑期を短くしてくれるうえに、食事も刑務所内よりも比較的多いので受刑者にとってもメリットがあるというわけで要塞建設には数百人の囚人が従事しており、比較的素行も良く要塞を警備している警備兵も気を張らずに警備に当たっていた。
白浜崎沿岸要塞は急ピッチで作業が行われているが、元旦と二日目だけは休みを貰っており、多くの囚人が束の間の休日を楽しんでいたのだ。
楽しみ方といえば要塞建設で囚人たちをまとめているヤクザが建設現場を取り仕切っている者を買収して持ち込ませた賭博場だ。
どこでも簡単に開催できる賭博といえばサイコロ賭博だろう。
その代表的な丁半は、サイコロの目が偶数か奇数かを予想して金銭を賭けるゲームなのだが、この要塞建設場には金は無いので、二日目に出される正月料理を賭けて賭博場は深夜2時であるというのに盛り上がっていたのだ。
だが、そろそろ仕舞にしないと流石に上から大目玉を食らってしまうので、次で最後にすると宣言した直後に要塞内で大きな揺れが起こる。
なんだなんだと囚人達が騒ぎ出した直後に轟音と共に爆発が起こった。
爆発が起こったのは、すでに建設が完了して来るべきロシア帝国と大韓帝国との戦争に備えて備蓄されていた弾薬庫がオレンジ色の炎と共に周囲の建物を爆風でなぎ倒し、さらに爆発によって起こった火災によって建設途中であった要塞は瞬く間に炎に包まれた。
宿舎で待機していた兵士や周囲を警戒していた警備兵は大慌てで消火作業にあたるが、冬場の乾燥した空気と強い風によって弱まるどころかみるみるうちに要塞内部だけでなく要塞周囲の森林地帯にまで飛び火した。
弾薬庫が爆発した音は対馬全域でも聞こえるほどの大きな音であった。
対馬南部の住民は最初は花火でも打ち上げたのかと思ったそうだが、夜中に住民たちが目を覚ますほどの馬鹿でかい音の出す花火を打ち上げる非常識な花火師はいないという事と、家の外に出てみると炎と煙が上がっているのを見て、初めて異変に気が付いた者が多い。
大規模爆発とそれに伴う火災は、工作員たちの攻撃の合図でもあった。
工作員たちは李が匿われている小さい集落にある金刃陰陽神社周辺を包囲、爆音が鳴り響き地響きのような爆発の衝撃は大規模災害を発生させることに成功したという合図である。
神社周辺の民家から爆音と振動に起こされた住民が扉を開けて爆発のあった場所に向かっていくのと同時に神社へと押し入っていく者たちが標的を抹殺するべく足を踏み入れた。




