KaiserReich:コウテイ
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西暦1899年(明治32年)4月27日
朝のニュースは目を通しておくのが日々の日課だ。
この時代ではインターネットなんてものはないから瞬時に世界中のマスメディアの情報を入手できるわけじゃない。
海外だと尚更到着が遅くなる、海外のメディアが昨日の人類初の飛行機をどのように報道したのかが気になるところだ。
記者たちはあの飛行機に飛びつくように写真を撮ったり、研究員にインタビューをしていたからやはり世紀の大発明という見出しになるかもしれない。
そんな期待をしながら今朝の朝刊を見開くととんでもない記事が第一面を飾っていたのだ。
【ドイツ帝国、ロシア帝国との協和的同盟を締結か、対独包囲網崩壊か】
飛行機の記事が見当たらないというよりも、この第一面はそれ以上のインパクトを持っていた。
ドイツ帝国がロシア帝国に資金・技術面で全面的にバックアップを行う見返りとしてドイツ帝国の東アジア地域進出を容認するという内容だ。
そして、ドイツ帝国への圧力を強めようとしていたフランスがロシア帝国に接近して仏露同盟を結んでいたはずだが、どうやらそれを破棄するかもしれないという見出しが載っている。
『ドイツ帝国政府は対独包囲網の切り崩しのために、ロシア帝国への技術支援並びに軍事支援などを盛り込んだ援助を発表、ロシア帝国の鉱山などをドイツ帝国の国営企業が買収する代わりに、最新鋭の軍事兵器の相互開発などを盛り込んだ軍事協定に関してもロシア帝国の都市ハリコフにて両国の外相による条約締結が見込まれる模様、これを受けてフランス政府はロシア帝国との同盟関係破棄も検討しているという…』
ロシア帝国が同盟入りか…東部戦線を抱えない代わりに西部戦線やアフリカ戦線を一気に突破しようと目論んでいるのかもしれない。
ドイツ帝国の出した条件はかなり魅力的だ…新聞の内容だけだが、20年間の金融融資・軍事技術・兵器の共同開発・インフラ整備の支援を行うと大々的に謳っている、それも敵対関係にならない限り続くと書いているのだ。
ロシア帝国は先の清国内戦並びに大韓帝国への派兵(大韓帝国に関しては軍を南部まで南下させる威圧行為だったが)を行ったことにより、イギリスとフランスの不信感を買っている。
特に上清帝国側に軍事顧問を派遣して効率的に日英軍の北部への進軍を阻止して中国北部の防衛に成功しているからだ。
イギリスは公然とロシア帝国を批難し、ロシア帝国への金融融資をいくつか引き下げることを発表している。
フランスや日本も同様にロシア帝国を批難し、上清帝国並びに大韓帝国は事実上ロシア帝国の傘下…傀儡国に近い様子となっており、これらの地域は人的資源以外にも鉱物資源が豊富であり、ドイツ帝国はロシア帝国と極東アジアを中心に進出を強める見通しとなった。
「…三国同盟ではなく四国同盟になるかもしれないということか………しかしながら、アメリカは恐ろしく出しゃばってこないな」
そう、ドイツ帝国のアジア進出に対してアメリカはなんと中立的姿勢を強めているのだ。
違和感を感じるも、後になって調べてみるとアメリカが静観
というのも、現在のアメリカにおける移民で権力を持っているのはドイツ系移民が多い、それも金融や工場といった資本を握る上流階級がドイツ系を占めている状況なのだ。
イギリスやアイルランド系移民も多いものの、彼らの大半は出稼ぎ労働者や下流~中流階級が多いので、政治における優勢度でいえばドイツ系が有利なのだ。
さらに言えば、政治のスポンサーともいえる企業の多くは現アメリカ大統領であるウィリアム・マッキンリーの共和党を支持する全米ライフル協会などがアメリカ・スペイン戦争並びにハワイ併合に抗議した日英政府を快く思っていないこともあり、ドイツへの接近ないし行為をある程度黙認しているというのだ。
つまるところ、各国の思想が入り乱れてこのようなカオスな状況になっているというわけだ。




