KaiserReich:軍用機
公開飛行のセレモニーが終わり、諏訪湖周辺はたくさんの人だかりで溢れていた。
二ノ宮博士やテスラ博士など飛行機の開発に関わっていた人たちと共に、マスメディアへの取材に応じていたところだ。
二ノ宮博士は公開飛行が成功したことで喜んでおり、またテスラ博士も英語が堪能な記者の質問に対して受け答えをしていたので取材はスムーズに進んでいった。
人類史に名を刻んだ「タ式航空機」はこれから民間・軍用問わず開発が進められていくことだろう。
二ノ宮博士とテスラ博士が取材している間に、私は陸海軍の将校と話をしていたのだ。
陸軍大将の野津道貫と海軍大将の伊東祐亨で、史実では日露戦争時に双方活躍した軍人だ。
二人は世界初となる航空機をみて、真っ先に思い付いたのは航空機を戦争に活かせるかどうかという話題で話し合っていたのだ。
「気球よりも早く飛行できるのであれば、伝達手段としては大いに活躍できる………が、今の段階では航続距離が短すぎるな…それに、車輪をつければ陸上からも飛ばせるそうだが、それは本当か?」
「はい、ただ陸上から飛行機を飛ばすのであれば地面を平に整備した場所で飛ばさないといけません、水上から飛ばすにしても波が強かったり海面が荒れている場合は横転する恐れがあるので、現段階では気象条件に左右されやすい乗り物です、将来的には写真撮影機などを搭載できるようして、上空から敵情視察を行える航空機を作れるようにするつもりです」
現時点では数百メートル飛ぶ程度の飛行能力しか有していないが、航続距離を10キロ、20キロと伸ばしていけば敵情視察ができる程度には発展していくことだろう。
そのためにも、機体・エンジンの強化と燃料タンクの拡大など問題は山積みだが、日露戦争が勃発するまでには偵察機を完成させたいものだ。
伊東大将は気球に代わる偵察任務を担う航空機の重要性を認識しており、それは野津大将も同じであった。
「海だけでなく、陸からも偵察任務を担うことが出来れば敵の考えている作戦や情報が逐一でわかるのは非常に重大なことだ…阿南さん、この水上機と陸上機のいくつかを軍に譲ってもらえないだろうか?無論、制作に掛かった経費は支払う…それに今後は陸海軍で資金などを全面的に支援することを約束する。空からの戦術というのに研究しなくてはならないからね…」
「まだ軍用には程遠い代物ですが、現在水上機型が2機、陸上機がタイヤさえつければ完成できるのが1機あります…陸軍・海軍としてはどちらの機体を研究用として購入するおつもりですか?」
「陸軍としては陸上機を購入したい、整地された場所で飛べるというのであれば、関東平野で飛行テストを行えばいい。そのための施設や航空機が飛べるように土地の整備もしよう」
「海軍は水上機を購入したい、天候不順や波が荒い時に飛べないというのは少々厄介かもしれないが、いずれ悪天候でも空を飛べるようになれば敵艦の偵察にも大いに役立つだろう、海軍は琵琶湖あたりで飛行テストをするよ」
「わかりました、水上機は来月までに海軍に納入できるように手配します、陸上型はタイヤが届いて飛行テストで不備がないことを確認しだい、早急に納入できるようにいたします。まだこちらも研究をしなければならないのでそれぞれ1機ずつという形になりますが、それでもよろしいでしょうか?」
「うむ、問題ない…急がなくても焦らず作って頂きたい」
こうしてあっという間に軍との交渉がまとまり、水上機型と陸上型の軍への納入が決まったのだ。
さらにそのあとで二ノ宮研究所に、陸海軍将校や高官を交えて仕入交渉を行い水上機型は一機3500円、陸上型はタイヤを現在特注で作っているコストなども踏まえて一機4000円という価格で売却が決定した。
私の会社で働いている一般従業員の給与が1カ月30円なので、従業員100人分以上の価格だ。
経費や研究員の給与を踏まえても、現在のコストでは水上機型が製作に2800円掛かるので、利益としてはなんとか黒字にできる範囲である。
陸海軍の両将校はこの新しい航空機を積極的に取り入れてくれることだろう。




