アジアの夜明け:有色
蒼龍を呼び出して数分後に、彼女はやってきた。
袴姿で仕事をしていたようだが、何せ思っていたよりも今後の予測が一段と難しくなってきているんだ。
私がワガママを言っているだけかもしれないが、手を打たないと取り返しのつかない事態になるかもしれない、そうなる前に蒼龍と今後について深く語らないといけない。
「阿南殿、どうしたのかのう?余に何か用があるのか?」
「ええ、蒼龍…些か厄介な問題が生じました、貴女の力が必要になりそうです」
「余の力…か、成程…話を聞かせてくれ…」
私は蒼龍に現在の世界情勢が不安定化していることを踏まえて、私の未来情報…史実であった歴史と比べて第一次世界大戦の開始時期が早まっているのではないかという仮説を彼女に語った。
「私の習った歴史では1914年に、オーストリア・ハンガリー帝国の皇太子夫妻の乗った車に民族主義に感化されたセルビア人の青年によって皇太子夫妻が殺害されたことをきっかけにして第一次世界大戦が勃発しました。1918年に第一次世界大戦は終わりましたが、それ以後の経済不況や情勢悪化によって共産主義や国家社会主義が台頭してロシア帝国では皇帝が倒されてレーニン率いる共産主義者が…ドイツではアドルフ・ヒトラーを党首とするナチスが、イタリアではムッソリーニ率いる国家ファシスト党が政権を樹立させました…今から数十年の話になりますが、私の予想では…もっと早い時期に起こる可能性が出てきたのです」
「うむ…それは以前に阿南殿からお聞きした話じゃのう、日本では民主主義で選ばれた内閣が上手く機能しなくなった結果、政情不安定を抑える為に軍部が主導権を握るようになったと聞くが…それは1930年代に起こるのじゃろう?なぜ早く起こる可能性が出てきたのじゃ?」
「確証というものはないのですが…すでに私の知っている歴史からは大きく逸れている上に、上清帝国…南中華帝国という二大国家が存在しております。ロシア帝国もドイツ帝国との結びつきを深めており、第一次世界大戦は協商側にロシア帝国は付かずに、同盟側に参戦する可能性が出てきているのです。それに現在ロシア帝国は日本帝国にとって仮想敵国ともいえる相手です。日露戦争が勃発した場合、ドイツ帝国がロシア帝国に大々的に支援を行うかもしれません、そうなれば上清帝国が陽動として南中華帝国に宣戦布告する可能性も高くなります。英仏もロシア帝国との戦争になれば数で押されるのは明白でしょう」
ドイツ帝国が大々的にロシア帝国への資金援助を行っているという情報と、シベリア鉄道を1903年までに完成させて朝鮮半島北部の資源地帯から鉱物資源を巻き上げることを考えているロシア帝国が上清帝国をけしかけて戦争を吹っ掛けるか、大韓帝国を使って九州北部か山陰地方に奇襲攻撃を仕掛けることをするかもしれない。
仮に、史実と同じ年…1904年に日露戦争が勃発した場合、ロシア帝国は上清帝国や大韓帝国の軍事通行権を保有しているので、日本帝国側は苦戦を強いられることになるだろう。
おまけに、大韓帝国側は親露派によって牛耳られている。
今後の商売をする上でも、軍部に対して対策などを論じなければならないかもしれない。
「…なるほど、阿南殿は戦争が起こった場合に備えて今後の情勢がどうなるかもっと詳しく知る必要が出てきた…そういうわけじゃな?」
「ええ、青龍族の支援者…つまり情報を担っている人達にこれからはより一層頼ることになると思いますゆえ、情報網の大幅な強化をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?」
「構わぬ、余が阿南殿の役に立つのであれば喜んでやろう…早速范に指示を出しておくからのう、阿南殿も悩みや相談があれば溜め込まずに余に相談なされよ」
「ありがとうございます、蒼龍…」
こうして、蒼龍との話し合いが終わり、蒼龍を中心とした青龍族を支援している支持者などから有力な情報をもっと送ってもらうように頼んだ。
少なくともアジア方面での情報伝達が早まるだろう。




