蒼龍:青龍の血
話が色々とまとまらなくて読者の皆様に迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません。
夜を迎えると、昼間の温かさも過ぎ去ってしまう。
囲炉裏の火の暖を取らないと寒くてつらいものだ。
今夜…蒼龍が竜の姿を見せてくれると言った。
夕飯を済ませてから、蒼龍が竜に変身するという。
夢に出てきたような…感じになるだろうか。
范さん達は部下の人達の家に行っているので、今私の家にいるのは私と蒼龍の二人だけだ。
蒼龍は別室に入ってから竜に変身するのだが、別室に入る理由が変身する際に衣類を見に付けていると服が破けたりしてしまうようなので、別室で一旦服を脱いでから変身して、その後に服を着るという。
80年代に一世を風靡した魔法少女のアニメだと光やら妖精やらの力で変身するのだが、やはりそう簡単には変身できないらしい。
別室から襖が開く音が聞こえる、どうやら変身を終えたようだ。
一歩ずつ足音が聞こえてきて、そして囲炉裏の火の灯りが見える場所で蒼龍は立ち止まって言った。
「待たせたのう阿南殿…これが余の本当の姿じゃ…」
囲炉裏から照らされる火に対等するような青白い肌には鱗のような模様があり、紺碧色の髪を靡かせている。そして顔は人間ではなく爬虫類のトカゲを連想させるような…文字通り『竜』…ドラゴンの顔をした蒼龍がそこにはいた。
不思議と怖い感じはしなかった。
夢の時に見た、彼女の輪郭がぴったりと当てはまるからだ。
彼女が今着ている振袖も蒼い…人間の姿でいるよりも青系の落ち着いた雰囲気を醸し出している。
蒼龍は私の隣に座って、ゆっくりと私の片手を握った。
暖かい蒼龍の手に、私は思わずドキッとしてしまう。
「阿南殿をこの世に招いた時、阿南殿は余の手を握ってくれた…その手を握ってくれた時に感じたのじゃ…暖かく、穢れを行っておらず、誰かに愛されたい…人の役に立ちたい…その想い…今も変わっておらぬようじゃな…」
「はい、不器用ながらも大勢の人々の生活を担いつつあります。まだまだ未熟故に壁にぶつかったりもしますが、私を信じて働いてくれている人達がいます。彼らの支えがあるからこそ、今の私がいるのです…」
「それはよかった…正直、阿南殿が道を失って路頭に迷うかもしれないと心配じゃった…じゃが、こうして阿南殿と…阿南殿と会えて…余は…余は…嬉しいのじゃ…」
手を触れていくうちに、蒼龍はゆっくりと私の胸元に顔を押し付けてきた。
竜の香り…というものなのかは分からないが、今までに感じた事のない、不思議な香りが漂う。
例えるなら、森の奥深くで湧き出る水のような…何とも言えない独特の香りだ。
そして、蒼龍を私はゆっくりと抱きしめた。
抱きしめた理由は…どこか、寂しそうで…昔の私自身のように感じたからだ。
誰かの温もりが欲しい、誰かに愛されたい…そんな叶うはずのない要求を求めていた頃のもどかしさ…辛さ…それを蒼龍が押し込んでいるように見えた。
「蒼龍様…」
「余の事は蒼龍で良い…阿南殿と二人っきりの時は蒼龍と呼んでほしいのじゃ…」
「蒼龍…貴方も色々と抱え込んでいたのですね…昔の私のように…今はこの家には二人きり…辛い事は吐き出してしまって構いません。私は、貴方にこの魂を救われました…私で良ければお力になりますよ…」
「すまぬ………余を………いや、余の我儘まで聴いてくれた上に、色々と気を利かせてしまって………それに、部下たちまで………阿南殿………余は、余は阿南殿が思っているよりも未熟じゃ、そんな余でも………阿南殿は………余を………余を受け入れてくれるのか………?」
掠れた声と共に胸元に押し付けていた顔をゆっくりと離す蒼龍、私を見つめる彼女の瞳には涙のようなこみ上げている。
緊張の糸が解けたのだろう、彼女が抱えている悩み…権力者よりも複雑な地位にいた蒼龍にとって、安易に相談できる人はいない、范さんとも個人的な相談はあまりしなかったようだ。
そのせいもあってか、今の蒼龍は竜というよりも…とっても繊細で…誰かと気軽に話したい…女性と言うべきか…蒼龍の寂しさ…悲しみ…その想いを受け入れる。
私は先程よりも少し強く、痛がらない程度にギュッと抱きしめてから言った。
「蒼龍…私は貴女を受け入れます………貴女がいなければ後悔したまま私は魂ごと死んでいたでしょう………ですが、蒼龍がこの世にもう一度私に生をくれたお陰でここまでこれたのです………それに私の為にこうして本来の姿を見せてくれたではありませんか。貴女は決して未熟ではありません、貴女は人の可能性を信じてくれている。人を信じる心を持っている………姿形が違えど、貴女の心は…誰よりも強いのです………だから、辛いときや悲しい時は思いっきり泣いてください」
その言葉で吹っ切れたのか、蒼龍は私の胸元に顔をうずくめて泣き始めた。
竜である彼女が泣くのは滅多にないことかもしれないが、色々な出来事で心がパンクしそうだったのだろう。
私は目を瞑りながら、蒼龍が泣き終えるまでジッと待っていた。
泣き終えれば心の中もスッキリするはずだ、だから思いっきり泣いたほうがいい。
そして泣き終えた頃には蒼龍は胸の中で抱き寄せたまま眠っていた、私もゆっくりと囲炉裏の優しい灯りをバックに、私もそのまま眠りについたのであった。
異種族間の愛って素敵やん?
そんな想いをこのシーンに書き込みたかったです。
ちゃんと歴史ジャンル本来の醍醐味は次の話からしっかり書きますので今回はどうか許してください。




