蒼龍:歴史を振り返る
「余は思うのじゃ…今、この国…日本は欧米列強の力を借りつつも国を挙げて教育やインフラを整えておる…アジアの覇者になれる力を秘めているように感じておる…阿南殿、貴方は未来から余が連れてきた…じゃが、余は遠い未来までは占うことはできん、これから先、阿南殿が知っている日本やアジアの歴史がどうなっているのか教えてもらえないだろうか?」
蒼龍がそういって、私に未来の…私が知っている歴史を教えて欲しいと頼まれたのだ。
蒼龍は私の魂を拾ってきたらしいが、遠い未来を透視することまでは出来ないという。
ちょっと首を傾げたのだが、私の魂を受け取る際は精神を集中させるので、果てしない海の中をしらみつぶしに捜索して魂を引き抜くようなものらしく、捜索に集中している間は他の未来の出来事などは透視できないのだそうだ。
また、これらを行う妖術とやらは不確定要素が強く、転生者の魂を連れてくるのには膨大な精神力と時間を消費するようだ。
また、未来も透視できたとしても1か月後ぐらいが精一杯らしく、蒼龍が持っている全ての力を使ってもそれらを完全に掌握することは難しいようだ。
なので蒼龍が探し求めていた条件に見合う私が見つかったのは奇跡に近いらしく、おまけに未来からやってきたという嬉しい誤算もあったという。
私は、できる限りの知っている歴史の情報を蒼龍に伝える。
「これから先の出来事ですか…教科書等で習った程度の事ですので余り詳しくは覚えておりませんが…それでもよろしいでしょうか?」
「構いませぬ阿南殿、知っている歴史をお教えください…」
私は転生する直前の202X年までの歴史の内容を蒼龍と范さんに話した。
1900年に発生した義和団事件…1904年に白人列強諸国を有色人種が初めて打ち破った日露戦争…近代的な兵器が登場するようになった1914年の第一次世界大戦…その後の経済不況や社会主義勢力や軍事政権の台頭、1939年の第二次世界大戦や日中戦争…そして1945年に広島と長崎に大量殺戮兵器が投下された事…。20世紀前半は戦争の歴史の連続であった、その後も米ソ冷戦によるキューバ危機や日本赤軍を中心とする極左暴力集団による国内の動乱、中国で発生した知識人や歴史的・文化的遺産を破壊しつくした文化大革命など、繁栄と混迷を深めた20世紀は冷戦終結によって一先ず10年ほど落ち着く…。
20世紀が終わり、21世紀が始まった矢先に世界を揺るがすテロ事件が勃発、テロリストがハイジャックした航空機4機のうち、2機がアメリカの象徴であった貿易センタービルに突入し、その光景は後にテロリストが国家に対抗できる手段を用いている事を見せつけられた。
それからは国家間の戦争ではなくテロリズムとの戦いが大々的になり、2011年の東日本大震災以降、中東で活発化した民主化運動に乗じて一時期テロリスト達による国家まで出来上がったほどだ。
しかし、テロリズムと同じくしてグローバルリズムにより多民族との宗教・政治的問題が露呈し欧州連合はバラバラになってしまっている。
中国は共産党による一党独裁を強めて少数民族を弾圧し、諸外国との軍事的緊張を高めており、日本もこれに対抗するべく、同盟国の米国や友好国である台湾との関係を強化し、軍事的にも密接に協力体制を築き上げた。
そして私は死んだので、知っているのはここまでだ。
「戦争や災害などもありましたが…20世紀から21世紀は科学や兵器の進歩が著しく目覚ましい発展を遂げました…。この時代の人が想像しているよりもスケールの大きく、そして夢物語のような生活も実現されつつあります。病気を患っても早期発見であれば殆どの場合は服薬や手術で治りますし、知りたい情報があれば片手に収まる程の小型の携帯電子機器を使用すればすぐに検索して知ることができるようになりました…アメリカやイギリスにいる友人と話す事も容易になり、人々の暮らしも大きく変わっている時代になったのです…発展した科学技術は魔法と区別がつかない…そんな未来から私はやってきたのですよ」
寒いと思ったらエアコンをつけて自動的に温度調節ができるようになり、新鮮な食品類は冷蔵で温度管理されていつでも食べれる。
現実世界と殆ど変わりないほどの高画質なゲームをゲーム機を含めて数万円で購入でき、身体の体調が悪ければ医者に診せれば錠剤を処方すれば治る、もしくは症状の悪化を抑えることができる。
この時代の人からすれば夢物語のような世界だろう…あくまでも先進国の中でも医療や福祉が充実していた日本で生まれたので、そう感じるだけかもしれないが…。
これから先の未来はどうなるかは分からない。
だが、私が分かる事といえば、20世紀は科学と兵器の技術研究が大躍進した時代であるように思える。
これからの時代は様々な要因が重なるだけで異なった道を歩むかもしれない、私は…これからの歴史をどうするか、また…どのようにしていくかを再認識する必要がある。




