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蒼龍:ウィスパー

歴史ジャンルにおいて月間ランキング2位になりました!!!

ありがとうございます!!!

玄関を開けると、范さんが紳士服を着ており、久しぶりの再会に握手を交わす。

その後ろには日本でも馴染み深い蒼い振袖を着ている綺麗な女性が私の目を見つめながら立っている。

この女性こそ、私をこの時代に迎え入れた竜…蒼龍か…。

見た目はかなり美人だと思う、見た目を考慮すると外見年齢は18歳ぐらい…私と殆ど変わらないな。

男なら必ず振り返るような美貌を持っている、だが…私を見つめている目は決して緩んではない。

高木兼寛みたく軍人のような鋭い目をしている…これまでに何人もの人を見てきたのだろうか、まるで魚市場で魚の鮮度を見極めるように、彼女の目は色んな人の心や顔を見て、私という人間がどういった人なのか考えているかもしれない。



しかも、蒼龍は特殊な能力…超能力に近い妖術とやらを使うらしい。

彼女からしてみれば、その気になれば妖術を使って私のことを調べることも可能だろう。

私を見ると、微笑んで笑みを見せている。

ささっ、早いところ家の中に招き入れよう。

ここで立ち話をするよりも家の中でじっくりと話をすればいい。



「ようこそ、長旅お疲れ様でした…ささっ、どうぞ中にお入りください」



二人を家の中に招き入れて、お茶を出して改めて自己紹介をする運びとなった。



「では…改めまして…阿南豊一郎と申します。この度はわが家にお越しくださって誠にありがとうございます。范さん、そして蒼龍様、遠路はるばる長旅お疲れ様でした」



「いえ、こちらこそ押し掛ける形となってしまって申し訳ございません。阿南様がご承諾なさったお陰で蒼龍様も大変ご満足でございますよ」



「左様じゃ、阿南殿…こうして直にお会いできたことに感謝いたします…」



范さんが蒼龍に話を振ると、蒼龍は嬉しそうにうんうんと頷く。

聞けば、長安から帝都(こっち)に来るまで殆ど眠れなかったらしい。

私と暮らせる事を希望しているのだが、私みたいな人間でいいのだろうか?

他にも魅力的な人間はいくつもいそうなものだが、蒼龍曰く、私でないとダメらしい。



「ふむ、実の所な…が阿南殿の所に行けると思うと胸が高まって寝れなかったのじゃ…こんなに胸の底から心が躍るなんていつ以来じゃろうか…」



口調が「~のじゃ」だったので、転生する前にインターネットで活躍している某放送配信者の姿が脳内でチラッと思い浮かんでしまったが、喋りだして話していることは実に真剣なので、気持ちを切り替えて蒼龍の話をしっかりと聞くことにする。



「長いこと、我々青龍族は外部とは隔離された状態で過ごしてきたからの…部屋に籠って妖術を使って占いや透視…戦争時には戦術の指示なども行っていた。じゃが…青龍族は単一では非常に非力じゃ、神話や言い伝えでは竜は不老不死の生物であるとされているが、あれは大間違いじゃ、竜は確かに人間よりは長生きはするが、それでも生物であるから寿命はある上に、喉元を剣で刺されたら死ぬ…そんな非力である余を含めても歴代の青龍族の者は、国に保護をされて生き長らえてきたのじゃ、いわば妖術という能力を国の為に提供する見返りに生かされていたわけじゃ…」



清国建国以来、青龍族は寺院を長安郊外の山の上に建設してもらい、その寺院に籠って過ごしてきたようだ。長年に渡って清国の影の部分を支えてきた青龍族…その血を受け継いでいるのは蒼龍…彼女一人だけだ。清国が日本に敗北したのを境に青龍族との関係を打ち切ったことで、国ではなく、個人を頼って今この場にいるのだ。

国に保護されたら国の言いなりになるしかない…それが非道な事だとしてもだ…。

つまるところ、蒼龍は国家というものを信用していないのだ。

今彼女が信用できるのは、自身が招き入れた私だけか…。



「それは…お辛かったですね…」



「そうじゃな…清国の裏を取る事が出来ず力不足じゃった…亡き父から世継ぎとして妖術を授けられて3年と満たない余では…未熟故に信頼されておらんかったのじゃ…その結果が日清戦争になったのじゃ」



蒼龍の父親である雷龍は老衰でこの世を去った。

雷龍から妖術等の知識を授かったものの、まだ蒼龍は15歳にも満たない少女だった。

雷龍の腕は確かだったようだが、このときからすでに清国上層部との関係は芳しくない状況だったという。

そして日清戦争終結後に関係を解消したのも、清国内部で広がっている列強諸国への反発を支持している排外主義勢力へ賛同するためだとも語る。



「父の死後、清国では燻っていた列強諸国の脅威に対抗するために仁義会を中心とする排外主義勢力が力をつけてきたのじゃ…貧困層への支持を取り付ける為にのう、清国内部では欧米列強討つべしの力が日に日に増してきている。欧米列強との協調関係を模索していた父と余は彼らからみたら邪魔でしかない…だから追い出されたのじゃ」



そういって蒼龍はお茶を啜る。

ここに来るまでに、蒼龍は私以上に辛いことを経験しているはずだ。

父の死に国家の裏切り…スケールがデカい上に、これからまた清国は嵐のような事態になるだろう。

史実でいうところの義和団事件に値するのだろう…暗い話になってしまったが、蒼龍を知る上では欠かせない話だ。

私は彼女の目を見つめながら話を聞いていたのであった。

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