変則商社:バックサポート
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西暦1895年(明治28年)12月29日
夏が終わり、木の葉も枯れて寒い冬が訪れる。
そして、今日は12月29日…。
今年もあと3日間しかない。
ここ数か月の間に、変則商社の事業はあれよあれよという間に拡大していった。
私の予想を遥かに超える速度で発展していったのだ。
というのも、陸海軍が脚気治療として私の会社で販売している雑穀煎餅を大々的に薦めるようになり、これに多くの市民がその報告を受けて今まで以上に食いついたのだ。
余りにも飛ぶ鳥を落とす勢い…ではなく、同人誌即売会で自分好みの同人誌を購入するために遠路はるばるりんかい線の国際展示場駅に殺到するオタクの如く、店の前に大勢の人だかりが出来てしまい、警察が出動する騒ぎになってしまうほどだった。
まず海軍が雑穀煎餅を毎日500枚ほど試験入荷して、脚気を患った兵士に雑穀煎餅を与えた所、脚気の症状が快方していったことを踏まえて、脚気の原因が栄養値の低い白米ばかりを食べていることによる栄養不足(実際はビタミン不足からなのだが、まだビタミンが発見されていないので、偏った栄養摂取が脚気の要因となっている…という形になった。)から成るものだと説明し、海軍軍医総監の加賀美光賢や高木兼寛が陸軍にも脚気患者の兵士に雑穀煎餅を推し進めた程だ。
陸軍も海軍の説明では納得いかんと思ったのか、私の所に陸軍の人がやってきて海軍同様に500枚の雑穀煎餅を購入して同様の実験を行ったそうだ。
すると結果は海軍とほぼ同じ結果となったのを踏まえて、陸軍も海軍の意見に同意したのだ。
とはいえ、脚気の根本的な原因であるビタミン不足である事はまだ突き止めてはいないが、海軍は栄養の偏りによる症状だと考え、陸軍は雑穀類に含まれている成分ないし菌類によって脚気の症状が改善されているのではないだろうかという考えに至っている。
何かと競い合う陸海軍だが、この時から実験結果が良好であった事もあってか陸海軍内の意見が一致し、兵士の栄養管理という面から協力体制ができ始めてきた。
白米ばかりではなく、麦飯や雑穀類を混ぜて食べたほうが栄養豊富であり、銀シャリは美味だが栄養不足の原因となる。
このことを踏まえて、陸軍は兵糧食として白米ばかりではなく麦飯も提供することを決定したのだ。
その決定が行われたのは11月17日の事であった。
陸海軍からお墨付きをいただいた結果、軍人を中心に美味で栄養も取れて、尚且つ安い雑穀煎餅が口コミや新聞で大々的に宣伝され、11月28日には雑穀煎餅を買い求める客が余りにも多すぎて、下手をすれば圧死者が出かねないほどに拡大してしまった為に、浅草にいた警察が出動する事態となったのだ。
このことを踏まえて、変則商社は3日間の臨時休業を行ったうえで、浅草の菓子屋や饅頭屋など20店舗の店主を呼んで雑穀煎餅を浅草名物の「脚気治療」としてノウハウを教えて雑穀煎餅の提携販売するのを提案したのだ。
…が、その前に私は雑穀煎餅を買い求めてきた人が殺到してしまい、店の業務に支障を来たしてしまったことを詫びたのだ。
「先日、余りにも店にお客様が殺到してしまった為、浅草でも大きな騒動になってしまいました。そのことに関してお詫び申し上げます。」
私は頭を下げてから本題の雑穀煎餅の提携販売の話に移る。
「古くから江戸患い…脚気は都市部で多く発生している病気です、今でも年間1万人前後が脚気によって命を落としております。そうした現状を打開するのが雑穀類に多く含まれている栄養を均等よく身体に吸収できるように開発したのが、わが社の主力商品である雑穀煎餅です。皆さんも食したかと思いますが、この雑穀煎餅は多くの命を救い、脚気を予防する上で重要な食べ物です。これが東京、関東地方、ひいては全国に知れ渡ればその効果は絶大なものになります」
その上で、先日のような事態にならない為に、雑穀煎餅の製造方法に関する特許を取得して、提携したお店に雑穀煎餅の製造ノウハウを教えて、売り上げた雑穀煎餅の利益の20%を変則商社に渡す…店名を変えずに、店の入り口に『雑穀煎餅提供:変則商社』と入れて欲しいと言った。
コンビニエンスストアのような完全なフランチャイズ化ではなく、商品提供による部分的な提携を提案した所、なんと全店舗がこの提携に賛成及び同意したのだ。
あれだけ売れれば、店先に出せば売れるのは分かり切っている、ならば我先にと提携を結ぼうとするほどであった。
全店舗が加盟したことにより、正式に「雑穀煎餅正式販売加盟店」として20店舗が浅草に出来上がったのだ。あれから1ヶ月経過したが、変則商社本店の利益は上がることはあっても下がることはない。そればかりか、雑穀煎餅の効果によって販売加盟店も売上を順調に伸ばしているようだ。
そして驚くべきことに、雑穀煎餅の評判は関西にも届いているようだ…。




