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私による近代日本改革記  作者: スカーレッドG
(旧)東京入居
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東京入居:アサクサ

商売道具である調理用具などを大きい鞄に詰めて、船から眺める東京湾は中々の光景であった。

東京はまだまだ高層建築物が無く、殆どが平屋だったり二階建ての建物が大半を占めている。

東京タワーやレインボーブリッジ、スカイツリーや湾岸線を連なるように生えていた高層ビル群が建設されるのは今から80年から一世紀後の事だ。



もし、明治時代の人が現代の東京湾を見たらきっと腰を抜かすかもしれない。

ニューヨークのマンハッタン島のようにビルがニョキニョキと生えている…なんてことは想像もできないかもしれない。

それでも湾岸地帯は大型船が停泊できるように港が整備されており、これからドンドンと発展していくだろう。



「恐れ入りますが乗船券はお持ちでしょうか?」



船の窓の外を眺めていると、船員が船の乗船券を持っているかと尋ねてきた。

聞けば、荷物入れの中に子供などを隠して無賃乗船している者が出てきているらしく、人数分の乗船券及び荷物の点検をしているとのことだ。

私は特にやましい物を隠しているわけではないので船員に、横浜で購入した乗船券と鞄の中身を提示した。

すると、船員は私の鞄に入っていた調理器具をまじまじ見る。



「おお、これは一体なんですか?茶筅ちゃせんですかな?」



指を指して泡立て器をまじまじと見つめている。

まだ明治時代半ばとはいえ、泡立て器を見たこともない人の割合はかなり多いだろう。

似たようなもので茶道で使う茶筅があるが、あれは調理用として使うことはあまりないだろう。

日本で泡立て器が普及したのが終戦後の西洋食の普及と同時期だったという記事を見たことがあるので、この船員の人も茶筅のような何かであるというのは、分かるらしい。

ここ最近暗い会話ばかりだったので、私は説明口調で泡立て器について説明を行った。



「これは泡立て器という物です。このボウルに卵や小麦粉などを入れてかき混ぜる際に使用するものです。洋菓子などを作る際によく使います」



「なるほど…では洋菓子店を営んでいるのですか?」



「いえ、まだ洋菓子店などは勤務しておりませんが、これから職を探す所です」



「そうでしたか…危険な物などはありませんな、ご協力ありがとうございました」



一礼すると船員は別の客にも尋ねていた。

そうそう簡単に無賃乗船する奴などいないだろうと思っていた。

すると、一人の客がそそくさと船の椅子から立ち上がって突然窓の外に身を投げ出したのだ。



「こらーっ!!!止まれ!!!!」



どうやら、外に身を投げ出した客は無賃乗船していたらしく、船員は逃げた無賃乗船していた客を怒鳴り散らしていたが、すでに対岸の方に泳いでしまっているので捕まえることは出来なさそうだ。

悔しそうに拳を握って船員はその場を後にした。

周りの客はその光景を見てざわざわしていたが、もうじき船を降りる場所につくので荷物を持って降りる準備に取り掛かっている。

降りる場所は隅田川船停泊場である。



停泊場に着くと、船に乗っていた人達と共に船を降りる。

船を降りると、そこは多くの商店や人で賑わっている浅草だ。

21世紀になっても浅草は人と商店が多く賑わっているが、そこではどことなく21世紀になっても昔の日本の面影を残している街…それが今、昔の姿で目の前にあるのだ。



だが、この場で少し私が驚いたのは浅草の名物…もとい観光名所である浅草寺の雷門の形状が異なっていた。聞くところによれば、30年前の大火災の際に焼失しており、今ある雷門は仮設されたものであるらしいのだ。

21世紀になって私が東京旅行の際に見た雷門は昭和の高度経済成長期に入ってから再建されたものらしい。

この雷門を見るだけでも歴史の違いなどを感じさせられる。



そんな古き良き日本を印象付けるような街中を歩きながら、これから私が寝泊まりする借家まで歩いていくのだ。

距離はそこまで遠くはないが、道具などを持っているので荷物は重い。

だが、こうして浅草の街を眺めながら歩くのも悪くないと感じている。

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