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RT1:24

………


警察に拘留されてから4日が過ぎた。

正直言ってかなり心身ともに疲れている。

自供すれば、会社側が罪を不問にした上で釈放してもいいと言ってきているらしいが、私としてはそんなでたらめな罪状をやりましたと嘘の供述をしたくない。

だが、毎日取調べの警察官に怒鳴られたり殴られたりするのは本当につらい。

認印が押されているということなので、どうあがいても私がやったことになってしまうようだ。


これが現代であれば書類に付いている指紋や筆跡鑑定を調べたりすればそれが本人のものかどうか分かるので、無実を証明できやすいのだが………。

残念ながら明治時代はそういった科学捜査なんて出来ない上に、認印が押されているので、これが証拠だと言われたら十中八九そうであると言われるような時代だ。

私の認印が使われている上に、勝手に取引した書類が用意されているということを考えれば、雑穀煎餅の利益を掠め取るのが見え見えだ。

ああ、最悪だよ………。


取調室で私に対して暴言や暴力を振るっている警察官が、これ以上嘘を突き通すようであればもっと殴るとか言い出してきた。

クソっ、なんだって私が殴られなければいけないんだ。

警察官は認印が付いているから私を犯罪者呼ばわりするし、私文書偽造と詐欺の容疑なら慎重に調べるべきだろう。

昔の警察官や鉄道員は士族階級の人間が多かったと聞く。

そうしたこともあり、武断的な考え方の人たちが多いのだろう。

こいつは嘘をついているから否定しているんだと思っているに違いない。


私は嘘の自供なんてしたくはない。

それは絶対にやりたくないんだ。

誰だっていい。

何とかしてくれ………。

次第に思考が鈍っていく。

考えていくことが鈍感になっていくような感じだ。

ぐるぐるぐるぐると、取調室の中が回転していくような感じだ。

夕方5時を告げる時報鐘が鳴り響く。

それを聞いていた私はホッと一安心した。


午後5時以降は夕飯の時間となり、それからは部屋で大人しくしていればじきに就寝の時間となる。

取調べを行う警察官たちも午後5時以降の取調べはしたくないようだ。

勤労時間が長くなってしまうからだろう。


「ちっ、もうこんな時間か………こいつ、ガキのくせに随分と粘りますねぇ………」

「ああ、大の大人でも3日間で根を挙げて自供するはずなのに………しぶといな」

「それだけ認めたくないということだろう、もう一日留置させておけ、どうせ明日には大人しく自供するさ」

「いいか、明日の取調べで自供しないと娑婆に出られることは無いぞ!よく覚えておけ!」


私は留置場に連れていかれて、そこでいい加減に罪を認めろと付き添いの警察官2名に殴られて、3人ほどのガラの悪い人たちがいる留置場の中に戻される。

畳みはボロボロであり、ダニやノミが跋扈しているような汚い部屋だ。

明らかにヤクザ絡みの仕事をしていそうな…いや、完全にヤクザの人がチラホラいる。

4人のうち3人はヤクザだ。

つまりこの留置場の部屋にいる私以外の人がヤクザなのだ。


立派な竜とか歌舞伎系の彫物を肌に彫り込んでいる人達だ。

警察官たちに痛めつけられた私を気遣ってかどうか分からないが、身なりは恐らくこの部屋にいる中でも一番マシかもしれない。

故に身なりが良いので、ヤクザの人も恩を売りつけたいのだろう。

あまり関わりたくないので、嘘を言わない範囲で答える程度にとどめておこう。


「おうおう、坊ちゃんだいぶ痛めつけられたな…大丈夫かい?」

「…ええ、ありがとうございます…」

「だいぶお巡りに殴られたそうじゃないか…なんの罪で捕まったんだい?」

「私は法を犯すような真似はやっておりません。ある事件の容疑者扱いされて冤罪えんざいで捕まりました…警察官の人達に私はやっていないと言っても信じて貰えないのです…」

「そりゃ………難儀なんぎだねぇ、でももう留置されて3日目だろう?3日以上過ぎちまうといくら冤罪でも罪を認める以上に印象悪くなっちまうぜ…」


意外なことに、ヤクザの人達は私に対して優しくしてくれたのだ。

うっかり名前まで口元まで出そうになったがハッとして直ぐにひっこめた。

いやいや、それが危ないのだ。

ヤクザの常習的な情報収集手段とは、敵に対して好印象を持たせてから落としどころを付けようとしてくるものだ。

彼らも、もしかしたらそうした意図があってやっているのかもしれない。

話半分に彼らの話を聞いていたのだが、途中で聞き捨てならないことを聞いたのだ。

それは、一郎と次郎が店を構えているという話であった。

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