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RT1:伝手

「なんだ、また兄さんが飲んだくれているのか」

「ええ、そうなんですよ………ここ最近手伝いもしていなくて………」


兄の一郎は相変わらず昼間から酒瓶を開けて呑んだくれている。

肝硬変になるのも時間の問題だろう。

いや、典型的なアルコール依存症になっているといっても過言ではない。

酒が入っていないと暴れだし、酒が入っていたらもっと暴れる。

どの道救いようがない程度のクズだ。

それを見かねた弟の次郎がやってきたというわけだ。


「これが豊一郎が作った雑穀煎餅か………で、これが売れているのか?」

「ええ、お陰様で………いまじゃこの店の看板商品ですよ」


オリジナル商品としては大成功の分類に入るだろう。

一日の売り上げが5円前後、そこから支出を差し引いても2円が私の懐に入るぐらいには儲けが出ている。

今はほぼ私一人で作っているが、それでも枚数が多ければ多いほど色んな人にこの煎餅を食べてもらう機会が増えるようになるだろう。

次郎に雑穀煎餅を渡すと、次郎は匂いや見た目に関してはまずまずだと言った後で雑穀煎餅を一口食べた。

すると、次郎は二回ほど頷いて答える。


「おお、中々美味いじゃないか!!本当に豊一郎が一人で作ったのか?」

「そうですよ、原料も屑米などではなく、そば粉や稗や粟で作っているので栄養値もありますよ。1銭菓子として売り出しているので子供でも買いやすい値段にしたお陰で色んな人に買ってもらってます」

「そうかそうか………まぁ、兄さんからしてみればお前のことを憎いと思うかもしれないけどなぁ………しかし、これほど美味い煎餅を作れるんなら、一層のこと釜とか揃えるという気はないか?」

「釜などは今ある道具でも足りていますが………次郎兄さんが言いたいのは、もっと雑穀煎餅を生産して売り出したほうがいいということですか?」

「そうだよ、これだけ美味い煎餅をどんなに頑張って作っても1日最大500枚程度しか売れないなら、悪く言えば500人分しか売れないってことだろ?もっと多くのお客さん向けに作るべきだよ、それだったら俺の伝手つてで道具を格安で提供してくれる奴がいるから紹介してやるよ」


次郎が雑穀煎餅を食べ終えてから、私に提示したのは機材の提供であった。

次郎曰く、ヤクザ絡みの仕事をしているがその一方で真っ当な堅気かたぎの商売をしている人と親交を深めていると言い出した。

その人は不動産関係の職をしているそうだが、日清戦争の影響で多くの中国人が横浜の中華街を去っていったらしい。

そうした人の中には借金を抱えていて、道具だけ残して夜逃げをした人もいたらしく、不動産屋や金貸しの多くが道具などを格安で売りだしているみたいだが、あまり購入する人はいないという。


「道具なら全部合わせても10円以内に納まるぜ、今ある道具よりも倍以上は作れるはずだ。人だったら雇ってやればもっと生産できるだろうし、金も溜まるだろうよ。どうだ?道具を買ってみる気はないか?」

「いえ、まだお金がそこまで溜まっておりませんので、もし溜まったら検討させていただきます」

「そうか………まぁ、手伝いであれば俺でよければ何時でも手伝ってやるよ!」

「ありがとうございます、では手伝いが必要な時にお呼びしますので、それまで休んでいてください」


次郎にずごずごとせがまれるが、ここで容易に頷くのは訂正したものだと思われてしまうので、まだ易々と決めるべきではない。

堅気の人と親交があると言っているが、次郎がヤクザ絡みの仕事をしていると知っている上で親交をしているなら、それなりに危ない仕事を任せているということだろう。

不動産屋は土地絡みの商売故に、反社会的勢力を使ってライバル会社をけしかけたり、脅迫などをして立ち退きをさせることに長けている。


それこそバブル経済やオリンピックの時には東京の土地を不動産などが買い占めたが、その中にはヤクザ絡みも多くいたとされている。

昔からヤクザと土地は切っても切れない関係だ。

だから次郎が堅気の人を親交を持っているとしたら、そういった不動産関係か、もしくは金貸しの金融業だろう。


知らず知らずのうちに自分がアウトローの世界に足を突っ込んでいた状態にならないように、私は次郎の誘いを断った。

道具であれば中古品よりも新品を自分の目で確かめてから購入したほうがいい。

中古品で安いという理由で購入して直ぐに壊れてしまっては意味がない。

安物買いの銭失いにはなりたくないからね。

次郎は、午後の繁忙する時間に素直に手伝ってくれた。

だが、私はこの時既に次郎に嵌められていたのだと気付くべきであったのだ………。

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