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私による近代日本改革記  作者: スカーレッドG
(旧)雑穀煎餅
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雑穀煎餅:利益配分

「ありがとうございましたー」



最後に来店した子供に雑穀煎餅を渡して、今日は店終いとなった。

店内を掃除し、後片付けを済ましてから今日の売上高を確認する。

まず今日の雑穀煎餅の売上総数は397枚、雑穀煎餅は一枚1銭なので利益は3円97銭…このうち、父親への場所代及び原材料費などを差し引いて2円50銭…そして馬鹿一郎へのバイト代として50銭を渡し、残った2円が私の懐に入る。

ほぼ毎日400枚の煎餅が売り切れるので、単純に計算すれば一月で60円の収入となる。

この時代は国家公務員のエリートの月給が約50円なので…この調子で稼いでいけば国家公務員よりも多い収入を得ていることになる。



生産能力を高めてもいいが、それには今の仮の煎餅焼き場では能力に限界が生じる。

一応専用の台座などを整えてもらったものの、今のままではどんなに頑張っても400枚が関の山だ。

さらに、同じ味付けばかりではユーザーも飽きてしまうので、新しい味付けも考えなくてはいけない。

今考えているのは、入手しやすく味付けも簡単な味噌味と、黒砂糖で甘くした煎餅だ。

味噌味は通常の醤油風味の煎餅よりも辛さを重視して作る。

煎餅に塗るタレに唐辛子などのスパイスを加えて、飲み物が欲しくなるような味付けにする。

そして、その飲み物を欲しがっている客に甘酒をセット価格で提供するのだ。



甘酒は価格はそこまで高くないので、味噌雑穀煎餅は1銭5厘…セット価格で2銭とすることにした。

セットメニューの内訳だが、店で売られている瓶入りの甘酒をコップ一杯1銭から5厘に設定し、本来であれば2銭5厘になるのを2銭にすることで安さを全面的に打ち出すつもりだ。

人は安いものに惹かれやすい。

よく、スーパーの広告でお値打ち価格だったり、5パーセントoffと書かれていれば、安いのを選びたくなるだろう。

その心理を利用してセットメニューを買わせてもらうという寸法だ。



大手ファーストフードチェーン店では、こういったセットメニューの収益が一番高いと聞く。

仮に、味噌味煎餅を100枚作って50枚を甘酒セットで売れば1円になる。

そしてセットメニューが功を奏したら、煎餅以外の商品も開発して…貯金が200円になったらこの家を出たいと考えている。

やはり馬鹿一郎のやる気が一ミリも無く、何をやっても作業がガサツなのだ。

こき使ってやってもこいつのしていることは、ハッキリ言って私の迷惑になっているだけだ。

煎餅を作る時も、私が指示をして煎餅を作らせていたのだが…どうも年下である私に指示されるのが気に喰わなかったらしく、突然大声をあげて煎餅の下地を練っていたボウルを放り投げて怒鳴り散らし、次の日に酒を飲んでべろんべろんに酔っぱらって帰ってきた。



この時ばかりは、いつも馬鹿一郎を甘やかしていた父親ですら怒って私のいう事を聞くようにと叱ったものの、それが続いたのはその日とその次の日だけであった。

三日坊主ということわざがあるが、それよりも早い段階で元のダメ人間に戻ってしまうので、私はもう馬鹿一郎には愛想が尽きてしまった。

よく、言われていることかもしれないが無駄にプライドが高く、他人を見下していないと気が済まないようなタイプほど厄介な奴はいない。

「こいつは俺よりも弱いから」「こいつは俺よりも学歴が無いから」「こいつは俺よりも凄くないから」…と、そういって他人を貶している人間ほど、単純な作業すらできない傾向が強い。



以前…いや、私が明治時代こっちに来る前に勤めていた羽場亜食品…その関連の工場でフルタイムのアルバイトとして入社した中年男性が、作業中に高卒の新入社員として同じく入社したばかりの若い正社員を殴って逮捕された事件があった。

その原因が、正社員が作業中に中年男性に出荷予定の荷物を運ぶように指示をしただけという、どうでもいいようなことでいきなり殴ったのだ。

警察に逮捕された中年男性曰く『俺は旧帝大を出て大手電機会社で働いたことがあるのに、三流の高卒出の若い奴が偉そうに指示してきたのに頭にきたから、俺は学歴も職歴も優れている。こいつらとは違う』という信じられない理由で殴ったのだ。

この中年男性は前の仕事でも似たような事をやらかしており、その時は会社を直ぐに辞めたので警察沙汰にならなかったのだが、どの道…そのようなことで殴るようでは碌な人間ではない。



時代や年齢問わず…プライドは大事かもしれないし、一流大学を卒業したというアドバンテージを持っていたとしても、そのアドバンテージばかりを誇り、見栄を張り、傲慢で暴力や差別を振るうような人間は救いようがない。

例え、高卒であっても就職して汗水流してしっかり働いている人のほうがいい。

そして、今私が売上高の集計を取っている後ろで、金銭をねだっているこの馬鹿一郎にはうんざりしているのであった。


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