チュートリアル
モンスターとして人間ぶっ殺してけぇぇぇぇえ‼wwww
まぁ、モンスターより人間の方がチートの予定なんだけどね……
2800年、世界のIT技術が飛躍的に進歩しVRフルダイブ型ゲームが主流になった時代。
人々は退屈していた。
VRフルダイブ型ゲームのFPSやMMORPG、ほのぼのとした育成ゲームまで売り出されたゲームは数えきれない。
それ故に、これ以上のワクワクを求めていた人々は絶望していた。
すでに粗方のジャンルは出切り、これ以上の未知の体験を求めることはできないのだから。
そんな中、新たに一つのVRMMOが発売された。
その名も『Monster Seeds』(モンスターの種)と呼ばれるゲームだ。
廃人ゲーマー達が注目したのは、プレイヤーが動かすアバターが全てモンスターだと言う事である。
そして何より廃人ゲーマー達の心に火をつけたのが、無量大数と言っていいほどのモンスターの種類。
キャラメイクの際に測定される脳波や10000問ある中から質問される100の問いに答えることで、それぞれのプレイヤーに適したモンスターのアバターとなる。
さらにそこから行動次第で『存在進化』を繰り返し、完全なユニークモンスターとなることが出来るのだ。
そしてもう一つの注目された要素が『完全スキル&熟練度制』だ。
今ままでのゲームでもスキルはあったものの、完全なスキル&熟練度制のゲームはほとんど見ることがなかった。
その理由は単純に選択肢が多すぎて、どうしても中途半端なものしかできなかったから。
しかしこのゲームではそれが無い。
秘密のプロジェクトと進んできた『Monster Seeds』は何年もの年月を注ぎ込むことで無限に等しいスキルを完全再現することに成功したのだ。
そんな『Monster Seeds』が一気に有名となったのは、某動画サイトでの宣伝や質問会だった。
開発者がにこやかに説明する中、一人の男が質問した。
『モンスターである以上、人を襲うことがあるだろう。それは道徳的に問題無いのか』と。
そもそも他のゲームでも対人ゲームなどが発売されている以上、その事自体には問題が無いとなっている。
とても今更かんを拭えない馬鹿らしい質問だ。
動画を見ていた人々もそのことを理解し、無視して進行していくだろうとその様子を眺めていた。
だが、その予想は裏切られることとなる。
質問に答える役の『Monster Seeds』の開発者、彼もまた頭のネジが一本抜けた人だったのだ。
『確かにそれは問題ですね……でも心配ありません‼
この『Monster Seeds』では人間サイドの一部のモンスターにも『存在進化』できるようになっています。真に道徳面について考えている人ならば必ずそのモンスターに行きつくでしょう!』
ついでに言うと、この動画はミリオンを突破した。
それほどにその言葉は人々の心をくすぶったのだ。
そしてこの動画で開発者が言った言葉がある。
それは動画を見た人々の心の片隅にしっかり残っているだろう。
その言葉とは質問会の最後の最後、動画が終了する間際に放たれた言葉。
『皆さんは、山月記という短編小説を知っていますか? ……ええ、その国語の教科書なんかで出てくるあれです。
山月記では主人公が虎になっていますよね? あれは心の中に棲む怪物が虎だったからだと記憶してます。
『Monster Seeds』ではその心の中の怪物に変身することが出来るゲームです。
気になりませんか? 自分の本性が。
確かめるのは簡単です、ぜひ『Monster Seeds』をプレイしてください。
きっと貴方の本性と出会うことが出来るはずです』
◆◆◆◆◆◆
『Monster Seeds』の発売日、テレビでも『Monster Seeds』の宣伝が大々的にやっている朝。
一人の大学生がリビングのソファーに寝っ転がっていた。
「大学生なのにもったいない」と周りの人からは言われることが多いが、普通の大学生としては彼のような人のほうが多いだろう。むしろベッドから起きている分、いくらかましとも言えるぐらいだ。
そんな静かなリビングにケータイのバイブレーションの振動音が鳴り響く。
彼……秋野 曉はそんなケータイを目を瞑ったまま、手探りで探し出した。
そして気だるげに操作しながらケータイを耳元に持っていく。
「……もしもし」
『起きてる⁉ お兄ちゃん‼』
「ああ、起きてる。だからそんな大声出さないでくれ」
朝一番に大声に眠っていた脳が強制的に覚醒していく。
こんな電話をしてくるのは曉の数少ない知り合いでも一人しかいない。
そんな知り合いに電話越しに不満を吐く。
「それでこんな朝一番になんの用なんだ、紅葉」
曉をお兄ちゃんと呼ぶ彼女は秋野 紅葉、血がつながった妹だ。
ちなみに今をときめく花の女子校生である。
『なに言ってるのお兄ちゃん、もう朝じゃないよ。もうすぐお昼だよ』
「あ~、そうだっけ?」
紅葉はよくこうして曉の様子を確かめに電話してきてくれる、彼の妹ながらなんでこんな真っ直ぐに育ったのか分からないほどだ。
(ほんとに親なんて全く電話もないのになぁ)
おかげで彼の電話帳には紅葉のアドレスしか載っていない。
一人暮らしの曉にとっては唯一の良心だ。
『それよりお兄ちゃん‼ 今日は何の日かわかってるよね?』
「ああ、12時から『Monster Seeds』のサービス開始だろ? わかってるって」
『うん、よろしい‼』
(お前は何様だ……)
とは思ったが口には出さない。
この『Monster Seeds』は前から二人でプレイしようと楽しみにしていたゲームだからだ。
と言っても一緒に冒険したりするわけではないが……。
そして今日の12時から待ちにまった『Monster Seeds』のサービス開始だ。
このゲームはβテストは無かったもののネットではかなり有名なゲームだ。
どこかのサイトでは約50万人の人々がプレイするなどとも書かれていた気がする。
βテストが無い分情報はほとんどなく、廃人組がランカーになろうと血走っていることでも有名である。
そして曉も廃人ではないものの、紅葉と一緒にプレイできるということでサービス開始を待っていた。
『お兄ちゃん、ちゃんと先に脳波の登録と質問はやった?』
「やったぞ、かなり時間がかかるからな」
アバターであるモンスターの種族を決めるための設定である。
あれはモンスターの種類を決める為、かなり正確にしなければならないので時間がかかるのだ。
ちなみに、質問に答える間も脳波がチェックされる。そして嘘をついたことさえも一つの設定として反映させるらしい、本当に技術は進歩したものである。
設定が終われば残りのキャラメイクはサービス開始後となるが、何の前情報もないのでそれまでは暇なのだ。
「……そういえば紅葉は『Monster Seeds』で何をするつもりなんだ?」
『私は友達と集合したら、皆でゲーム内を旅してまわる予定だよ。
ワールドはかなり広いって噂だからね』
(友達か……青春してるな)
彼は自身の灰色……というよりも腐り切った青春にため息を吐きながら、紅葉の話に耳を傾ける。
『お兄ちゃんはどうするの?』
「オレか? そうだな……どこかに引きこもって生産プレイヤーとしてやっていこうかな」
と言ってもモンスターの種族次第なのだが。
一部のモンスターは生産活動にマイナスの補正が付くと噂になっていた。
『本当に動かないね……まぁ、引きこもるなら場所を教えてね』
言葉が終わると同時に通話がきれる。
どうやら気づかない間にサービス開始時刻が迫っていたらしい、曉ものそりとソファーからベッドに移り小型のVR装置を起動させる。
針の音が響く部屋の中、静かに長針が真上へと上って行くのを眺め続け。
「リンク・オン」
『Monster Seeds』サービス開始と同時に彼の意識はゲームの中へと沈んでいったのだった。
面白かったら、感想にブクマしてけぇぇぇぇえ‼wwww
面白くなかったら?
……すいません。