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0-8.成果1


 どのくらいその場で立ち尽くしていただろう。ナビィに声をかけられなかったらまだその場でぼうっと突っ立って居たかもしれない。


《魔獣反応あり。》


 はっとして視線をミニマップへ向ける。表示上の北と西の間、北西のあたりにオレンジの光点が二つ有るのを見て思わずびくりとする。襲い掛かってきたうさぎ魔獣の鋭い角で突進、皮膚が裂かれる感覚と痛み、奪った命への罪悪感が押し寄せ身動きが出来なくなる。思考がぐるぐる掻き回され、胸に気持ち悪いものが溜まっていくようだ。


 このままではいけない。目を閉じて鼻から大きく息を吸い、一気に吐き出す。


――……行こう。


 ここでうだうだして居ても始まらない。ぐっと気合を入れ、爪の先で眼下に転がっているうさぎ魔獣の死体に触れ無限収納(インベントリ)へ収納する。初めてやったが上手くいったようだ。

 アイテム欄を開いて確認しようと思考を巡らせた瞬間、アイテム欄が表示された。


――あれ、なんかメニューから開いた時と違う……?


 表示されたアイテム欄は、メニュー経由の時と違い上下の表示が無く、アイテム欄単独でウィンドウ表示のようだ。ナビィ曰く、メニュー機能を単独で呼び出す”ショートカット”と言う機能の様だ。この”ショートカット”を使えばより感覚的な操作が出来そうだ。

 メニュー欄の”すべて”タブのトップには先程収納した””損傷した一角兎(ワンホーンラビット)の死骸(損傷:中)”が鎮座している。選択すると右側に収納物の3D画像、その下部には収納物の説明文が並ぶ。3D表示の画像はどうやらいじれるようで、画像をタップすると中央へ3D画像単体が収納時の状態で大きく表示され、画像を回したり、拡大縮小したり出来る。凄いなこれ……。


 アイテム弄りはこのくらいにして、視線をミニマップに移す。眉間にぐっと力を込め、オレンジ光点を目指す。



◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



――……だぁら!!

「ぎゅいっ」


 その場で何度目かの斬手音が響く。振り切られた三本の爪が一角兎の肉を裂き、その身を地面へ叩きつける。一度その場で跳ねてから、赤い物を撒き散らしながら転がって少し先で動かなくなる。

 少し荒くなった息を整えながら、先の方で動かなくなっているうさぎ魔獣の元へ歩む。こいつで合計三匹目の成果だ。先のオレンジ光点は二つ共うさぎ魔獣こと一角兎だった。鑑定は未だ使える状態には至っていないが、倒した時のシステムメッセージやアイテム欄の表示でそうだとわかる。ちなみにもう一匹の一角兎は角が木に刺さった隙きに倒した。

 転がっている一角兎の死体を二つ共回収し、アイテム欄の”一角兎の死骸”の数も三つになる。一息ついてミニマップを見やると、すぐ後方から赤い光点が凄まじい速さで迫っていた。

 どっと冷や汗が吹き出る。


――うわぁ!?


 何かが突っ込んでくる!?と咄嗟に身を捻ると、大きく振りかぶられた尻尾に何が当たった感触を覚える。急な感触に、しかし緊急回避の為大きく身を振り回していた身体は止まらず、そのまま振り切って一回転する。

 何事か思って感触の先に視線をやると、それが弾かれただろう方向にそびえていた樹木には、潰れて色んな物を撒き散らした一角兎がへばり付いていた。ミニマップには既に赤い光点は存在しなかった。

 どうやら敵対状態の一角兎が突進してきた所に、咄嗟の回避で振られた尻尾がジャストミートしてしまったのだろう。ちなみにミニマップ上の赤い光点は誰かに敵対している個体を指す。


《一角兎を倒した。》

《”尾撃”スキルを獲得。》

――おお?なんか手に入った?


 ステータスを確認したいが、危険な魔獣ひしめく暗い森の中で無防備な姿を晒すのは如何な物か。先程盛大に呆けていたような気もするけど。

 何だか疲れたし、木にへばり付いている一角兎を回収したら一度あの河原まで戻るとするか。



◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



 オートマッピングの跡を頼りに森を出て、冷たい雫を脚から振り払いながら、自らが目覚めた大木の元まで戻ってきた。日陰に腰を落ち着けながら、アイテム欄のショートカットから倒した一角兎を全部で四体共取り出して眼下に転がす。


 これを、今から、食べる。


 ごくりと喉が鳴る。唾液は出るんだななんて考えが頭を通り過ぎる。

 比較的損傷の少ない”損傷した一角兎の死骸(損傷:小)”を掴んで眼前まで引き寄せる。滴る液体が手首から伝って肘まで流れて落ち、地面に赤い斑点を描く。インベントリに入っているアイテムは時間凍結の特性に拠り収納時のままなので鮮度は良さそうだ。

 前世でも生の肉なんて食べたことも無いし、こんな、さっきまで生きていた生物そのままの姿で食べる事なんて経験している訳もない。それを今から喰らうのだ。怖気づきもする。

 やたらと存在感のあるそいつの虚ろな瞳が、そんな訳もないのに自分を見つめているように思えた。息を吸って、吐く。やりたくはないが、やらねばならぬなら、やるしか無い。

 意を決し頭から齧り付く。

 ぐちゅりぐちゃりと肉を裂き押しつぶす音が口内から頭へ響き、次いで骨をごりごりばきりと砕く音がする。たまに柔らかいんだか堅いんだかよくわからない音と食感が咀嚼する意欲を萎えさせる。噛み付いた頭を胴体から引き離す為に引っ張ると、ぶちぶちと筋繊維らしき物がちぎれる音がする。口の端々から液体が溢れ垂れ、獲物を握っている右手は既に真っ赤だ。ごくりと異物を飲み込む頃、ふと気づく。


――……味が、しない……?

読んで頂きありがとうございますm(_ _)m


次回更新は火曜の予定。

次は、成果その2です。

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