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Re:ALIVE《リアライヴ》~不本意ながらドラゴンとして生きなおす~  作者: たつまる
第一章 アルヴィエール大森林
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1-59.中継都市へ

三人称視点です。


 リリアナが御者を務める荷馬車はかつて自身が所属した中規模冒険者パーティ内で使用していたもので、現在は主に風変わりな白い地竜シロの根城で寝泊まりするためのテント代わりになっていた。それがこうして、時たま森を出る際には再利用されている。中規模冒険者パーティとしてはかなりの位置に居た集団の所有物だった事もあり、そこらを走っているそれなりの行商人や村人なんかの荷車に比べれば豪華な部類の造りだ。

荷馬車を引くのは二頭の豪脚馬(グレートフットホース)と言う種の魔物。一見して、蹄の上部にそよぐ毛を蓄える以外は普通の馬と大差ない風貌をしているが、その実単体で普通の馬三等分の馬力を誇る。温厚で臆病な性格をしている為、魔獣ながらに家畜として重宝されている。大きな荷車も単体で牽引でき、乗馬すれば(まさ)しく翔ぶが如く旅程を短縮できるだろう。その能力もさることながら、馬の通常種と違い魔素の漂う土地でしか生まれてこない特性の為、これも主に裕福な者にしか所有できない高級品であった。

 シロ一行と行動を共にする様になってからリリアナらが所有したこの馬は一体だけではあったが、仲間の遺体を運んだ際その重量に対する牽引力に物足りなさを感じ、ユーラリエを出る際にもう一体入手していたのだった。


 そんな頼もしい荷馬車に揺られること一時間足らず、草地の切れ目から木造の建築物が覗く。一行はアルヴィエール大森林を出て一番近くにある”ラコガ村”に到着した。

 ラコガ村はダリア城下街とジャッシタリアへ続く交差路付近にあり、麦や家畜を飼育する数十人規模のそれほど大きくない村だった。設けられた木製の腰丈の柵に切れ間があって、横に長い内開きの柵扉は空いたままになっている。

 一行はラコガ村へ立ち寄って村長のティレンと、馬の世話を頼んでいるダニーと言う名の青年に子供達を紹介した。今後子供達単独で森を出ることがあるかも知れない。その為の顔繋ぎだった。当然元奴隷だとか、気の良い魔獣と共に生活しているだなんて伝えることはないが、素性が不確かでは受け入れられずらいのも事実。紹介と合わせて村の者達には彼らはさる貴族らの子弟で、自分達はその指導役だと言うことにした。村長が長いものに巻かれるタイプの人種であった為深く突っ込まれる事もなく無事に渡りをつけることが出来たので、一行はラコガ村を後にした。


「リリアナさん。これからどこに向かうのですか?」


 荷馬車が進み、村が見えなくなった辺りでユーライカが手綱を握ったリリアナにそう訪ねた。ユーライカを含め、子供達は今後の予定を聞かされて居なかった。


「ひとまずジャッシタリアに行って君達の装備を新調する。道中で野宿する予定だから、その間で出来る範囲の勉強をして貰うよ。」


 ジャッシタリア。アルヴィエール大森林を(よう)するダリア公爵領の隣領、グリッジ伯爵領の東端に位置する中継都市だ。シャルドネリオ伯爵領の領境も接する場所に位置する為、三領の合流地点として結果的に商業も栄え、領都並の大きさを誇っているのだ。公都アルハリアへ直結する整備道”ハイウェイ”の乗り口が有る事も、このジャッシタリアの重要性を引き上げている要因である。

 ラコガ村からジャッシタリアまでは通常、荷馬車三日四日はかかるがグレートフットホースなら、それも二体で荷車を引けばおよそ二日程で到着出来るだろう。


「日が暮れるまで馬を走らせるですからそれまでは…よいしょ。魔術のお勉強です!」


 御者台に座っていたルーリエが仕切りを跨いで荷台へ移動すると、リリアナが「危ないぞ。」と背後を見ずに言った。

 荷台に散らばっていた子供達がわぁとルーリエの元に集まってくる。ルーリエの魔術授業が始まった。


「皆は既に体内の魔力を感じる事は出来ているです。ルーデリアは既に先行しているけれど、全員にこの旅の間で魔力操作の次の段階と呪文の初期講座を終えて貰うつもりです。」


 説明を聞いて子供達が思い思いに返事を返す。ルーリエの口角が得意げに上がった。仁王立ちで腰に手を当て、実に気分が良さそうだ。


「わたしの指導は厳しいですよ!まず――。」


 ルーリエが言いかけた時、がたんっ、と荷台が跳ねてたたらを踏んだ。肩越しにリリアナを睨んだが何事もなく荷馬車は進んでいる。車輪が小石でも踏んだようだ。「すまない。続けてくれ。」とリリアナがこちらを見ずに言うのを聞いて、少し間を開けて「んんっ。」とルーリエも咳払いをして仕切り直した。


「……走行中の荷台では文字の練習は出来そうにないので、口弁だけにしておくです。」


 ぽすんとその場に座り込み、腰のベルトにぶら下げている荷物鞄に手を突っ込んで一抱えほどの木の板を取り出した。板の表面には何やら描かれている。


「魔術を発動させるに必要なものは大きく分けてふたつ、それが”魔力と呪文”です。皆は既に自分の中にある魔力を感じる事が出来ていると思うですが、その魔力に意味をもたせる文字列が”呪文”です。」


 そこで視線を下げて皆に板を見るように促した。


「これに書かれている文字が呪文を構成する為のルーン文字と呼ばれるもので、基本文字だけで26文字あるです。他にも下位文字や記号文字がいくつかあって、それらが組み合わさって意味を成す文字列を”呪文”、”ルーンスペル”と呼ぶのです。短くスペルとかルーンとか言うこともあるです。」


 ふんふん、と子供達が新しい知識に前のめりに聞き入っている。ルーリエは説明に合わせて板の上の指を滑らせた。


「これが基本文字です。初めの文字が”チー”。これでひとつの文字ですね。次の文字は”ゴー”、その次が”ソー”と読むです。基本文字には下位互換の文字が同じ数だけ合って、基本文字を大文字、下位文字を小文字と言うのが一般的ですね。」

「むぅ、よくわかんない。」

「こらクロ。静かに聞いていなさい。」

「今はわからなくても良いのですよ。一通りの説明が終わったら、後から細かく教えていくですから。」

「あい。」

「すみませんルーリエ、続きをお願いします。」


 ルーリエは一つ微笑むと言葉を続けた。


「それぞれのルーン文字はそれ単体ではなんの効力も示しません。文字をつなげて文字列にし、意味を持たせなければいけないのです。例えばこれと、これと……。」


 そう言って、ルーリエは板のいくつかの基本文字を示すように動かした指を戻して上を指した。


「これらを組み合わせると……”トスモチリリ ハニスイ”。」


 ルーリエがよく分からない言葉をつぶやいた瞬間、彼女の天を指した指先からわっと火が溢れた。それは「わあ!」と声を上げた子供達が受けた印象よりずっと小さい火だったが、それでも十分インパクトが有ったし、一瞬の間薄暗かった荷台の中を確かに照らした。

 指先から火を起こした当人は得意げだが、事もなしと言った風に説明を続ける。


「こうなるわけです。」


 大きく騒ぎはしないものの、子供達が発する興奮の熱がルーリエにははっきりと感じ取れた。以前には箒で空を飛んだり、魔獣との戦いでは人形を操っての戦闘も子供達は見ているはずだけど、と思いながらもどこか照れくささが彼女を襲う。前を見たまま茶化すような声色で「幌を燃やさないでくれよー。」とリリアナが声をかけて来て、勿論そうならないように加減していたルーリエは、なんとなく面白くないと鼻を鳴らした。


「実は今の火起こしは魔術としては出来損ないです。なぜかわかるですか?」

「ひ、火は出てたのに失敗なんですか?」


 エトが疑問を投げかけたが、ルーリエは頬を上げたままで答えようとはしない。そもそも子供達は魔術の素人だ。正解も不正解も分かる訳が無い意地の悪い質問だったが、そんな中声を上げたのは少し考えるように俯いていたルーデリアだった。


「もしかして、持続しなかったからですか?火は出たけど、すぐに消えちゃったからかなって。」


 それを聞いてルーリエがにっと歯を見せた。


「さすがですね。その通りです。あの様に一瞬で消える火では薪に着火することも出来ないです。魔術として成立させるには”事象の発生”に加えて、”持続性”と”指向性”を付け加える必要があるのです。今の火にはそれらが無かった。故に出来損ないと言ったのです。よく出来たルーデリアに拍手です!」


 わあ、と皆の賛美の雰囲気にルーデリアも照れを隠せない様子だ。


「ではちゃんと成立している魔術を披露……したい所ですが、ここで見せるのはやめておくです。わたしはそんなヘマしませんが、万一引火しても困るですからね!」


 勇ましく自分の危機管理能力を誇っているルーリエだったが、そんな彼女が背後を気にしている素振りをユーライカは見逃しては居なかった。


「呪文の簡単な座学はここまでです!次は魔力操作の実技訓練ですよ!」





 日が暮れる前に近くに見つけた小川の傍で停車し野外キャンプの準備に取り掛かった。川魚も泳いでいない沢だったが、飲料水の確保には十分だ。

 この日から本格的にシロの保護下ではない野外での生活を余儀なくされる事もあって、一にも二にも冒険者達の教えを請うことになる。ユーライカ以外、奴隷になる前の生活ではサバイバル生活を行ったことが無いこともあって皆は真剣だ。クロは生まれながらに奴隷だった為言わずもがなだろう。とは言え、野外での生活と言うのならばシロの元での経験もあってずぶの素人と言う訳でもない。細かな知識の補完などを行ってやれば皆無難にこなすことが出来ていた。

 食事などもこの日は狩りをせず、ベースで作って持参した干し肉などの保存食と簡単なスープで済ませる。リリアナの言う所だとジャッシタリアで準備を整えた後から本格的に狩猟なども行って行くそうだ。

 この遠征の目的はユーライカ以下子供達に外での振る舞いや生きる術を経験させる事にある。シロとしても、このまま子供達を抱え込んで行くつもりは無く、いずれは自分の元を子供達が離れて行くこともあるだろう、と言う前提で備えをさせたいのだとリリアナ達は事前に聞かされていた。

 シロの元に残るも離れるも、子供達が選択出来るようにしたい。その事には彼女らも異を唱えることはしなかった。


 食事が済んで、子供達は昼間の訓練の続きを自主的に行っていた。ルーリエが与えた次なる課題、体内魔力の移動訓練だ。

 子供達は全員、既に己の身体に内包する魔力を感じ取る訓練は習得している。今度はその体内魔力を体外へ移動する練習をするのだ。ルーリエから与えられたそれぞれの拳に収まる程度の空の魔石を握って、その中に自分の魔力を移していく。魔石をいっぱいにした後は入れた魔力を抜く訓練だ。

 言うは易し。一見簡単に思えるこの”魔力移動”は、その実凄く体力を使う。最初は魔石に魔力を注ぐだけでへとへとになってしまう。

 いち早く自己内魔力感知訓練を終えたルーデリアは既に先行してこの訓練を行っていたのだが、その体力の少なさもあって遅々として進捗は進んでいなかった。他にも早く最初の訓練を終えた者は居たのだが、ルーデリアは自ら進んで先行したいと申し出てきたのだ。ルーリエは初め、全員一度に次の訓練を行うつもりだった。けれどルーデリアの申し出、その熱意に応えるように方法を教えていたのだ。やりたいと言うのだからやれば良いとはルーリエ言。まあ、先述の通り元々他の子に比べ、比較的体力の無いルーデリアは教えられた初日に張り切り過ぎて倒れて以来、ルーリエの指導の元、就寝前の少しの時間だけの訓練に留めていた。

 本日が初日だった他の子供達もこの魔石を使った魔力操作訓練にグロッキーに陥りかける者も出たが、ルーデリアの失敗談を前もって聞かされたので卒倒する事は無かった。とは言え相当の負担を受けたのは事実で、その日は冒険者達が見張りを買って出たこともあって早めに就寝をとったのだった。


 翌日も早くから準備を済ませて剣と魔術の訓練を行った。

 昼を過ぎてから荷馬車を進め、日が暮れる前に宿泊地を定め訓練を行い、夜は当番を決めて夜の闇に警戒する。野党や魔獣と遭遇することも無く、次の日の昼には中継都市ジャッシタリアへ到着したのだった。


「おっきい……。」


 聳えるように行方に立ちふさがる石壁はジャッシタリアへ続くダリア領側の関所だ。切り出した石を幾重も積んで出来た石壁の切れ間に空いた門の入り口は、石柱を挟んで三叉の口が開いていた。その門の前には何台かの荷馬車とヒトが列を成し、自分達の検閲の順番を今か今かと待ち構えている。


「まだ暫く入れそうにないですね。」

「まあこればかりはな。」

「あちらの列は進みが早いようですが……。」


 一行が並んでいるのは門の右口で、ユーライカが指した左口には別の入場列が出来ていた。ちなみに真ん中は両サイドより広く幅を取っていて、ジャッシタリアから出る為の道として空いている。


「あれは貴族や豪商用の検閲口だ。検閲らしい検閲はしないからこちらよりは余程早いんだ。」

「貴族用ですか、なるほど……。」

「まったく、何の為の検問なんですかね。」

「ぼやいてても列は進まないぞ。」


 悪態を吐くルーリエをリリアナが嗜める。貴族達が傍に居るのだ、聞かれでもしたら大事になるだろう。とは言え彼女らもある程度高名な冒険者だ。貴族との少しくらいの交流は経験があるので、そうなってもなんとかなりそうな気もする。

 ひとつ、ひとつと時間をかけながら前に進む。あと五台の所まで来た。


「もうちょっとだね。」

「見て、中が少し見えるよ。」

「ク、クロちゃん寝ちゃった?」

「寝かせておきましょう。」


 子供達が静かに騒いでいる間にまたひとつ前に進んだ。御者をしているリリアナも手綱を揺らして荷馬車をゆっくりと前へ進める。

 そこからは順調に進んで、前が終わればやっと自分達の番だ。隣の出立口が何やら騒がしいが、そもそも周囲の喧騒も静かだとは言えない。気にしても仕方がないだろう。


「ん?おいおいリリアナァ!こんな所に居やがったか!探したんだぜ?」


 不意に隣から聞いたことのある声が、いや怒声が聞こえて顔をしかめた。眉根を寄せてリリアナがそちらを見やると、案の定見知った相手と目が合った。隣でルーリエが「げっ。」と悲鳴を上げる。


「騒がしいな、ケイベイン。……一体なんの用だ。」

「ツレねえじゃねえかリリアナァ!この俺様がわざわざ追いかけて来てやったってのによお!」


 ケイベインと呼ばれた亜人の男は身長が二メートル以上ある大柄で、御者台に座っているリリアナと目線が合うほどの巨躯だ。深い赤色の髪を後ろに流し、丸太のような二の腕を大仰に振るって話している。腰の後ろには斧を二本ぶら下げており両サイドにも大鉈袋を吊っている。如何にも何事も力で解決してそうな、実に乱暴そうな男であった。二人の態度も、彼への嫌悪感を隠そうともしない様子だったし、そう言うことなのだろう。


「あらケイベイン。お目当ては見つかったのね。じゃあさっさと帰りましょうよ。」

「おうベニタ!さっさと引き返せ!」

「お前達何をしている!後ろがつかえてるんだぞ、先へ進め!」


 ケイベインの背後から橙の短髪女が気だるそうに顔を出した。一見して猫人族(キャットマン)のようだがはっきりはしない。身軽そうな装備を身に着けて腰にはナイフと短刀を吊っているのが見える。ベニタと呼ばれたその女にケイベインが返事をして、さらに後ろへ指示を飛ばした。

 今の男は門兵だろうか、壁になっていて見えないがまあ恐らくはその通りだろう。何やら揉め始めた様子だが、丁度こちらの順番が来た。担当の門兵に促されて前へ進む。背後から「あ、おいリリアナ!待ちやがれ!」と怒声が聞こえたが無視だ。荷台で子供達が震えているのが見えないのか、迷惑な男め。

 順番を無視して追いかけて来ようとした所を門兵に止められ、逆上して殴り倒した所為で他の門兵が殺到する事態になったが、それでも我関せずと手続きを進めるリリアナとルーリエ。


「この野郎……!俺様は諦めねえぞリリアナァ!!」


 男の叫びが、虚しく門に木霊した。 


読んで頂きありがとうございますm(_ _)m


もう年も暮れますね。というわけで今年最後の更新です。

今回はシロのダンジョン話するか、子供達の森外での修行話にするかで悩み、いざ修行話にすると決めても今度は誰視点で進めるかで悩み、書いては消し書いては消しで無駄に時間を浪費した気がします。

とは言え無事に更新できてよかったです。


来月から暫く更新が止まる事が予想されます。次回更新(したい)予定は3月くらいに出来たら良いな。それ以前に更新できそうならしますけど、リアルが忙しいと手がつけられなくて困りますね。

まあ元々更新ペース早い方ではないむしろ遅い方なので、気長に待っていてくれると嬉しいです。


書いたら即アップしてるので誤字脱字多いと思います。指摘してくれると嬉しいです。そういう機能ができてもまだ使ったことないですしね!


それでは新キャラも出てきてどうなる執筆スピード!まて次回!

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