1-52.団欒の報告会
おまたせしました。
「騎士が来ていたのです?」
三日間の遠征から戻っての夕食後焚き火を囲み、リリアナ主導で皆に探索の成果を話し聞かせていた。話題は帰路の際遭遇した騎士達の話へと変わり、話し始めだと言うのにルーリエが軽く驚いた風に声を上げた。
「ああ。驚いたよ。ギルドがダリア領主にどう報告したのかわからないが、たった10やそこらの人数で来るなんて。」
「確かに変な話です。」
リリアナの冒険者パーティは業界でも名の通ったチームだったらしい。そんな実力者集団が無残にも全滅したと言う報告が成されているなら、もっと大人数で事に臨む出来だろう。しかし実際派遣された兵士はリリアナのパーティよりも少ない人数だったのだから、当事者二人には不思議に思えるのも当然だ。
「だからシロ殿にお願いして、彼らと話をする事にした。」
彼らが何をしにこの森へ来たかや少人数な理由など、その他何かしらの情報を引き出したいとリリアナは考えていた様で、ボクとしては却下する理由も無い。流石にボクがリリアナに引っ付いて彼らと話をする訳にも行かないし、如何な兵士と言えど良く知りもしない連中の下へ女身一つで行かせるのもなんだか気になってやいのやいのと打ち合わせをしている内に、先程取り逃がしたオラウータンの様な猿魔獣、”アルヴィエール手長猿”が結界を越えて彼らに襲いかかった。
「見捨てても良かったんだが、彼らは情報源足り得た。」
リリアナの見捨てる発言を聞いて内心で一瞬面食らったが、ルーリエも平気な顔で「そうですね。」と相づちを打っているし、周りで聞いている子供達にも表情の変化は見られない。リリアナのこの台詞は裏を返せば「メリットが無ければ助けない。もしくは助ける必要が無い。」と言う事だろう。一瞬、意外とシビアな考えだと思ったけれど直ぐに考えを改めた。たまに忘れそうになるが、ここはボクが生きていた世界とは違う場所、異世界だ。現地民たる彼女らにとって、それは当たり前の感覚なのだろう。まあ、ボクも全く関係の無い赤の他人なら、メリットも無いのに敢えて助けようとはしないだろうけどな。それが普通だよな。
変な事を考えていた所為か、湧いて出た申し訳無さを払拭する様にボクは言葉を吐く。
「そこで、ばっ!っとリリアナが颯爽登場ですよ。ちぎっては投げちぎっては投げされる兵士達を庇って大猿と大立ち回り!」
「シ、シロ殿。」
「その喋り方なんなのです?」
ボクが勢いで語るオーバーな解説にリリアナは困惑していた様だけど、話を聞いていた子供達は楽しんでくれた様で、拙い言葉ながら口々にリリアナを称賛した。それを受けたリリアナの、照れた様に恐縮する様はまんざらでは無い様子だ。
称賛の声が止む前に、咳払いをしてリリアナが話を続ける。
「んんっ。でも結局、私一人では対処しきれなくなってな。シロ殿が助けに入って下さったお蔭で事なきを得たよ。」
「え、騎士たちの前に出たのですか?」
「やむ無しやん?」
殺られかけて居た男は、どうやらあの兵士達の中で一番階級が上の貴族らしかったし、リリアナがスムーズに情報を得る一助にも成るだろうと、ボクは”咆哮”スキルを乗せつつ雄叫びを上げた。
しかしそれが予想外に効果てきめんだった様で、猿の動きと一緒に兵士達の動きも止まってしまい、変にしんと静まり返ってしまった。飛び出すつもりで居たのだが、何と無く気まずい思いをしつつ周りの様子を伺いながら進むが、猿を含め誰も一向に動き出す気配が無い。こちらを見やる幾つもの視線が畏怖を訴えているのが刺さる様にわかった。これ以上怖がらせて驚異認定されるのも御免だし、出来るだけ呆気無く目の前の魔獣を処理してしまわねばと思った矢先、アルヴィエール手長猿が振り上げていた拳が動き出すのが分かって、咄嗟にヤツの首元に喰らいついてしまったのだ。噛み付いた瞬間「あっ。」と思ったがこんな距離で暴れられても困るのでそのまま引き倒し押さえつけた。抵抗が有るかと思ったが、引き倒した拍子に首の骨が折れた様で、抵抗らしい抵抗も見せずそのまま絶命して逝った。当初の予定より大分血なまぐさい殺し方になってしまい内心の焦りを抑えたが、ずっとその場に居る事も出来ない。”無限収納”にしまうのも逆効果になる可能性も有ると思い、直ぐ様収納せず森に入り見えなくなるまで引きずって行った。リリアナが咄嗟に叫んで制止たお蔭で騎士達に攻撃される事も無く、無事にその場を離脱出来た。彼女が言った通りで、ボクに攻撃でもしようものなら直ぐ様ぶっ殺していただろうから、リリアナには感謝である。
先程の意趣返しのつもりか、装飾過多でその時の様子をリリアナが語っている。それに拠るとどうやらあの後、あの場に居た兵士達の間では「あの白い地竜には手を出してはならない。」と言うのが共通認識として確立したそうだ。下手な恨みを買って追い回される様な事態にならなくて本当に良かったと思う。
リリアナが良い様に語った所為で、子供達の称賛攻撃がこちらへ向いて、やいのやいのと褒められる。ぬぅ、これは照れる。子供達が無意味にボクへの賞賛を投げかけてくるのにはもう慣れたつもりだったが、まるでヒーローを見る様な熱量で言われるとボクの耐性は紙っぺらで有ると思わずには居られない。
こう言う時は最年長のユーライカに他の子を嗜めて貰いたいのだが「シロ様ならば当然ですね。」とどこか得意そうにしているので期待は出来ないだろう。むしろ彼女が率先して他の子を煽動してる気がする。
「それで、騎士たちから話は聞けたのですか?」
「ああ。だが、期待したような話は無かったよ。」
緩んだ空気の中、若干呆れ顔のルーリエが話を戻す。それに答えるようにしてリリアナも、一息吐いてから続けた。
「シロ殿が場を去った後、部隊を指揮していたバルトリヒト准男爵と言う男が騒ぎ出してな。エイデンと言う名の士爵が代わりに答えてくれたよ。」
えっと確か、エイデンと言うのはリリアナが物理的に踏み台にしていた男だ。その男の話に拠れば、バルトリヒトと言う貴族の坊っちゃんは大変困った男らしく、この森で起こった事件の事を聞きつけて魔獣討伐に志願したそうだ。周りの反対にも耳を貸さず、最低限の人数だけで強行軍に出た。少人数で冒険者が手を焼いた魔獣を討伐したと言う武勲が欲しかったらしい。しかして、件の広場には魔獣一匹居らず、森へ入る装備も連日の行軍準備も無く飛び出した為、一旦出直そうと来た道を戻る道程に猿魔獣の襲撃を受けた。そんな危機的状況に有った彼らを助けたリリアナに、エイデンはいたく感謝していたらしく、持て成したいからとエイデン宅へお招き頂く程だったそうだ。
情報収集の為とは言え、森を離れて貴族の家に行くつもりなど毛頭無かったリリアナは誘いを素気なく断り、礼ならばと代わりに話を聞こうとした矢先、バルトリヒトが喚きだして遮られ、一行はそのまま帰ってしまったそうだ。
「本当はダリア領の情勢や今回の件についての探りを入れたかったんだが、そんな隙きはなかったよ。」
「まあ、あのろくでなしが側に居たのではまともな会話なんて無理ですし、彼らの来訪理由だけでも聞けたのですから、十分な成果だと思うですよ。」
「すまん、ありがとう。……その言い草では、ルーリエは准男爵を知っていたのか?」
「……ええ。以前、銀級へ昇級した時に公爵から城へ呼ばれたのです。」
「ああ……あの時か。心底嫌そうにしていたのを覚えてるよ。」
二人には共通のエピソードだったらしい。当時を思い出したのか、リリアナが苦笑いをこぼせば、ルーリエは溜息を吐いた。
「あの高慢な態度、今思い出しても腹が立つのです。これだから……――。その時に絡んで来たのがあの三男坊です。」
「そう言えば貴族のぼんぼんに迫られた、って酒場の隅で管巻いてたっけ。」
「もう!あれの話はもういいのです!……ともかく、あの男には何も出来ないのですから、特に警戒する必要もないですね。」
「……ん?でも、そんなんでも領主?の息子なんやろ?何もでけへんって事あんのん。それこそ、大軍勢率いて森に入って来られたら迷惑なんやけど。」
「領主の息子と言っても第二夫人の長子で、歳の順では三男坊です。軍を率いる様な権力なんて持ってないですよ。ダリア公爵の第一子で、正当な次期領主のアデルブランへの嫉妬心と対抗心だけで動いてる様な男ですから、放っておいても問題ないです。」
「ふうん。ならええけど。」
正直、公爵だ領主だなんだかんだと言うのはよくわからないので、ルーリエがここまで太鼓判を押すのだからひとまずは気にしなくていいのだろう。こっちに迷惑がかからなければ何でも良いのだ。
こちらの報告が終わると、今度は留守番組の様子を聞く段となった。
基本的には普段通りで、午前は食事が済めば体力作りと筋力トレーニングに加えてリリアナに習っている剣術の自主練、午後は夕食の準備を始めるまで魔術の勉強と訓練をして過ごしたそうだ。
「二日目からは予定通り森へ入ったです。」
「お。どうやった?同行すんのは初めてやったやろ?」
「悪くなかったですよ。拙い部分も多いですが、同世代の駆け出し達よりはずいぶんとましですね。」
ルーリエには僕らの不在中に森へ同行して欲しい旨を伝えていた。リリアナと度々行っていた内森遠征の成果か、現役の魔術師系冒険者の目から見ても子供達の成長は著しいらしい。子供達にはこのまま冒険者に師事して訓練を続ければ、近い将来この森を離れて冒険者として生きて行く事も出来る様に成るだろう。
当初、子供達には自衛出来る力を付けさせる事だけが目的で始めた訓練ごっこだった。けれど目に見えて、目を見張るほどの成長をこの短期間で成し遂げた彼らには、きっと元から素質が有ったのだ。レベリングと言う、この世界では有る種のドーピング行為も有ったとは言え、現役の名の有る冒険者の目に留まる程なのだからそうに違いない。
そんな彼ら彼女らをいつまでも得体の知れない魔獣の側に置いておく必要は無い。子供達がボクの様な魔獣にかしずいているのは、ひとえに自身らの身の安全を確保する為だ。子供達自身が自衛出来る能力を獲得すれば、ボクはお払い箱に成る。勿論彼らがここに残りたいと言えば無碍にするつもりもないけれど、それ程の物好きでも無いだろうから、心の準備は必要なのだ。
リリアナがルーリエと子供達の活躍がどうとか、今後の教育方針について脱線し始めた辺りで、エトとクロがひょっこりと脇に覗き込んで来た。自身を隠す様なエトを背後に連れたクロが何か言いたそうにしている。
「シロさま。」
「うん?どしたん。」
「あのね。あのね。」
言葉をまごまごさせている様を見て、「ああ、褒めて欲しいんかな。」と思い、すっと手が伸びた。クロの頭にぽん、とボクの手が乗った所で、自分の手がごつく鋭い爪の有るそれだと思いだして、咄嗟に僅か手を上げる。流石にこんな凶悪な手で子供に気安く触れるのは危険だものな。
一瞬呆気に取られた様な顔をしたクロが、瞬間我に返り、離れ行くボクの手を、と言っても実際は指をだが、はしっと掴んで頭を掌へ擦り付けた。なんだ、やっぱり褒められたかったのか、と思った所で他の子らも呆気に取られた様な顔をしているのに気づいた。何?
「あ、あの!ぼくも!おながいしまふ!」
普段滅多に聞かない声量で叫んだのは、未だボクの手に頭を擦り付けているクロの後ろに居たエトだ。「え?何を?」と思ったが、クロがやってるこれか、と直ぐに思い至って頭の上の手を移動させた。
逃すまいとしたのか腕にクロがしがみついて来たが、何だか引っ剥がすのも一苦労しそうなのでそのままエトの頭を撫でる。爪が当たらない様に注意しつつ、出来るだけ柔らかめの所で撫でてやると、髪が動いて普段は見えないエトの瞳が髪の隙間から垣間見えた。後、どうでもいいけど子供一人腕にしがみついているのにまったく問題無く腕を振るえる事に内心驚いている。すげえなボクの身体。
「こ、こらっ。あなた達、不敬ですよ!シロ様にそんな、撫でて頂くなんてうらっ、いえ、あの。」
「シロ様。僕も後でお願いできますか?」
「ル、ルーデリア!」
何故か突然わたわた仕出したユーライカを横目にルーデリアも希望してきた。皆そんなに撫でられたいの?と思ったが、良く良く考えなくてもこの子らはまだ子供だし、親も無いんだから、人肌恋しくなる事も有るか。提供出来るのは鱗肌ですが。
思えばこれまで、相当な頑張りを見せている子供達に、言葉以上の労いなんてして来なかった気がする。これを期に、そう言う事もするべきだろうか。求められるなら。
別にええでと了承した所で、アリーもご希望の様子だ。
「ではわたしもお願いします、シロ様。」
「アリーまで!?」
「こんな機会滅多にありませんもの。ユーライカもお願いしてみてはいかがですか?」
くすくすと悪戯っ気たっぷりにそう言うアリーに、ユーライカは顔を真赤にして言葉を失ってしまった。頭を撫でる程度の事でよくそんなにはしゃげるもんだ……。ん?そう言えば、生前のボクは誰かの頭を撫でる、なんてこんなに自然に出来た記憶が無い。機会も無かったし……人外になってボクの中身にも多少の変化が現れているのだろうか。まあ、あの時とはもう、決定的に違っているもんな。
「ええよ、別に減るもんじゃ無し。」
「シ、シロさまぁ。」
「ユーライカも。せんでええなら無理にとは――。」
「お、お願いします!わたしも!おねがしますっ!」
「お、おう。」
どうやら彼女もやって欲しかったらしい。
この娘だけは本当にちょっとボクに入れ込んでる、と言うか過大評価してるきらいがある。やっぱり種族的な好感バイアスが掛かってるのだろうか。ほら、創作の世界の蜥蜴人ってそう言うとこあるし。有る種の好感チートだな。
恐らくは思春期における身近な年上への好意に近い物だろうから、好かれているからと言って調子に乗ってはいけない。痛い目を見る事になる。ボクは知ってる。
そんなこんなで一巡して、二巡目をせがまれた辺りでルーリエの冷たい視線に耐え切れなくなったので、今回はここで終わりにします。
子供達の名残り惜しそうな様子にもめげず、ルーリエへ脱線したままだった話の続きを促した。
読んで頂きありがとうございますm(_ _)m
たいっっっへんお待たせいたしました。まさかほぼふた月も開くとは……何度もリライトしたりゲームしたりぼんやりしている内にこんなに遅くなってしまい申し訳ありません。これじゃあ休止状態の時と大差ないや……。
次回もまた空いてしまうとは思いますが、気長に待っていていただけると幸いです。
報告会は次回にまたぎます。少しだけ(予定)。
話が転がるのはいつだ!前置きが長くなってしまうのは悪い癖ですね。
では、また次回、よろしくおねがいしますm(_ _)m




