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Re:ALIVE《リアライヴ》~不本意ながらドラゴンとして生きなおす~  作者: たつまる
第一章 アルヴィエール大森林
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1-49.先延ばしの決意



 僅かな物音に意識が呼び起こされる。この身体になってから眠りも目覚めも嘘みたいにすんなり行え、それはアバターに入っている今この時も同じだった。

 クッション越しの本体にもたれ掛かった状態で薄ら瞼を持ち上げると、燻っている焚き火沿いの丸太に影が二つ。ルーリエとリリアナだ。二人の服装は日中の物と違い随分とラフだ。いつも就寝時に纏っている寝間着の様な物だろう。周囲は未だ暗いままで、ARの時刻表示から午前四時を半ば過ぎた辺りだと分かる。

 木の棒でまだ赤い焚き木をつっつき再燃させようとしていたルーリエが僕に気付いた。


「起こしてしまったですか。」

「んん……いや、気にすんな。そっちはどうしたん、こんな時間に。」

「リリアナが目を覚ましたので、付き添いです。」

「ふぅん。」


 ルーリエの向こう側に視線を投げると、寄り添う距離に座っているリリアナは俯き加減で静かにしている。まだ本調子では無いのだろうと思ったが、時折こちらに視線を向けては気不味気(きまずげ)に戻す様を見るに、意識ははっきりしている様だ。

 気不味いのはお互い様だよな、と思った所でそう言えば彼女はあのときの事を覚えているのだろうかと気になった。しかし直接聞くのも違う気がして、結局は言葉にならない。

 誰も話さない沈黙も、少しして再着火を終えた焚き火の熱が漂って来る辺りで晴れた。


「やっぱりこの時期でも日の出前は少し冷えるですね。」


 そう言えば少し肌寒い。本体時はどうって事は無いけれどアバターだと少し冷えるな。それでも掛け布団が有るので苦では無い。

 日本の様に四季が回るのだとしたらまだ夏にも成っていないんだろうけど、そもそもこの世界は一日の時間も一年の日数も違うので日本での感覚は当てにはならないかも知れない。少なくとも夏ほど熱くないし冬ほど寒くないので、体感では春だと思う。

 目をやると二人も少し寒そうに肩を震わせていた。


――何か暖かいもんでも……いやでもお茶もコーヒーも無いしなぁ。


 まあお湯でも無いよりはマシだろうと食事時用にクリエイト機能で作った木製コップにこれも瞬時に沸かしたお湯を注いで出してやろうかとすると、どうやら白湯も作れるらしい事に気が付いた。どうやらお湯とコップを用意していると白湯にする事が出来るらしい。

 実は白湯って詳しく知らないんだけど、何か身体に良いらしい事とただのお湯とは違う事と、後白湯は別に白くない事は知っているので作れるならこいつを出してしまおう。

 クリエイトで作った白湯入りコップを両手に持って立ち上がる。身体から掛け布団がするりと落ち、ルーリエが視線を上げた。


「ほい。」

「どうも、です。……なんです?」

「白湯。なんも無いよりはええやろ。」

「……毒です?」

「はいはいわろすわろす。ええから飲め。ほら、リリアナも飲み。(あった)まるで。」

「っ……あ、ありがとう。」


 湯気の立つ木杯をくんくんと嗅いで疑るルーリエに雑にツッコんでリリアナにも渡す。ルーリエも本気で疑っていた訳では無い様で、んべ、とこちらに威嚇をした後はこくりこくりとゆっくり盃を傾けていた。リリアナも数口飲んでほう、と吐息を漏らす。


「あったかい……。」

「得体は知れないのになんだか落ち着くですね。」

「さいで。」

「でも、本当に落ち着く……――っ。」

「へっ?」


 白湯を少しずつ口に運んでいたリリアナが突然ぽろぽろと涙を流し始め、思わずぎょっと成る。彼女の溢れ出た涙は止む気配は無く、押し殺した嗚咽が聞こえ始めた。いや、本当に突然でパニックだ。え、なんで泣いてるの?おじさん何か悪い事した?

 どうやらプチパニックなのはボクだけでは無い様で、ルーリエも上ずった声を上げてリリアナに声をかけた。


「リ、リリアナ!?どうしたです?やっぱりこのオオトカゲに毒でも盛られて――。」

「ただの白湯ですけどぉ!?」

「ずず……っ、ちがっ……ふぐ、ぐず……ぅうっ……。」

「大丈夫、大丈夫ですよ。悪いトカゲはわたしが追い払って上げるですよ。」


 咄嗟にツッコミたい気分になったが、ルーリエがわざと(おど)けているのが分かるので野暮な事は出来ない。

 そんなルーリエの慰めの甲斐有ってか、暫くしてリリアナも泣き止んで落ち着いて来た。 


「ぐすっ。……すまない、急に……。」

「リリアナ……。」

「ありがとう、ルーリエ。」

「気にしなくていいです。」

「ふふ、お前は良いやつだな。」

「……そうですよ。わたしは良いやつなんです。」


 なんだか微笑ましい百合百合したやり取りじゃないか。勿論ボクは心得ているので会話に入って邪魔したりはしない。自分にもたれながらただ静かに眺めるのみだ。ボクが生暖かい視線を送っていると「シロ殿。」と声をかけられてどきりとする。視線の下心を気付かれたか?


「今回はその、本当に申し訳ない事をしたと思って、います。」

「ん?いや、こっちこそ――。」

「いえ。お恥ずかしい話ですが先程の私は明らかに、自分を見失っていました。挙げ句、自らの軟弱さまで露呈してしまった……。」

「リリアナそれは――。」

「いいんだ、ルーリエ。言わせてほしい。」


 そう言った彼女の瞳には、何か諦めた様な色がちらついている。上げていた顔を再び下げ、地面を見つめながらリリアナはつらつらと言葉を続けた。


「仲間を魔獣に皆殺しにされ、自分だけ生き残り、ジャッシタリアでルーリエに拾われた時に自分の弱さが身に沁みたはずだった。だけど結局事ここに至るまで、愚かな私は”鋼鉄級スチール”の自分に未練がましく縋り付いていたんだ。名うての冒険者である、あった(・・・)自分に。子供達に剣を教えている内に、自分は強いんだぞ、凄いんだぞ、と自尊心浸っていたんだと思う。そんな私が心の病を患っていると言う。笑えるよな、滑稽だ。」


 自嘲のままに口角が上がり、瞳には再び涙が溜まり始めている。


「私は弱かったんだ。強かった事など一度も無かったんだ。全部勘違いだったんだ。思い知ったよ。」

「それは違うです!そんな――。」

「何が違う?どこが?魔獣に襲われ心を病む女のどこがどう強く見えるんだ?十把一絡げの町娘と何が違う?」


 最早留め置けずに、再びぽろぽろと涙が溢れる。けれどリリアナは真っ直ぐルーリエを見つめていた。

 リリアナはもう、完全に心が折れてしまっている。この感じには覚えが有った。


「リリアナは強いです!ただの町娘に辿り着けるほど”鋼鉄級”の称号は軽くないのです!」

「そう思いたいだけじゃあないのか?愚かな私を同じ様に。」

「違うです!リリアナは――。」

「確かに。」


 ルーリエが驚愕と言った表情でボクを振り返る。言いたい事は分かるけど、完全に答えを出してしまっている相手に否定を重ねても意味はないんだよ。


「くっそ弱いよなリリアナって。さっきも手加減するの超大変やったし。」

「え……え?あなた、何を……?」

「シロ、殿?」


 視線が刺さる。だがここで止めたらただの嫌な奴だ。やるならとことんだ。


「いやほんと、やろうと思えばなぁ?一応子供らの先生やし、あんまこてんぱんなんもあれやん?めっちゃ気ぃ使ったわ。」

「あ、ああ。そう、ですね……。シロ殿が本気ならば――。」

「この分じゃうちの子らでもリリアナくらいすぐ追い越せそうやな。」

「そう、だな……。」

「なんやっけ、アイアン?爪やっけ牙やっけ、ほら、パーティの。そこの副団長やったんやろ?副団長でリリアナレベルなら全体の強さもたかが知れてるよな。あのエリンギ程度に全滅ってくらいやし。遅かれ早かれやったんちゃうかなぁ。知らんけど。」

「あなた……!」

「まあ?懲りたんならもう辞めた方がええよな。冒険者。向いてなかったんやろな。ええ機会なんちゃう?」

「…………。」


 リリアナが黙り込んだ。このまま――。


「もうちょっと早く気付いてればなぁ?メンバーの人らもなぁ。まあしゃーないよね。自分らのキャパ超える仕事受けちゃったんやし。誰が受けたん?あ、リーダーか。そりゃそうか。災難やったなぁ無能なリーダーに使われて――。」

「いい加減に――。」

「黙れぇっ!!!」


 堪りかねた風に立ち上がり一喝を放つリリアナ。その顔は先程までの無気力な表情から一変し怒りに満ちていた。


「お、お前が!何も知らない奴があいつのっ!仲間たちの事を侮辱するな!!」


 久しぶりにストレートな敵意を肌に感じ、思わず身が竦む。耐性スキルとデフォルトな無表情のお蔭で平静は保てているけれど、気を抜けば声が震えてしまいそうだ。

 前世では他者からの悪意耐性が異様に低かった。そのお陰で得た物も有るのだけど……。


「はあ?自分で言った事やんけ。」

「私は仲間たちを侮辱したりしない!彼らを悪し様に言うなら例えあなたでも許さないっ!」

「おいおい、しら切んの?質悪いなぁ。」

「私が何を――。」

「言うたやんけ。『私は強くない、全部勘違いだった。』ーってさぁ。」

「それが何だって――。」

「だぁーかぁーらぁ、名うての冒険者のリリアナさんが弱い強くないってのはさぁ、同レベル帯のパーティメンバーも皆弱いって言ってるのとおんなじやろ言うとんねん。」

「――あ……?」

「さっきから散々(さんざ)っぱら言うとったやんけ。よわいーよわいーってよぉ。」

「ち、違う、そんな事、そんなつもり私は――。」

「実際その通りやろ?全員弱いんやから、強い魔獣に負けるなんて当たり前。何も間違ってない。そう思ったから絶望感じて全部諦めたんやろ?」

「わ、私は……違う、そんな、そんな訳……。」

「それとも何?今までの話はただ”悲劇のヒロイン”感だしたかっただけなん?やとしたら質悪いな。ははっ。」

「私は……私は……。」


 我ながら胸糞悪くなる。でも止めない。

 ルーリエも視線で殺す形相で睨んでくるけれど、それでも止めない。


「で、結局どっちな訳?」

「……どっち?どっち、とは……?」

「結局あんたは”全部を諦めた哀れな悲劇のヒロイン”なのか、それとも”仲間の死を無駄にしない女剣士”なのかよ。」

「死を、無駄に……?」

「最初はもう全部諦めたんかと思ったけど、死んだ仲間を馬鹿にされて怒ったやろ。全部諦めたやつはそんな事せん。だってぜーんぶ諦めてんやから。」

「…………。」

「あんたがもしまだ”剣士”なら、良い事教えたる。」

「いい事……?」

「あの魔獣はな、”従魔”やで。」

「っ!」

「……つまり”鉄の牙(アイアンファング)”を壊滅させたのは、使役された魔獣、なんです……?」

「ボクに何が見えるかは知ってるやろ?」

「”鑑定”、ですか……。」

「まさか、シロ殿。」

「知ってる。一度この森の中で遭って、やられた。」

「!?あなたを……?」

「シロ殿。」

「なあリリアナ。お前はどっち(・・・)や?」

「私は……。」

「お前が”剣士”なんなら、俺は協力出来ると思うぞ。」




◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇




「みんな、昨日は迷惑をかけてしまって申し訳なかった。もう大丈夫だ。」

「リリアナさん。安心しました。」

「先生、本当にもう大丈夫なんですか?」

「げんき?」

「ああ。トラウマ、と言うのだっけ、そちらの方もシロ殿が協力を申し出てくれたので、改善に務めるよ。」

「よかったです!」

「シロ様にお任せすれば安心ですね。」

「ああ、そうだな。」


 朝食後、リリアナは子供達の心配を解消すべく話をしていた。

 あの後、瞳に光の戻った彼女とルーリエを交え、彼女の新たな目的への協力に関する話を二三交わして寝床へ追い返した。子供達へ話をするのも条件の一つだ。他にも幾つもの約束を飲み込ませて居るが、ほぼ全てをすんなり受け入れたのには少し驚いた。それ程新たな目的に対し本気なのだろうが、危うい匂いも漂いだしていたので、合わせて釘も刺している。

 新たな目的とは、詰まる所”復讐”だ。例の茸少女相手に真っ向勝負は無茶なので、ボクと共に森での研鑽を積む方向で一先ずは決着している。

 当時の話は粗方伝えているし、次にいつ現れるか全く未知数なので計画など立て様も無いのだけれど、それ以前に我々のレベルでは太刀打ち出来ないのは明白な為だ。ボクが全面的に彼女に協力するのだから、彼女にもこのコミュニティに全面的に協力して貰うつもりである。


 そんな様子を少し遠巻きに眺めながら、昨夜の事を思い出す。

 昨日の彼女は非常に危うい状態だった。過度なストレスを抱えている状態で、己を支えていた最後の自信すらも失って完全に心が折れたのだろう。

 そう言うニンゲンが起こす反応は様々有るのだろうが、結局は二つに分けられる。現状に至った原因を他者に求めるか、自分に求めるかだ。真面目なリリアナは後者だった。彼女の言い草からして『周りは悪くない、全部自分が、自分の弱さが悪い。自分のせいで仲間が死んだ、仲間の家族が悲しんだ。彼らの悲しみも憎しみも私が受けるべきだ。私が悪い、私が――。』と、そんな所だろう。必死に支えようとしていた自分という物が、彼女の中で崩れたのだ。

 そうなっては、後は思考が落ちていくだけ。どんどん。どんどんと落ちて行って、何もかもに諦めが付くのだ。自分が悪い、それだけを残して。そうなってはもう立ち直る事は出来ないだろう。

 勿論、ここまでは全てボクの想像に過ぎない。自分の経験(これまで)から、こうだろう、と言う想像。だからボクは彼女を否定せず、肯定した上で焚き付けた。

 結果的に、そんな想像を裏付ける様にリリアナは激昴してみせた。彼女の仲間達への、ボクが言った心無い言葉に怒り昂ぶったのだ。行く所まで行けば反応する事すら億劫になるだろうに、仲間達への侮辱を許容出来なかった。

 彼女はまだ大丈夫だ。一時凌ぎとは言え復讐と言う目標も持ったし、何よりリリアナを支えてくれるルーリエと言う最大の理解者が側にいるのだから。

 ……ボクの時とは違う。


「その、感謝するです。」


 思い出したくも無い過去が頭を過っていると、横からルーリエが声をかけて来た。はて、感謝とは。


「何がぁ。」

「……昨夜の事です。やり方は褒められたものでは無かったですが、きっと、わたしだけでは……。」


 そう言ってルーリエは自嘲気味に下を向く。


「以前、再開した時にふさぎ込むリリアナを叱咤激励した事があったのです。その時、わたしはリリアナを立ち直らせたと思っていたのです。でも、勘違い、でした。リリアナは心に深い傷を抱えたまま……自惚れていたのです。わたしは。」

「おんなじよ。」

「え?」

「今もリリアナは立ち直ってないと思うで。そう見えるってだけで。」

「そ、そんな……。」

「トラウマってのは誰かに何か言われたからって消える様な、そんな生易しいもんと違う。自分自身で克服するしか無いんや。」

「それでは、わたしは、どうしたら……。」

「傍に居ったったらええ。」


 顔を上げて、ルーリエがこちらを見やる。


「今まで通り、一番近くに居ったればええねん。」

「一番、近く……。」

「正直、ボクには何が正解でどうすればええかなんてわからん。けど復讐を心の支えにしたってどうせ碌な事にはならんのは分かる。結局これはただの時間稼ぎや。リリアナがそれを成した時、成せんかった時に何が出来るか、時間かけて考えればええんやと思う。」

「……。」

「お前にその覚悟があるんならな。」

「……ふんっ、愚問ですね。」


 ばっとボクの前に出てこちらを振り返り、ルーリエは言う。


「わたしはもう、決めているのですから。」


 んべっ、と舌を出してからリリアナと子供達の元へ駆けて行くルーリエを見て、ボクは漠然と、大丈夫そうだな、と思った。

 そう言った彼女は笑顔で、その瞳には決意の色がはっきりと映っていたから。


読んで頂きありがとうございますm(_ _)m


おかしい……こんなに重い話になるはずでは……

お陰で難産で大幅に更新が遅れてしまいました。11月中に投稿するつもりだったんだ。12月も半ばってうせやろ……


ツイッターの方では告知してましたが、今月来月の二ヶ月は更新が止まります。うまく行けば更新できるかもですが望み薄ですね。

とは言え書いていたものが12月中に投稿できたのは幸運でした。創作には魔物が潜んでますね。

それでは2月、無事に更新再開出来ることを祈って締めといたします。

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