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Re:ALIVE《リアライヴ》~不本意ながらドラゴンとして生きなおす~  作者: たつまる
第一章 アルヴィエール大森林
44/98

1-22.とある女冒険者の絶望

今回主人公視点ではありません。


5/5 各話の迷宮都市の都市名を少し変更しました。



「こんな所でなにしてるですか。……ちょっと、聞いているですか?リリアナ、リリアナ!」


 ――誰だ……と顔を上げると、霞んだ視界が正常さを取り戻す。そこに有ったのは見知った顔だった。その顔を見ていると、止まった思考がじんわり戻ってくる。辺りの喧騒がうるさい。


「……お前こそ、なんでここに居るんだ。」


 そう言って思い至る。ここは、どこだ?未だ溶け切らない思考の海を掻き分けて必死に思い出そうと視線を下げる。


「っ……あなた達が受けたアルヴィエール――。」


 彼女の言葉にびくりと肩が跳ね、思考が中断された。


「――大森林のスタンピード調査、その第二陣のお鉢が私に回ってきやがったんです。まったく、迷惑な話ですよ。」


 第二陣……?ギルド側は私達”鉄の牙(アイアンファング)”だけでは不十分だと判断したのか。それとも念を入れたのか……なんにせよ、ユーラリエの冒険者ギルドはよっぽど優秀だという事だな。なにせ……。


「それで?あなたは何をしてるですか。他の団員はどうしたです?ユージィンのアホも見当たらないなんて珍しい事も有るものですね。」

「他の、団員……?」


 再び顔を上げ、目に映る彼女の顔には疑問の色しか浮かんでおらず、本気で不思議に思っているらしい。それがたまらなく可笑しく思えてきて、止まらなくなった。口から溢れ、周囲に乾いた笑い声が響く。

 眼前の彼女の顔には困惑が刻まれていた。


「な、なんです……?」

「んふっ、ふふ……いや、すまない。ついおかしくて、ふふっ。」

「何を言ってるです、おかしくなったですか?」

「皆死んだよ。エミリーも、ダットも、アデーべもルーもキャスも……ユージィンも、皆。」

「…………そうですか。」


 一瞬驚愕に顔を歪めた彼女だったが、直ぐに状況を理解したのだろう、すっと顔を引き締めた。流石は高位の魔術師だな、と頭の隅の冷静な自分が思う。


「私だけだ、私だけ……。」


 そう、私だけが、生き残った。その瞬間、これまでの全てが一気に頭を駆け巡った。

 凍りついていた心が溶け、感情が、溢れる。頬に伝う感触は涙だろうか。視界も歪んでいるからきっと泣いているんだな。いつぶりだろう、最後に泣いたのは何時だっただろうか。

 強くなったと思って、思っていたんだ。故郷を出て憧れの冒険者になった。未熟と満身が祟って訪れた危機をユージィンに救われた。その後彼と二人でパーティを組み、そんな私達に少しずつ仲間が増えた。幾度も訪れた危機を乗り越え、私達は”鋼鉄級(スチール)”にまで上り詰めたんだ。国でも上位の冒険者となったんだ。確かに上を仰げば切りが無いが、それでも大半の奴らよりは強い。

 そんな私達でも危険は尽きる事はない。当然の事だ。慢心していた訳じゃなかったと思う。戦場(いくさば)で死ぬ覚悟は出来ていたんだ。仲間を失っても立ち直れると、思っていたんだ。だけど――。


「……一人だけ生き残る覚悟は、していなかったよ。」


 涙が鬱陶しくて、肩を下げて手で顔を覆う。不思議と嗚咽は出ず、手の隙間からぽろぽろと涙だけが流れていった。


「情けないですね。これが”鉄の血(アイアンブラッド)”と謳われた鋼鉄級冒険者の姿なのですか?」

「……確かにな。」

「っ……。」


 頭の上から「張り合いない……。」と小さくつぶやきが聞こえた気がしたが良く分からない。

 間を置いて、今度ははっきりとした声が聞こえた。


「……ここは人目を引くですね。立つです、場所を移すですよ。」

「……放っといてくれないか。」

「ダメです。あなたには後発に詳細を伝える義務があるです。さあ、早くするです!」


 ぐいっと右腕を引かれるが、私の胸くらいまでしか無い彼女の身長では私を立たせる事は出来ないだろう。案の定、私の腕は低い位置を引っ張られるだけでびくともしない。言われたまま立つ気も無かったので暫く好きにさせていたが、流石に鬱陶しいな……。

 荒れた思考が、眼前の小動物のような少女の無駄な実力行使に少し落ち着きを取り戻してきて、先程の彼女の言い分も尤もだと気づく。傍から見ればそれが当然だ。冒険者として、依頼を投げ出す訳には行かない。少なくとも今まではそうしてきたし、そうする自分達に誇りを持っていた筈だ。この絶望に任せて誇りを疎かにして、今はもう居ない仲間達に顔向けできるだろうか。

 そう言えば、今はいつだ……?あれからどれだけ経ったのか思い出せない。未だ思考がはっきりしていないのだろうか。ここは……。思い至って、涙で濡れた瞳で辺りを見回す、少し潤みが残っているが、この場所には見覚えがある。

 ここは確かグリッジ伯爵領にある中継都市ジャッシタリアの大通りだ。背後を見ればどこぞの商店の店先だった。入口横に置いてあった木箱に座っているようだ。ここまでの道程をいまいち思い出せないのは、思考が固まっていた弊害だろうか。自分の身体にも視線を這わせるが、ぼろぼろな以外は問題は見受けられない。腰には愛用の細剣も、ベルトから垂れる鞘に収まっていてほっとする。確かに用のない商店の店先にいつまでも居座るわけにも行かないし、自分の頭を整理する必要がある。そうこう考えている合間に涙は乾いたようだった。

 今は彼女に付いていくべきだろうとの結論に、すくっと腰を上げ立ち上がる。私の右腕にまとわりついて懸命に立たせようと頑張っていた彼女が、それにつられて手を離し後ろに二三歩踏んでから尻餅をついた。短い悲鳴が上がる。


「行くんだろう。」

「――っ!なんですか!もう!」


 倒れた拍子に、頭に乗った特徴的な大きなとんがり帽子がずれるのも構わず、彼女が叫んだ。



◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



 彼女に促され、行き着いたのはジャシタリアの街でも大きい部類の宿屋だった。街の宿屋と言うと、食事処を兼ねた酒場の用になっているのが一般的だが、此処の一階は高級志向のレストランになっているらしい。小さめの高級宿なのだろう。”鉄の牙”はこういうお高く止まった宿は利用した事がない。皆平民出身だからか変に庶民的で、普通の宿で事足りていた。もちろん、それでも普通の平民が泊まれる程お安くもない所なのだが。

 見るからに高級な雰囲気に少し肩身が狭い思いがするが、黙って彼女の跡をついていく。

 建物に入ってカウンターで鍵を貰って二階に上がった。階段を上がって右側の突き当りがどうやら彼女が滞在している部屋らしい。中も流石に綺麗だ。


「それじゃあさっさと話すです。”鉄の牙”に何があったか。」


 どかっと高そうな椅子に飛び乗って、彼女がそういう。私も向かいの椅子に座った。頭を整理しながら、話す。


「……何処から話そうか――。」




「しゃべる地竜?やっぱり頭を打ったですか?」


 茸の魔獣に助けられた所まで話すと、案の定の反応をされた。記憶が確かなら頭は打っていない。


「いいや、確かに人語を話した。それは間違いない。」

「高位ならまだしも、ただの地竜程度がヒトの言葉を話すなどありえないです。」

「私もそう思っていたさ、あの時までは。」

「信じられないです……ヒトの言葉を解す魔獣の存在は幾つか前例はあるですが、そのどれもが高位の存在、災害級です。相手が出来るのは世界でもほんの一握りと勇者くらいだと言われているです。仮にその地竜が高位存在だったとしても、わざわざヒトを助けるとは思えないです。」

「だが――。」

「ひとまず、それは置いとくです。話が進まないですから。……喉が渇いたですね。」


 話を切り上げた彼女が、腰ベルトにぶら下がっている細い筒からぴっと短い木の棒を引き抜いた。それは魔術師が使う魔法の杖で、彼女のは自作の特注品だそうだ。私には違いがわからないが、他の魔術師が一目置いていたのを思い出す。


「トスカチミジ ナセ。」


 その杖をぴっと振り何やら唱えると、壁沿いの椅子に座った木偶人形がちゃと音を立てて立ち上がった。続いて同じように「セィラミス デチカイス ニミ カラ チ ギリチトト。カイデラ。」と唱えると、側の丸テーブルに置かれた水差しの取手を木製の手で器用に掴み二つのグラスに注ぎ出した。零す事無く注ぎ終わるとのを確認してから今度は「クイチチビイ ニカ。」と唱えるとこちらのテーブルに持って来て、「スールイカナスミ。」と杖を振ると元の位置に戻っていった。

 過去何度も見た光景だが、何度も見ても規格外の魔術だ。こんな風に人形を意のままに操ってみせる事の出来る魔術師は彼女、”人形遣い(パペットマスター)”ルーリエくらいのものだろう。少なくとも私は見た事も聞いた事もない。

 基本的に一人で居てパーティを組まない彼女は、自身の操る人形に前衛をさせ、その隙に攻撃魔術を打ち込む戦い方を好んでいた。人形を操るという時点で前代未聞なのだが、その他の魔術も強力なものが多く、今では私達”鉄の牙”よりも高位、”銀級(シルバー)”の冒険者だ。活躍の場の少ない筈の魔術師という職種でありながら高位の地位につけるのだから、その実力は言わずとも知れるだろう。外見の幼さからは想像もつかない実力の持ち主だ。

 彼女との出会いは一年ほど前だったろうか、何がきっかけかは忘れてしまったが、いつの間にか一目見れば突っ掛かってこられるようになっていて、ユージィンに誂われたのを思い出した。

 そんな彼女が、綺麗に磨かれて形の整った木の杯に注がれた水を一口飲み、話を戻す。


「それで、しゃべる地竜が去った後はどうしたのですか?」

「ああ……。」


 私も一口水を含んで唇と喉を潤す。思ったよりも喉が渇いていたようで、もう二口煽って、記憶を手繰って話を続けた。




 あの後、あの白い地竜が去った後、放心状態だった私は何とか気を振り絞り、馬車の荷台に置いたままになっていた自分の剣を腰に下げ直し、泣けなしの希望に縋って走った。目的地は勿論仲間達の、ユージィンの元に。

 全力で走った。どれくらい走ったか……途中躓いたりもしたが、何とか辿り着いたのだ。そこにあったのは、確かな絶望。

 白一色の周囲に幾つもの盛り上がりが出来ている。それが仲間達であると気づくのに時間はかからなかった。少し遠くには仲間達が乗っていた馬車が数台見える。横倒しになっている物もある。馬は当然生きては居ないだろう。

 惨劇の一番端、私が来た方から見れば手前の一番近い所に膝立ての状態で両手を広げている死体があった。その全身には白い大小の菌が無数に蔓延っていて、見ように拠っては悪趣味な芸術品にも見えただろ。その身体には頭がなかった。少し視線を下げると、有った。

 白い塵の上に横向きに埋もれた、見慣れた(・・・・)それは、ユージィンの物だった。顔のあちらこちらから白い茸が生えて入るが、判別出来る程度に収まっていた。察するに、完全に埋まる前(・・・・)に跳ね飛ばされたのだろう。


「……あ、ああ。」


 多分、ユージィンは最後まで魔獣を倒そうと、こちらへ(・・・・)来させないように、死力を尽くしたのだろう。自然と膝が崩れた。彼の頭が直ぐ近くに来る。


「あああ……ああああああああ。」


 そっと()を掬い上げると、胸に抱いた。力を入れると崩れてしまいそうだった。


「ああああああああああああああああああああああああああ。」


 私は、力無く泣いた。



◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



 全部を回収したかったが、運ぶ為の馬が居ない。

 断腸の思いで、団員のプレートを回収するに止めた。プレートと言うのは、ギルドが発行する長方形の金属板の事だ。階級と同じ金属が使われていて、中にギルドが鑑定した個人のステータスを記した羊皮紙を入れられるようになっているのでステータスプレートとも呼ばれる事が有る。一番低い位の冒険者のプレートは木の板に焼印という簡素なものだが。

 これを回収するのは、僻地で死亡する事も珍しくない冒険者は死体を回収できる事も稀である事から、死亡確認の際の証明として回収していくのがギルドの決まりだからだ。運が良ければ死体も回収できるし、死亡記録をつける事で、死亡した尋ね人を延々探し回る遺族を減らす効果もあるのだとか。

 プレートを全て回収し、後ろ髪を引かれる思いでその場を去る。回収すべきプレートはまだ有るのだ。先程の場所まで戻らねばならない。止まる事のない涙を引きずって、私は走った。


 息も絶え絶えだが、遠目に荷馬車が見えてきた。地竜と遭遇した所まで戻ってきたのだ。陽も暮れてきたがもう少しだ、と息を整えている時、背後から強烈なプレッシャーが襲ってきた。


「なんっ……!?」


 言葉も詰まるほどの凶悪なプレッシャー。過去の経験から邪悪な気配を察する事が出来るようになっていたのだが、未だかつてこれほど邪悪な殺気を放つ相手とはまみえた事が無い。中てられるだけで汗が吹き出し、息が止まり、身体中が恐怖で固まり動けなくなる。だが、このまま此処に居れば確実に死ぬ。その思いが私の足を動かした。

 兎に角一刻も早くこの場を離れたい、疲れ切っているはずの身体を、脚をこれでもかと動かし、体勢が崩れる事も構わず前へ、前へと脚を投げる。その間にもどんどんと強まるプレッシャーに吐き気を覚えながら、何とか眼前の荷馬車、その荷台に飛び込んだ。

 直ぐ様身体を丸め掛け布団に頭から包まり、乱れているはずの息を必死に殺す。窒息死してしまう恐怖さえこのプレッシャーの前には敵わない。どんどんと強まる恐怖の圧に気を失いそうになる。時間が進まない気がする、今はどれだけ過ぎたのだ?いっそこのまま気絶できたほうがどれだけ楽か。だが私が限界を迎える前には、進行方向へと遠ざかって嘘のように穏やかな空気が戻ってきていた。

 ぶはっと息を吐き出し、肩で息をするが収まらない。何とかしようとする内に、猛烈な吐き気に襲われ咄嗟に荷馬車から顔を出し、外に吐瀉する。一頻り吐いた所で、私の意識は無くなった。


 目が覚めた時、外は明るくなっていた。どれくらい気を失っていたのか分からないが、頭ががんがんと痛む事だけは判った。酷く気怠く、暫くの間そのまま横になって居る内にまた気絶したみたいで、起きた時には頭痛も引いてた。

 怠さの残る身体を引きずって外に出て、周囲を確認した後残りの団員のプレートを回収して、そのまま歩いて森を出た。陽が沈む頃に一番近い村に辿り着いた。私は相当不審な成りになっていたようで初めは酷く警戒されたが、自分の素性とダリア公爵の依頼途中だと言う事を告げると村長宅に泊めてくれた。正確には公爵領の依頼ではないけれど、公爵側が依頼を投げた結果周ってきたのだから強ち間違いではないだろうと自分に言い訳をした。

 食事の席で経緯を説明して、仲間達の回収を手伝ってくれないかと頼んでみたのだけれど、あの森に入る事を頑なに拒まれてしまっては引き下がる他無かった。気持ちはわかる。

 代りに、と丁度村に滞在していた商人がジャッシタリア方面に馬車を走らせるので乗せて貰えるように頼んでくれると申し出てくれた。確かに、ジャッシタリアまで行けば定期快速便のグレートフットホース馬車が走っていた筈だから、そこまで行けば七日でユーラリエに辿り着けるだろう。幸い、腰袋にいくらか金も入っているので問題なく帰れると思う。

 グレートフットホースの見た目は普通の馬と大差ない。しかしその名の通り唯の馬の十倍の脚力を持っていると言われる魔獣なのだ。気性は荒いが調教すれば家畜として十分な役割を果たす。普通の馬に比べれば値段は高い物の、その胆力には相応しい価値がある。”鉄の牙”の荷馬車にもこれを使っていて、アルハリアからジャッシタリアまでほぼ一直線に繋がる”ハイウェイ”と呼ばれる、横幅大型馬車四台分と言う長大な道を使えば、圧倒的に早く往来できる。グレートフットホースとハイウェイ、この二つがなければ王国南大陸の左右往来は過酷な物のままだっただろう。


 翌日村長に礼を告げ、商人の馬車に上させて貰いジェッシタリアを目指した。そこから数日かけ、ジェッシタリアに到着したのが昨日。その頃には身も心もぼろぼろに疲れ切った状態で、気づいたらあの商店の前に座り込み、ルーリエに発見されるに至った。


「――まあ、そんな所だ。」


 話し終えた私を、ルーリエの三白眼が睨んでいる。


「……まとめると、”鉄の牙”は壊滅。未確認の茸型魔獣やしゃべる地竜と遭遇し、その他にも災害級と見られる強大な魔獣が潜んでいる可能性がある。って所ですか。」

「そう、だな……。」


 ”鉄の牙”の壊滅、という言葉に心臓が酷く弾んだ。じくじくと胸が痛む。しかし、これで引き継ぎも終えたのだから、私はこれからユーラリエの冒険者ギルドに戻って報告と仲間達の回収を依頼する。その後は……その後私は……どう、したら、良いんだろうな……。”鉄の牙”が私の全て、人生だったんだ。ユージィンも、居なくなってしまって、私は、私には何が出来るんだ……?


 ルーリエは腕を組み、視線を窓の外へ向けている。しかし、なにか考えるように汲んだ腕を上の指でとんとんと鳴らしていた。数瞬の後それも止み、ルーリエが口を開いた。


「……仕方ないですね。リリアナ。」

「なんでしょう……?」

「パーティを組んで上げるです。」


 ……は?何を言ってるんだ、こいつは。


「……訳がわからない、何を言っているんだ、お前は――。」


 困惑する私の言葉を遮って、ルーリエが言った。


「私とパーティを組んでもう一度行くですよ。アルヴィエール大森林へ。」



読んで頂きありがとうございますm(_ _)m


まさかの再登場リリアナさん。彼女の明日はどっちだ。

次回も彼女視点になります。よろしくおねがいします。

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