0-2.不本意な現状2
冷たい流水の感覚に目が覚める。耳にはせらせらとした音が聞こえていた。
――うぅん……なんなん……。
重たい首を持ち上げて周りを見回す。体の下で小石が擦れじゃらりとなる。目の前には小川が流れている。爬虫類のような両脚が浸かっていて今尚川の冷たさを伝えてくる。魚の影も散見出来る。
身体の下や小川の向こう側にも砂利や丸石が敷き詰められ、あちらは広場のようになっている。あちらこちらには大きな岩が点在していた。更に向こうには木々が立ち並び、奥の方まで鬱蒼としている。水の流れに混じってどこからかぎゃあぎゃあと動物の物らしき声が聞こえてくる。
腰の下には真新しい断裂面が覗く太めの木の枝が下敷きになっている。身体の重さの所為か、下敷きになっている部分は粉々に砕けているらしい。枝葉は水の流れにしゃらしゃら鳴いている。
顔を上げると日影を産んでいる大木が目に入った。木の根元は奥の壁に根を生やして、ぐねりと曲がって天を仰いでいた。一部の枝が折れてい垂れ下がっている。日差しが眩しい。
壁は上にも横にも無限に伸びているかのようで、巨大であろう岩壁の一部だろう事は見当がつく。恐らくこの上から落ちたのだ。ここからでは穴の位置は確認できないので、相当な高さだったのだろう。よく生きてたな…
生きていることもそうだが身体に大した痛みはない。身体の怠さとあちこちに擦り傷のようなものはあるけれど、それだけだ。
――あ、頭から血ぃ出とる……乾いてるけど。
モンスターの身体でも血は赤いようだ。傷は塞がっているようだ。そこで視界端々に見覚えのない物が映っている事に気づく。これは……?
――触れない……ARステータスの表示か……?
視界の左下にはちょっと凝っているHPバーとMPバーらしき物、もう一つ何かのバーが上から順に並んでいる。一番左には半円状のスペースの中にアラビア数字の1が表示されていた。他にもチラホラ書いてあるがよくわからない。
右上には丸い表示がされていて真ん中に先の尖った円錐のような青色の光点が見える。どうやらミニマップのようだ。表示範囲の拡大縮小は出来ないっぽい。
このAR表示はどうやら頭部位置で固定らしく、視界を動かして各表示を注視することが出来た。
《それはARステータスアイコン。》
――うわぁ!?
脳内に響く声に、通算何度目かの身体の弾けに嫌気が差してきた。いちいち驚かすのやめてくんない?いや勝手に驚いてるだけだけどもさぁ……。
――だ、誰や?
《私はあなたの、ドラゴン種としての快適な第二の人生をサポートする為に作られた、ナビゲーション・インターフェイス・システム。》
――ナビナビゲーション・インターフェイス・システム……。
《ナビゲーション・インターフェイス・システム。》
――そう……。
《そう。》
いかん、こんなナビなんたらかんたらにまで持ち前のコミュ障発揮しとる……。
というか今ドラゴン種だって明言されたね。やっぱりドラゴンだった今世。どうせなら翼も欲しかった。空を自由に飛びたいな。
《このシステムはあなたの前世における記憶や経験を元に構築されている。》
と言うと、この無感情な女性ボイスのナビなんたらさんがこんな感じの喋り方なのも、前世で長いこと嫁の座に君臨した、某ヒューマノイドなんたらさんの影響なのかもしれない。
《その通り。》
――その通りだった……。と言うか、頭で考えていることはなんでも分かっちゃうのかしら……?
《肯定。》
肯定されてしまった。これじゃあ禄に恥ずかしいことも考えられない。仕方ないので諦めよう。人間諦めが肝心だと前世で学んだのだ。今世人間じゃないけど。
言い知れぬ不安が押し寄せる。息が詰まる様な感覚に襲われる。降って湧いた最悪な気分の中、ずりずりと川辺りまで張っていく。間向けな爬虫類顔が水面に写り流れていく。そのまま顔面を川に沈め、そのまま流れる水をガブガブと飲み込んで、水の中で頭を振る。ばしゃばしゃと音を立てながら、嫌な気分を振り払おうと努める。水面から顔を上げて、そのまま空下仰ぐ。
――あー……なんでこんな事になっただろうなぁ……。
《わからない。》
――……そうですか。
話しかけたわけじゃなかったんだが。
そのまま小一時間見上げたまま、ぼうっとし続けた。出来るだけ頭を空にするように努めながら。あっ、ミニマップの下部に時刻表示がある。デジタル表示で10:26:09と書いてある。全然空に出来てないやん。むずかしいね。
読んで頂きありがとうございますm(_ _)m
次回更新は次の日曜の予定。
次はチュートリアル回その1です。