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5 アンバー姫、救出される

 すっかり夜が更けて真夜中になってしまった。

 全く寝ることができない。

 なんとかこの塔から脱出したいところだけれど、あるのは天井近くの小さな窓だけでとてもあんなところまで登ることなんかできないし、出口は鉄柵と兵士でがっちりと守られている。

 おのれハインリヒ!

 あいつが何もかも悪い!

 早くクグロフに戻って惚れ薬を作りたいのに!

 ああ、ロバート様に会いたい。

 ロバート様をまぶたの裏に思い浮かべてみる。

 不思議とそれは、あの御者のカエルと重なっていった。


「……え?」


 混乱していると、上方から物音がした。

 見上げると、あの小さな窓からカエルが顔をにゅっと出していた。

 そして、ひらりと身をひるがえして室内に飛び降りてきた。

 なぜか上半身裸になっている。

 その上半身たるや、あまりの美しさに光輝いて見えた。


「カエルーーーーーー!!!」


 カエルは私に向かってうやうやしくこうべを垂れた。


「もしかして、私を助けに来てくれたの?」


 カエルはこくりと頭を縦に振った。


「カエルウウウウウウーーーーー!!!!」


 これは完全に惚れてまうやつじゃないの!

 私はおもいっきりカエルに抱きついた。

 カエルもぎゅっと抱き返してくれる。


「あら?」


 よく見ると、カエルの上半身にはやっぱり所狭しと無数の傷跡が付いている。

 とても痛々しい。

 私はその1つをそっとなでてみた。

 するとカエルはわたしのアゴをすくうと目線を合わせてきた。

 見つめあう二人。


「……あなた、ロバート様でしょう?」

「!!!!!」


 そう言うと、カエルは両手をバタバタとさせて慌てだした。


「間違いないわ!この甘いムスクのようなかぐわしい汗のにおい!光り輝く肉体美!なによりもこのグレートケツプリ!ロバート様だわ!最初からなんかおかしいとは思っていたのよ!ああっ!ロバート様!!」


 もう一度ぎゅっと抱きついた。

 すると、カエルは両手で頭をがぽっと外した。

 中から麗しいロバート様の照れた顔があらわれた。


「やはり、アンバー姫には敵いませんね。」

「ロバート様!なぜ着ぐるみの頭なんかをかぶってらっしゃったの?一体いつの間に?」

「実は最初から。兄上からアンバー姫が怪しい動きをしているから監視しろと言われまして、シキの森まで行かれるのを尾けていたんですが。」


 あのときに感じた妙な視線はロバート様のものだったのか。


「突然現れたクソ宰相、失礼、くそったれのグズ宰相に連れ去られそうになっておられましたが、良く状況がわからなかったので、敵方に潜入するためにカエルの御者のふりをしておりました。」

「よくカエルのかぶりものなんかありましたわね。」

「じつはあのカエルの御者は3交代制で、1匹は本物のカエルなんですが、あとは人間がカエルのふりをしているのです。あの時はちょうど人間がかぶりものをしていたのでそれを奪い、ではなくて、借りてもぐりこみまた。」

「そうだったのね。それにしても、どうして上半身裸に?目の保養ですけれど。」

「この塔の外壁を登るのに邪魔でしたので。」

「塔を登ってこられたの!?」

「杭を打ち込みながら登れば、たかだか30メートル程度の塔など造作もありません。クグロフの隊のものならば誰でもできますよ。」

「なんて頼もしいの!」


 絶対敵には回したくないけど!


「それにしても、この体中の傷跡はどうされたの?」

「これは……。お恥ずかしいことですが、戦場で敵方につけられたものなのです。私もクグロフに赴任するまでは、兄上のように強くなりたいと進んで前線に出ておりましたので。これは私が弱いものであるという証拠なのです。なのであまりアンバー姫にはお見せしたいものではないのですが。」

「いいえ!これはロバート様がいかに勇敢であるかということを表しています!敵の攻撃をものともせずに突き進んでいかれるロバート様が目に浮かぶようですわ。」

「アンバー姫……。」


 それに、ロバート様の兄であるクグロフ辺境伯のフロスト侯爵を基準に、強い弱いを判断しちゃいけないと思う。

 あれは殺しても死なないような、ある意味怪物だから。


「アンバー姫、あなたはこのような私のことを強いとおっしゃって下さる。私の外見だけでなく、中身も好きだと。」

「ええ、ロバート様。あの軍会議での自分の意見をはっきりとおっしゃるロバート様は、とても素敵でかっこよかったですわ。」

「私は、そんなあなたのお心を知って、あなたのことがいとおしいと感じました。ああ、あなたの好意が、とても嬉しく、身に余る光栄に感じます。」

「ロバート様、愛だとか恋だとか、そんなものの前では身分など関係ありません。ここにいるのは、あなたに恋するただの女なのです。」

「では私は、あなたに恋するただの男ですね。」

「ロバート様!」

「アンバー姫。」


 ロバート様は優しくわたしの頬を両手で包みこんだ。

 そして、自然と近づく二人の顔……。


「ああああーーーーー!!!姫様の部屋に男があああーーー!!この不届きものめ!!であえであえーーーー!!!」


 ちっ。

 良いところを邪魔してくれたわね!

 突然現れた女の召使はほら貝を吹きながら、私たちにずんずんと近づいてきた。

 ロバート様は私をかばうように召使の前に立ちふさがった。


「そこの野蛮人!姫様から今すぐ離れなさっきゃああああーーーー!!うっ美しいいいーーーー!!!」


 召使は鼻血を噴いて倒れてしまった。

 幸せそうな顔をして気を失っている。

 そういえば、ロバート様は今上半身裸だから、いつもの麗しさにたくましさとセクシーさが加わり、とんでもないことになっているんだった。

 騒ぎを聞きつけた者たちが駆け付けてきたが、上半身裸のロバート様を前に、鼻血を出したり泡を吹いたりして次々と倒れてしまった。


「まったく、姫君をこのようなところに閉じ込めてしまうとは。さあ、アンバー姫、ここを出ましょう。」

「ええ、そうしたいのはやまやまなんだけれど、扉には頑丈な鉄柵がついているから、ここから出るのは難しいと思うのですが。」

「それは困りましたね。ちょっと見てみましょうか。」


 ロバート様は颯爽と鉄柵へと近づいて行った。

 そして、そっと鉄柵に触れた。

 すると、鉄柵はあまりのロバート様の美しさに耐えることができずに、がたがたと音を立てて震えだし、やがてばあんっと音を立ててはじけ飛んでしまった。

 粉々になってしまったので跡形もない。


「ああ、ロバート様!さすがだわ!」

「おや、鉄柵には悪いことをしてしまいましたが、結果オーライです。さあ、行きましょう。」

「ええ。」


 どん、とロバート様が扉をひと蹴りして開けると、そこにいた兵士たちはロバート様を見ると目を丸くしてぼーぜんとしている。

 それらも素早くロバート様が再起不能にしてしまった。

 倒された兵士たちは、なぜか幸せそうだった。

 そして二人で手に手を取って愛の逃避行としゃれこもうとしているところに、ハインリヒが走って来た。


「まったくお前はどこに行っても騒ぎを起こしおって!おとなしく自室にいろと言ってはあああああーーーーーーー!!!う、美しい!均整の取れた肉体美!仕上がってる!うっく!!!」


 ハインリヒはやって来たかと思えば、ロバート様を見て崩れ落ちた。


「が、しかし!そちらはあくまで実戦用!こちらは芸術的な観賞用!負けとらん!負けとらんぞおおおーーーー!!!はあっ!!」


 ハインリヒは上着をばさっと脱ぎ捨て上半身裸になると、サイド・チェストのポージングをきめてきた。

 対抗するな。

 お前は何をしに来たんだ。

 むかつくのでまたこいつの仮面をべりっと勢いよくはいでやった。


「ふっ、愚か者が!今は夜だぞ!日の光が当たらなければ痛くもかゆくもないわ!」

「じゃあなんで夜まで仮面をつけてるのよ。」

「かっこいいからだ!知っているか?私はどんな交渉事でも負け知らずなこと、それから刃物が歯が立たない強靭な筋肉を持つことから、外国では『鋼鉄のハインリヒ』と呼ばれているのだ!どうだ!もっとかっこいいだろう?お前もそう呼びたかったら呼んでもいいんだぞ?」

「誰が呼ぶか!」

「この恥ずかしがり屋さんめ!」


 ハインリヒと頭が痛くなる言い合いをしていると、ロバート様が私を後ろから抱き寄せた。


「アンバー姫、私以外の男には話しかけないでください。」


 突然の嫉妬発言に思わず硬直していると、またわらわらと城内の召使たちが集まって来た。


「姫様がまた部屋の外に出ておられる!」

「やっと王城へお帰りいただいたのに!」

「狼藉者を早く追い出さなくては!」


 それにハインリヒとロバート様も加わった。


「私の筋肉を見ろおおーーーー!!」

「姫、私だけを見てください!」


 召使たちにハインリヒ、ロバート様まで入り乱れ、やいのやいのと騒ぎ立てる。

 私の中で何かがぶちん、と切れた。


「えええーーーーーいい!おだまり!!!!」


 一喝すると、彼らは全員ざっ、とひざまずいた。


ハインリヒのマッスル用語講座

作中に出てくる、きれてる、筋肉本舗、グレートケツプリ、仕上がってる、等は全てボディービル大会でのビルダーへの応援の言葉だ!

日常生活でもどんどん使っていこう!


というわけで、次回完結です。

ありがとうございます。


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