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4 アンバー姫、逃げ出す

「ふ、ふふふふふ、あーっはっはっはっはっはっは!ぬあ~んちゃって!愚かなりハインリヒ!この姫たる私がおとなしくお前の言うことを聞くとでも思ってるの?読みが甘いわよ!さっきまでの私の行動は全て演技!カエルがハインリヒの息のかかった者という可能性さえも考慮しての念の入れようなのよ!」


 むしろカエルにハインリヒの恋人役をやる気がまんまんだと思わせたところは、我ながら天才なんじゃないかと思う。

 これで私はおとなしく明日の朝まで自室にいると思われるに違いない。

 さっそく部屋から脱出してクグロフに戻るとしよう。

 ああ、その前に。


「よし、どこからどう見ても、ただの芋くさい召使ね。」


 クグロフから連れ去られた時に着ていた「メイド服」という召使の格好に髪の毛はボサボサで顔もよく見えない。

 こんな姿の私を誰が姫だと思うだろうか。


「さて、脱出経路だけれど、正攻法ならば窓からカーテンなんかを結んでできたヒモでするすると降りていくという方法よね。」


 そしてちょっと足が滑って危ないところをイケメンが助けてくれて恋が芽生えたり芽生えなかったりするものだが、ロバート様がいないのにそんなわざわざ危ない橋を渡るつもりはさらさらない。

 こんなこともあろうかと以前暇なときに安全な抜け出し口を作っておいたのだ。

 寝室にある姿見の鏡をずらすと、しゃがんで行けば通り抜けられるほどの大きさの穴がある。

 それをくぐれば隣の部屋に出る。

 隣の部屋はおばあ様の趣味だった人形の部屋になっている。

 たくさんの人形が置かれている中でも、部屋の端にある青い髪の少女の人形をずらして床の板をはがせば、その下の部屋は今は誰も使っていない王族の部屋がある。

 ちょうど屋根付きの寝台の上の部分なので、そこに降りて、寝台の柱をつたって部屋に降り立った。

 それからいくつかの部屋を抜けて扉を開けて廊下に出た。

 完ぺきな脱出劇である。

 我ながらほれぼれしてしまう。

 ああ、この華麗な脱出をロバート様にも見ていただきたかった!

 それからそしらぬ顔をして廊下を歩き出す。

 すたすたと歩いていると、前からやって来た給仕係がこちらを見て驚いた表情で立ち止まっている。

 その後も、すれ違う者たちが同じように私を見ては立ち止まってしまう。

 私の顔にゴミでもついてるんだろうか?

 妙な雰囲気を感じたので早足で歩き去ろうとすると、数人の男たちが駆け寄ってきてひざまずいた。


「……え?」


 そいてまた次から次へと人々がやって来ては私の前にひざまずいていく。


「姫様!」

「我が君!」

「トライフル王国の至宝!」

「アンバー姫に幸あれ!」

「アンバー姫万歳!」

「トライフル王国万歳!」


 なぜばれた!

 私はきびすを返して反対方向へと走って逃げることにした。


「ああっ!姫!いずこへ!」

「お待ちください!」


 彼らはしつこく追いかけてくる。

 もう少しで捕まろうかというときに、どこからともなくあのカエルが颯爽と現れ私を男たちからかばうように立ちはだかった。

 そして次から次へと男たちを倒していく。


「ナイス、カエル!」


 ほっとしたのもつかの間、今度は女の召使たちがどこからともなく現れてこちらに向かって押し寄せてきた。


「姫様!アンバー姫様!」

「ご帰還お待ちしておりました!」

「さあお世話させて下さい!」

「髪を結いましょう!」

「新しいドレスを作りましょう!」

「お茶はいかがですか!」

「最新のお菓子でございます!」

「肩をおもみいたしましょう!」


 おのおの目が血走っていて息も荒く迫ってくる。

 またまたカエルが立ちはだかって女たちを押しとどめようとしたが、あっさりと押し倒されてしまった。

 女には弱すぎ!


「ごめん、カエル!」


 私はカエルを捨ておいて、中庭に向かって逃げ出した。

 さっきよりも増えた召使たちがすごい形相で追いかけてくる。

 実は王城の広い中庭は背の高い生垣で迷路のような構造になっているので、そこに逃げ込んでやつらをまいてしまおうという作戦だ!

 一番奥ばった姿を隠すにはちょうどいいところへ逃げ込んで、一息つく。

 そっと様子をうかがえば、召使たちは


「いたか!」

「近くにはいるはずだ!」

「逃がさんぞ!」


 と殺気立っているのが見えた。

 みんな「アンバー姫にかしずき隊」というはちまきをしめ、「1億総お仕え」という謎のタスキをかけている。

 男たちは刺又や突棒、縄を持ち、女たちは竹やりを持っている。

 どうしてそうなった。

 突然、とある隊員が大声をあげた。


「隊長!12時の方向、自分の対アンバー姫感知器官に感ありであります!」

「なんだと!展開中の各部隊に告ぐ!ターゲットを捕捉!総員すみやかに包囲せよ!」


 怪しげな第六感を持つやつのせいで、こちらに向かって大勢の足音が近づいてくる。

 私はあわてて垣根をずぼっとかき分けて噴水がある広場へと出た。

 が、すぐに四方八方を取り囲まれてしまった。


「どうなってんのよ王城の召使たちは!練度高すぎ!」


 絶体絶命かと思ったとき、ある一角の召使たちが吹き飛んだ。

 またしてもどこからともなくカエルが現れ、召使たちをどんどん倒していく。


「カエル!」


 あの御者のカエルは思った以上に強く、あっという間に半分ほどの召使たちが倒されてしまった。

 どうやら私が逃げ出すのを手伝ってくれているらしい。

 私とカエルは瞳と瞳で会話した。


『ここは私に構わずに行け!』

『でも、お前を置いていくわけには!』

『宰相の恋人役をやりたくないのだろう?私の屍を越えていけ!』

『カエルウウウウウウウウ――――――――!!!!』


 そんな、そんなことされたら、惚れちゃうでしょうがああああーーーーーーーーー!!!

 私は後ろ髪を引かれる思いでその場を走り去った。

 そして全速力で王城の裏にある林に逃げ込んだ。

 あのハインリヒがカメムシを300匹捕まえた林だ。

 ここまで来れば安心だろう。

 いや、しかし先ほどの召使たちの様子を見るに、もしかしたらゲリラ戦にも対応してくるかもしれない。

 どうしたものかと思案しながら歩いていると、右足で踏んだ落ち葉が、かちり、といった。


「ん?」


 何か違和感を感じた瞬間、体中にワイヤーが巻き付き、木の枝に逆さに吊り上げられた。


「ぎゃああーーーーーー!!!なんなの!!どうなってんのよこれわあああああーーーー!!!」


 ミノムシみたいにぶらんぶらん揺さぶられ、まったく身動きが取れない。


「隊長!アンバー姫がくくり罠にかかりました!」


 召使たちがわらわらと私のもとにやってきた。


「こんなこともあろうかと罠をはっていた甲斐があったな!」

「おらが作った『人獣汎用型トラップとっ太郎』が火を噴いただ!」

「よくやった!貴様は2階級昇進だ!姫に半径500メートルまで近づくことを許可しよう!」

「ありがてえ!」

「勝利は我らにあり!よーし、全員整列!前へならえ!国歌斉唱!」


 ♪ 余った材料再利用

 おいしいお菓子を作ろうよ

 フルーツ、スポンジ、カスタード

 器にキレイに敷き詰めて

 生クリームで飾り付け

 あっという間に

 トライフルの出来上がり


(セリフ)盾突く敵国引きちぎれ!


 嗚呼、栄光あれ!

 我らのトライフル王国




 中には歌いながらむせび泣いている者さえいる。


「ちょっとーーーー!!そんなことよりも私を早く下ろしなさい!頭に血がのぼってしょうがないのよーー!!」


 結局私が下ろされたのは国歌第32番が終わった時だった。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 召使たちによって構成された「アンバー姫にかしずき隊」により連れてこられたのは、王城で1番高い塔の最上階にある部屋だった。

 ご丁寧に扉には鉄柵まで備えられている。

 部屋の外には兵士たちがものものしい警備をしている。

 そして、側使えの女の召使たちが私を取り囲んで話し出した。


「ここでなら姫様に逃げられることなく我々がお仕えすることができます。」

「お前たちはおかしいわよ。」

「何をおっしゃいますか!姫様にお仕えし、姫様に快適な生活を送っていただくことこそ我らの至上の喜び!姫様が辺境に行かれていた数か月間がどれほど口惜しく苦しかったことか!極度のアンバー姫依存症の者などは禁断症状で体が震え、幻覚が見えるほどでございました。」


 そんな病気の者までいたとは。


「さあ、これでじーーーーーーっくりと姫様にお仕えできます。うっふふふふふふふふふふ。」


 怖い!

 助けてロバート様――――――!!!


ありがとうございました。

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