表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

1 アンバー姫、連れ去られる

「お義姉様、出番です!」の後日談ですが、このお話のみでもお楽しみいただける感じです。

勢いと雰囲気で強引に行く感じが2割増しになってます。

よろしくおねがいします。

 私、トライフル王国の第一王女であるアンバーは、隣国であるトトロシュとの国境に接した、西の端の要塞都市クグロフへやって来ていた。

 クグロフへは王都から、モンブラン山を越え、シキの森を抜けて行かなくてはならず、へき地と呼ばれている。

 そんなへき地へ姫たる私が何をしに来たのかと言えば、その目的は、クグロフ辺境伯ジン・フロスト侯爵の弟であり、西方国境警備隊隊長を務めるロバート・ロイ・フロスト様と結婚するためだった。

 ロバート様が軍会議のために王都を訪れたときから、ぞっこんラブでアイウォンチューのアイニージューなのだ。

 私はこの権力でもって、即座に2人の結婚許可証を手に入れたのだが、肝心のロバート様からの結婚承諾が得られない。

 ロバート様にとっては寝耳に水なので、当然といえば当然だ。

 容姿端麗、温厚篤実(ただし女性にのみ)なロバート様なので、恋のライバルはとても多い。

 クグロフの女性のほとんど、そして一部の男性が常に虎視眈々と彼の恋人の座を狙っている。

 もちろんそんなライバルたちは、姫力で蹴散らしているが、ロバート様自身がなかなか手強かった。

 女性には姫君にひざまずく騎士のように優しく、野郎には死を!をモットーにしているロバート様には、どんなアピールもスルーされた。

 つまり彼は、女性には誰に対しても丁寧に接するが、それはまんべんなく女性に興味がないことを意味していた。

 もしや彼は男性に興味があるのではと思いもした。

 しかし、彼は敬愛する兄以外の男性に対しては「役立たずのクソったれの☆●×β※」としか思っていないという事実に触れ、その可能性は否定された。

 ついこの間、私があまりにもしつこく求婚するので


「もういいかげんあきらめてください!我が国の姫君たるあなた様が、このような恋愛ごときにうつつを抜かすなど、臣下として情けないですよ!」


 と、厳しく言われてしまったが、


「この私に怒鳴ったわね!お父様にも叱られたことがないいのに!……好き。」


 となり、ますます思いをつのらせる結果となった。

 さて、私がクグロフへやって来て数か月が経ち、季節は春から初夏へと変わった。

 季節は変われどロバート様の態度が変わらない状況に私は焦りでイライラしていた。

 自分でけしかけておいてなんだが、まさか結婚するとは思っていなかった辺境伯の妻レモーネにいろいろと相談するが、彼女の恋愛力たるや凄惨すぎて目も当てられず、なんでこんなのに相談してるんだろうかと自問自答してしまった。

 唯一効果があったと思われる「メイド服」なる召使の衣服を着用してみるも、ロバート様の男心を引き付けるどころか、


「どのような姿でも王族オーラがすさまじすぎて、思わずひざまずきたくなります。」


 と城内の兵士たちにうやうやしく言われてしまった。

 とうとう万策尽きてしまい、最近は恋のおまじないや呪いもひと通りやってみた。

 この前ロバート様が腹を下していたのは、その呪いのせいかもしれない。

 1等客室の豪華なソファにメイド服姿のまま寝そべって、さてどうしようかと考えをめぐらせていると、兵士たちがどこからともなくやって来て、お茶を用意したり、優しく扇であおぎだしたり、香をたき出したりした。

 彼らはいつでも勝手にかしずき始める。

 足をマッサージされながら、ふと思いついた。

「惚れ薬」という手があるではないか、と。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 そして、王都とクグロフの間にあるシキの森の入り口近くにやって来た。

 このあたりに惚れ薬の材料になるマンドラゴラが自生していると聞いたのだ。

 こっそり惚れ薬を作りたかったから、世話をしたがる兵士たちは巻いてきた。

 本当は彼らに命じて惚れ薬を作らせようと思っていたのだが、そうすればロバート様に惚れ薬を作っていることがばれてまた怒られてしまう可能性がある。


「ああっ!でも今度はどんな風にののしられるのかちょっとワクワクするわね!瞳孔が開いたロバート様も素敵!」


 はあああっとため息をついて身もだえをしていると、ふと後ろから視線を感じた。

 振り向いてみるけれど、何の変哲もない木々があるだけで誰もいなかった。

 きっと気のせいだろう。


「さあ、マンドラゴラマンドラゴラマンドラゴラマン…….。」


 マンドラゴラは別名「恋なすび」。

 数枚の緑の葉の中心に青紫の小さな花が咲いているはずなのだ。

 地面にはいつくばって探していると、それらしきものが草むらの中にいくつかあった。

 思わずニンマリと頬がゆるんでしまう。

 その葉っぱをつかんで思いっきり引っこ抜いてやる。


「せええいっ!!!」


 ずぼっと抜けた根っこは、たしかに人の形をしていた、が。


 ギョオオオオオオーーーーーーーーー!!!!!


 それは脳みそが震えるほどの奇声をあげ出した。

 空を飛んでいた鳥たちがポタポタと落ちてくる。


「ええい、おだまり!」


 顔を近づけて一喝すれば、静かになった。

 そういえば、この声を聞くと死んでしまうとかなんとか聞いたことがあった。

 まあ、死にはしなかったからいいか。

 引っこ抜いたときに奇声を上げるということは、これは間違いなくマンドラゴラなんだろう。

 もういくつか欲しいところなので、残りも全部取っておくとしよう。


「いいこと?これからお前たちをひとつ残らず引き抜いてやるけれど、さっきみたいに大声を挙げるようであれば、

 以後このトライフル王国からお前たちを一族郎党根絶やしにしてやるわよ、わかったわね?」


 これだけ脅しておけばいいだろう。

 残りのやつらも騒ぐことなくあっさりと引き抜くことができた。

 心なしか引っこ抜いたマンドラゴラたちが震えている気がする。


「安心なさい。お前たちが無事私の役に立つことがあれば、マンドラゴラ特区を作って、誰にも邪魔されないお前たちの楽園を作ってやるから。トライフルの姫として約束するわ。」


 その言葉に反応して、マンドラゴラたちの葉っぱがピンっと元気を取り戻した。


「さ、それじゃあ城に戻ってさっそく……。」


 マンドラゴラたちを抱えて立ち上がると、空から2頭の白い馬が引くかぼちゃの馬車『㈱シンデレラ特急』がやって来て、私の目の前に厳かに降り立った。

 嫌な予感がする。

 魚とカエルの御者がうやうやしく扉を開けると、中からタキシードに白い蝶ネクタイ、顔の右半分を白い仮面で覆った、黒髪の若い男が神経質に髪を整えながら降りてきた。


「げえっ!ハインリヒ!!」


 それはまごうことなく、幼馴染でトライフル王国の宰相であるハインリヒ・ブランドル公爵だった。

 昔から嫌味でナルシストでなにかと突っかかってくる嫌な奴なのだ。

 急いで逃げようとするけれど、あっさりと奴に捕まってしまった。

 そのままずるずると馬車の中に引きずり込まれてしまう。


「ちょっと!なにするのよ離しなさいこのバカぢから!」


 ハインリヒは私を無視すると魚とカエルの御者に話しかけた。


「おい、さっさと出せ。」

「はい、承知いたしました。」


 魚はぺこぺこと頭を下げながら馬を出そうとする。

 カエルはと言えば、なぜか頭を抱えて首をぐるぐる回し、それから服を急いで整えている。


「おい、何をしている。何度も言わせるな、早く出せ。」


 カエルはうなずいて馬車の御者席に向かった。

 馬車のドアが閉められると、ふわりと浮かんでどこかへと向かいだした。


「この誘拐犯!どういうつもりなのよ!」

「黙れ、緊急事態だ。」

「はあ?私のロバート様捕獲大作戦を邪魔するんじゃないわよ!って、なんで私をす巻きにしてるわけ?!」

「これでよし。」


 ハインリヒは驚きの速さで私の体にワラでできたゴザを巻き付けてきた。


「暴れられて私の大事な顔に傷でもついたら大変だからな。」

「あのねえ、私は姫よ!あんたよりも偉いのよ!敬いなさいよ!あんたってば昔っからほんっとに嫌な奴!」

「黙ってろ、相変わらずぎゃんぎゃんとうるさいやつだ。」

「黙ってられるかーーーーーー!!!説明しなさい!私を誘拐して何をするつもりなの!まさか、国家転覆のための人質にでもするつもりじゃないでしょうね!助けて!ロバート様ああああーーーーーー!!!!」

「嫌で嫌でたまらないが、お前には私の恋人の役をやってもらう。あー嫌だ嫌だ。」

「脳みそ腐ってんの?」


 ゴミでも見るような目でこちらを見てきては、ブち切れずにはいられないセリフをはいたハインリヒを思いっきりにらんでやった。


お読みいただき、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ