初陣
あらすじ
錬金術の名門、アルシミー学院恒例のチーム決めが始まった。フィリアは同じチームのレナと出会い一緒にいたところ魔物に遭遇してしまった。
「メロだ」
魔物の姿が現れると同時にレナはそう呟いた。
そこには可愛らしい、しかし確実に魔物の姿をした生物がそこにはいた。
丸い体に、頭から生えたヘ音記号形のでっぱり。全身が薄緑色をしていて、魔物だと知らなければそのかわいさに抱きついてしまいたくなるような愛くるしい容姿をした魔物だ。
「一先ず逃げよう」
戸惑った私とは対極的に、冷静なレナの指示にしたがって私は一緒に走り出した。
「それにしてもレナはどうしてパッと見ただけであれが魔物だってわかったの?それに名前まで。」
「図鑑で何度も見たことあるもん。ほら私、優等生ですから博識なんです~♪」
「最後の一言余計だけど、今回は触れないわ。」
ああ、ホントはツッコミたい!
「って、追いかけてきたわよ。」
「なんで追いかけるの~」
「だって……」
「?」
「動くものを追いかける習性があるもの!」
「だったらなんで逃げようなんて言ったのよ~!」
つい大声でツッコミを入れてしまった。
「メロって図鑑でしか見たことなかったから、実物見たらつい追いかけっこしたくなっちゃって」
「するなー!」
走りながら大声でのツッコミは疲れる。
「あ、あとねあとね!」
今度はどんなツッコミをいれてやろうか……
「メロって声に反応するから大声出すと余計に寄ってくるよ」
先に言いなさいよ~!!と、今度は心の中で叫んだ。パッと後ろを振り返ると、明らかにメロの数が増えていた。
「こんなにたくさんのメロと出会えるなんて素敵……!」
何を感動しているのだろうかこの女は。
「じゃあメロの対処方法はなんなのよ?」
「爆弾で吹っ飛ばすとか?」
「爆弾か~持ってるの?」
「持ってないわよ~」
「ダメじゃん!」
「とりあえず逃げながら作戦たてない?」
「わかったわ」
いったいどうすればメロ達から逃れられるだろうか。私は走りながら、自分達の打てる策を考えた。するとパッと手元を見たときに、ついさっきまで採取をしていた自分を思い出した。
「ねぇ、レナ!」
「何?」
「火打ち石持ってない?」
「あるけど何に何に使うの?」
「作戦があるわ。さっき採取したものの中に、熱を加えると神経が麻痺する作用を持つ薬草があるの。だからそれを使ってメロ達の足止めをするの。」
ただの思い付きだった。本来は怪我をした際の痛み止めに使う薬草なのだが、この際そんなことは言ってられない。一緒に採っていた偶然に感謝して私は早速火打ち石をレナから受け取り作業にとりかかった。火打ち石なんて使うのは久々だったがなんとか妃を起こし、熱源を得ることに成功した。後は薬草が十分に熱せられて成分が出るまで逃げるだけだ。
薬草に熱が回るのはそんなに時間を要しなかった。
「薬草が熱を帯始めたわ。投げるね。」
「うん」
実は私も内心ワクワクしていた。今までは魔物にあっても他の人におんぶにだっこ状態で人任せだったが、今回は違う。自ら策を練り、自ら対処するのだ。そんな初々しい気持ちをこめて私は熱せられた薬草を投げつけた。
「ロロロォォ……」
薬草が効いたようで痺れたメロ達は追ってくることはなかった。
「作戦成功ね!」
「うん」
私は力強く頷いた。初めて自分の、いや、自分達の力だけで魔物と対峙出来たのだ。レナも同様のようで、顔色から嬉しそうな彼女の気持ちがみてとれた。
その後私達は今度魔物に出会ったときのために爆弾を準備した。
しかし、この後出会うのが魔物ではないことを私達はまだ知らなかった。