第二百七章 テオドラム発各方面行き困惑便 9.再びクロウ(その1)
――その日、報告を受けたクロウは困惑した。
『テオドラムが国境付近の植林地を伐採した? ……連中は何を考えているんだ?』
報告をして寄越したのは、「緑の標」修道会の修道士――その実は元・テオドラム兵にして、今はクロウ配下のアンデッド――であった。作業に赴く途中でふと目を遣ったテオドラムの光景に、驚き慌てて報告してきたのである。
『……やつら、何を考えている?』
緑化に伴って封鎖された間道を再開させようとする可能性を含め、テオドラムが何らかのアクションを起こすだろうとは予想していたが……まさか問答無用で植林地を伐り払うとは思っていなかった。
『こっちに見せつけてる訳ですよね? 主様』
『あぁまであからさまに伐採したんだ。それ以外の意味は考えられんな』
『メッセージってやつ? クロウ』
『最後通牒のつもりなのかもですよ? マスター』
――違う。
テオドラムはトレント再侵攻の可能性に怯えたあまり、過激な反応に走っただけだ。
抑テオドラムの方としては、あれがクロウの仕業という発想は――少なくとも当初は――出なかった。第一、奇妙な形をした者たちが、植えていったというではないか。ダンジョンマスターなど持ち出す必然性がどこにある。一部始終を目撃した現地の住人にしてからが、木魔法と思っていたくらいである。
なのに現場の下士官が「トレント」などという剣呑ワードを持ち出したばっかりに、あんな過激な措置に至った訳だが……テオドラムにとっても軽率にして痛恨事であったろう。
『……テオドラムが何を考えているにせよ、再度の植林はテオドラムの態度を硬化させるだけだろう。あぁも過激な反応を示した訳だからな』
『ですよねー』
実はやり過ぎではなかったかという反省の声はテオドラム側からも上がっており、次回の植栽に対しては冷静に穏便に対処しようという雰囲気が醸成されていたのであったが……
『重ねて植林しておちょくるというのも、それはそれで面白そうだが……影響の行方が判らん以上、あまり迂闊な手は打てん』
『じゃあ、テオドラムへの植林は打ち切り? クロウ』
『あぁ。差し伸べた手を振り払われたんだ。これ以上の援助は無用だろう』
生憎と、その機会は二度と来ないのであった。
のみならず――
『イラストリア側の林地を保全するために、マント群落の阻止能力は高める必要があるな。有刺や有毒の割合を増やし、刺も毒も凶悪なものにバージョンアップしておくか』
『足場も悪くしておきますか?』
『……そうだな。不自然過ぎない程度に改変しておくか』
――などと、現地の住人が聞いたら血涙紅涙を絞りそうな会話が交わされていた。
更に、
『……ふむ……テオドラムの反応を見るに、修道士の身に危険が迫る可能性も無視できんな。当分は国境……と言うか、尾根を越えるな』
『それが良いかもしれんのぉ』
『場合によってはだが、ピットのモンスターを派遣する事も考える』
などと、態度を硬化させていくのであった。――合掌。




