第二百七章 テオドラム発各方面行き困惑便 4.クロウ
コミカライズ版、本日更新の予定です。
さて、マナステラと同じ情報に接しながら、全く逆の思惑を抱いている者がいた。誰あろうクロウ本人である。
『テオドラムがマナステラの冒険者ギルドに情報交換を持ちかけた? 確かな話か?』
『うん。マナステラから来た精霊が聞いたんだって』
『ふぅむ……』
幾つものダンジョンを指揮下に置くクロウが精霊門の開設に協力した事で、クロウに対する精霊たちの好感度は青天井に爆上がりしていた。
精霊門の開設によって、移動距離が飛躍的に伸びた――何しろ、テオドラムの国土を完全にスキップして移動できるのだから、これは大きい――事もあり、各地の精霊たちが見聞きした情報をクロウの許に――と言うか、現状ではクロウとの窓口役を仰せつかっているシャノアの許に――持ち込むようになった事で、クロウたちの情報収集能力は目覚ましい向上を見せていたのである。
これまでにも、隠密の得意なモンスターや怨霊を起用する事で、それなり以上の情報収集能力を発揮していたクロウ一味であったが、人間たちの間に潜り込み易い精霊たちを新たに諜報戦力として使う事ができるようになった事で、冒険者などの動きも判るようになったのである。
そして、そんな精霊の一体が、マナステラの冒険者ギルドで聞き込んできた情報を、クロウの許にもたらしたのであった。
『「百魔の洞窟」のスタンピードの件を口実に、ダンジョン情報の交換という形で、マナステラに繋がりを求めてきたか……』
『テオドラムの……目的は……何でしょうか……』
『さて……あの国の情勢は色々とややこしいみたいだからな』
――誰がどの口で言うのか。
『ま、何にせよだ――やつらの事情なんぞ、俺たちが忖度してやる必要なぞ毫も無い。必要なのは……』
クロウは眷属たちを見廻すと、
『テオドラムのやつらがマナステラを訪れるだろうという事だ』
……意味ありげにそう言った。
『マナステラに……予定している……ダンジョンの……件ですか……?』
『そう言えば、そんな事を言ってましたね、マスター』
『あぁ、折角ダンジョンの候補地を手に入れたというのに、マナステラにちょっかいを出すのが躊躇われる状況になったため、無用の長物になるところだったからな。テオドラムの馬鹿どもが餌食になってくれるのなら、丁度好い』
まさか当のマナステラが、国内にテオドラムを入れない方向で策を講じているなどとは思いもしないクロウ。テオドラムの冒険者なり兵士なりがマナステラを訪れるという前提の下に、ダンジョン戦力化の計画を立てるつもりであった。
……マナステラの国内で反テオドラム感情が募っているという事実など、クロウの脳裏からは綺麗さっぱり消え失せていた。
『でも主様、テオドラムのやつらがやって来るのって、いつになるんですか?』
『判らなぃとぉ、スケジュールがぁ、立てにくぃですぅ』
『さて……こういう話は中々進まないのがお約束だからな……』
『時間的な猶予はあるという事でございますな』
『そういう事だ。じっくり腰を据えて検討する事にしよう』




