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第二百六章 革騒動~第三幕~ 5.誤解のメドレー

死霊術師シリーズの新作「震える指」、本日21時に公開の予定です。宜しければご覧下さい。

 サルベージ品の陶磁器提供案に対する各国の反応について少し補足しておくと……これは意思疎通と連絡が不充分であったがゆえの、誤解のなせる結果であった。



 まずノンヒュームであるが、過日イラストリアの担当者に陶磁器の見本は見せたのだが、それらの在庫がどの程度あるのかについては明言しなかった。まずは見本を見せて選ばせるのが先であり、在庫については後で検討すればいいだろうと判断していたのである。

 ……これ自体は妥当な判断であり、非難される()われは無い。


 次にイラストリアであるが、見せられたものが余りに逸品過ぎたため、在庫などという概念は頭から吹っ飛んでしまっていた。何しろ、一つだけでも目を()くような大金が動く逸品揃いなのである。しこたま在庫を抱えてるなどとは想像もしない。

 ……これもまぁ無理のない話であって、やはり指弾される()われは無い。

 ――で、マナステラや沿岸国に陶磁器の話を持ちかけるに当たって、イラストリアは〝陶磁器〟の詳しい内容にまでは言及しなかった。どこに出しても恥ずかしくない代物ばかりだと思ってはいたが、何しろどれだけの在庫があるのかが不明である。大見得を切って仲介した挙げ句、数を揃える事ができないなどという話になれば……



〝……どこに何を割り当てるかで、下手をすると国際問題になりかねんぞ?〟

〝うむ。ノンヒュームたちの在庫を確認するまでは、あまり大風呂敷は広げられん〟



 ――という官僚的判断の(もと)に、その辺りはぼかして伝えたのである。

 ……褒められた事ではないかもしれぬが、これもまた非難するのは酷というものだろう。



 そしてマナステラであるが……



〝……海中から引き揚げた食器類か〟

〝珍しいであろう事には同意するが……我々が欲しているのは、ノンヒュームとの友誼の証だからな〟

〝うむ。異国の食器は、それは価値あるものかもしれんが、ノンヒュームたちとの結び付きを誇示(アピール)するには向かんだろう〟

〝いや、ノンヒュームたちが海中から引き揚げたのだろう? それだけでは足りんというのか?〟

〝少しは頭を使え。他所(よそ)で手に入らん「幻の革」と違って、食器など金さえ積めば手に入るのだ。稀少価値という点でも()る事ながら、真実ノンヒューム(ゆかり)の品かどうかが、一般人どもには判らんだろう〟

〝むぅ……確かに、王国とノンヒュームたちとの交誼を宣伝するには弱いか……〟



 ――という政治的判断の(もと)に、クリムゾンバーンの革小物を希望するという決定が為されたのであった。


 ……イラストリアが仲介しようとしていたのが、〝今は途絶えた技術で焼き上げられた幻の名品〟である事など知らなかったマナステラ首脳部としては、これも仕方のない判断であったろう。



 そして沿岸諸国の商業ギルドであるが……



〝……海中から引き揚げた食器類か〟

〝珍しいものには違いなかろうが……単に()われが付いただけだからな〟

〝うむ、品物それ自体の価値という点では、やはりクリムゾンバーンの革に軍配が上がるだろう〟

〝それに、欲しがっているのは見栄っ張りの貴族どもだ。持ち歩ける革小物の方をありがたがるに決まっている〟

〝――確かに!〟

〝食器だと、最低でも数人分のセットを揃える必要があるし……どれだけの量確保できるかが曖昧な食器は遠慮したいところだな〟

〝うむ。革小物なら一つあれば充分だが、半端な数の食器など見せびらかそうとしても、下手をしたら笑いものにしかならん〟

〝数は力だからな〟

〝うむ。やはり多くの顧客を満足させるには、クリムゾンバーンの革小物の方が望ましいだろう〟

〝――だな。とにかく廻してもらえるという(げん)()さえ貰えば、客を待たせるのは問題ない〟



 ――という判断を下したのも、この時点ではやはり無理のない話だと言えよう。


 ……後日、イラストリアがパーティにおいてそれら「陶磁器」をお披露目(ひろめ)したのを聞いて、取り逃がした魚の大きさに()(ぎし)りする羽目になるのであるが……それはまた別の話である。



 そして再びイラストリアであるが……



「……案外、乗ってきませんでしたね?」

「まぁ……連中の狙いが〝見せびらかし〟にあるというなら、解らぬ話でもないのぅ……」

「ま、連中は待つって言ってんだから、ノンヒュームたちにゃそう伝えるしか無ぇでしょう」

「……ひょっとして……彼らは陶磁器の仔細を知らんのではないか?」

「かもしれやせんがね、今更それを伝えて、鎮まった火種を掻き起こすような真似してどうすんです? 陛下」

「……事勿(ことなか)れ主義じゃと(そし)られるやもしれんが……黙っておいた方が良さそうじゃな」

「国内の貴族たちにはどうします? 陶磁器を供給して黙らせますか?」

「おぃウォーレン、お互い貴族の末席を汚してんだ。貴族ってもんがそれで落ち着くなんて、信じてる訳じゃねぇだろうが」

「……まぁ……新たな餌に()目を付けて、騒ぎが拡大するだけでしょうね……」

「だろ? 余計な(やぶ)(つつ)かねぇに限るぜ」

「だが……どうせモルファンをもてなすパーティではお披露目せざるを得んのだぞ?」

「それまでは束の間の平穏ってやつを享受しましょうや、陛下」



 ()くして、火種――と言うか、導火線もしくは雷管――は一旦隠される事になったのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様でした。 陶磁器は革製品と違って、「時代を跨いで維持が可能」な物品ですからね。 ガチの目利きのよい収集家なら、陶磁器を「買い手がついてない内に」かき集めるでしょうね(笑)
[一言] 〝今は途絶えた技術で焼き上げられた幻の名品〟 なんて言われると、ラスター彩とか曜変天目茶碗とか想像しちゃいますね
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