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第二百六章 革騒動~第三幕~ 3.王都イラストリア(その2)

 ローバー卿がパーリブから接収――表向きは買い上げ――した革製品はそれなりにあり、国内の貴族に融通して懐柔するには充分だろうと思われていたのだが……



「マナステラや沿岸国に分け与えると、あっと言う間に無くなったからのぉ……」

「沿岸国の商人どもが、欲を掻きやがったのがいけませんや」

「黙らせるためには()むを得ん措置であったろう」

「そう遠くないうちに次回の入荷があると、当てにしていましたからねぇ……」



 パーリブの口から次回の入荷云々という話を聞いたため、遠からず追加の入荷があるものと――根拠も無しに――思い込んでいたのが失敗であった。

 取引を行なったという獣人からはその後何の連絡も無く、客の突き上げに(たま)りかねたパーリブがローバー卿に泣き付いたらしいが、こっちはこっちでパーリブを当てにしていたのだからどうにもならない。



「……()(はや)その商人とやらからの連絡を、安閑と待っておられる余裕は無いな」

「こっちから連絡会議に話を持っていきますかぃ?」

「幸いにして、エルギンの町には駐在員を派遣しています。魔導通信機で連絡を送れば、成否はともかく、話を持ちかけるのは可能かと」

「ですが……そう簡単に用意できるもんなんですかぃ? 『幻の革』ってやつは」



 「幻の革」ことクリムゾンバーンの革については、加工の手順や難度などの全てが謎に包まれている。用意するのにどれだけの日数がかかるのかも当然不明であり、手配が間に合うのかどうかという懸念はあった。



「……マナステラと協議する必要はありますが、一応の代案はあります」



 ――と、聞き捨てならぬ事を言い出したウォーレン卿に、一同の目が集まる。



「……何を考えてんだ? ウォーレン」

「別に難しい事じゃありません。マナステラが欲しているのがノンヒューム連絡会議との仲介であり、その証としての〝ノンヒューム(じるし)の品〟であるのなら、先日見せてもらった陶磁器もそれに該当する……そう考えただけですよ」

「――! あれか!」

「……そう言えば……今は途絶えた窯の名品が揃っておるとか言うておったな……」



 先日送られてきた目録の内容を思い出したのか、遠い目をして(つぶや)く宰相。



「えぇ。何しろ我が国でも購入を断念したほどの逸品が並んでいましたから、マナステラとしても文句は無いのではないでしょうか」



 別次元での文句が発生するのではないかと思った宰相だが、とりあえずその件はスルーを決め込む。自国の事だけで手一杯なのに、他国の財政事情にまで気を遣っていられるか。


 ――そんな宰相の心中など(ごう)も頓着せず、



「目録を送って寄越したって事ぁ、ノンヒュームのやつらも売る気があるんでしょうからな。顧客を紹介してやる分にゃ、文句は出ねぇでしょう。……こいつを口実に、ノンヒューム連中との繋がりを深めますかぃ?」

「……悪い手ではないように思えるな……」

「話のついでに『幻の革』についても打診すれば……確かに悪い手ではないようですね」

「いっそ、ノンヒューム自身が取引してくれるのなら、イラストリアとしても最大限の便宜を図る用意がある――とでも言ってやるか」



 大体の基本方針が(まと)まったところで、



「ノンヒュームたちに、我が国を取り巻く国際情勢を明かす必要がありますが……」



 ――と、ウォーレン卿が一つの問題点を挙げる。しかし、



「それぐらいは許容できる範囲だろう」



 ――と、これに対してはマルシング外務卿が前向きな姿勢を示した。



「とにかくノンヒュームの連中に、少しは国際情勢というものを知ってもらわんと……これ以上彼らのせいで厄介事に巻き込まれるのは御免だ」

「しかし……どこまでの事を明かしますか? マナステラとの秘密協定については秘匿するとしても、モルファンからの申し出についてはどうします?」

「あぁ……それもあったな……」

「どうせノンヒュームから買い込む予定の食器は、モルファンとのパーティで出すんです。隠しておく事ぁ無ぇんじゃねぇですかぃ?」



 ――執務室での会議は続く。

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