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第二百五章 「緑の標(しるべ)」修道会 11.テオドラム

 ――と、まぁこういった感じでボチボチと開始された植樹活動なのであったが……やがてこれが二つの点でテオドラムに予想外の影響を及ぼす事になった。


 その一つは、植樹活動――と言うか、正確には灌木(かんぼく)(つる)植物による阻止線の構築――を行なった事で、テオドラムからイラストリアに侵入するための間道の幾つかが潰された事である。

 クロウとしては、テオドラムからイラストリアに抜ける間道、しかもイラストリア側では使われた痕跡ほぼ無いようなものを、態々(わざわざ)残しておく必要性など認めなかった。意識的に潰して廻るような事まではさせなかったものの、間道が利用できなくなる事など(しん)(しゃく)する必要は無いとばかりに、有刺や有毒の植物の「緑化」を進めたのであった。


 この事で割を喰ったのが、他ならぬテオドラムの諜報部隊である。それまで使っていた間道が突然使えなくなった事で、何らかの陰謀の存在を疑ったのであったが……



・・・・・・・・



「間道を狙って潰した形跡は無いと?」

「はい。間道だけでなく、国境沿いに延々と(やぶ)が生じておりまして」

「……明らかに不自然だろう」

「不自然なのは確かですが、殊更(ことさら)に我々の活動を狙い撃ちしたようにも……どうも国境の森を復元する作業の一環のようでして」

(やぶ)を造られたのは我が国の領内なのだろう? ならばこれは、明白な国境侵犯行為ではないか」

「ですが、(もと)辿(たど)れば我が国の国民が、イラストリア領内の森林で盗伐行為を行なっていたのが原因です。最寄りの連隊から兵士が参加する事もあったようですから、イラストリアへの非難は全てこちらに跳ね返って来ます」



 どうも現場の判断でどうこうできる話ではなさそうだと知って、(いささ)か渋い顔をする上官。現場も知らぬ上層部からの口出しなど面倒なだけだが、事が国交に絡んできそうな以上、独断で動くのは(まず)いぐらいの判断はできる。



「……だが、我が国の領内に生じた(やぶ)であるならば、我が国の国民がそれを除去するのを、イラストリアとて(とが)め立てする事はできまい」



 ――しかし、我々ではなく地域住民が自発的に動くのであれば話は別だ。内心でそう算段していた上官であったが……



「ですが問題は、当の〝我が国の国民〟とやらが、藪の除去に積極的でない事でして」

「何? ……なぜだ? 国境の森林を利用できなければ、日々の生活に困るのは彼らだろう」

「理由は二つ。第一は、問題の『(やぶ)』が簡単に除去できるようなものではない事です。イラバを始めとする(とげ)だらけの灌木(かんぼく)(つる)が密生している上に、ところどころに毒草の(たぐい)も混じっているようでして」

「――毒草だと!?」

「とは言っても、触れると気触(かぶ)れる程度のものですが。それでも近寄ろうという気を失せさせるには充分です。家畜の(たぐい)も近寄るのを拒んでいるそうでして」

「う~む……」

「そしてもう一つの理由が、態々(わざわざ)国境の森にまで行かなくても、近くに木立ができている事です」

「……何?」



 意味が解らないという表情の上官に、報告者である下士官が噛んで含めるように説明する。イラストリア――かどうかは判らないが、ともかく緑化の担当者――は、テオドラム領内にも木立を育成してくれたのだと。



「……だが……植えられた苗木が薪なり木材なりとして利用できるようになるには、(しか)るべき時間が必要だろう?」

「それが……やつら、どういった魔術を使ったのか、既に立派な木立になっているそうでして」

「何だと!?」



 血相を変えて大声を上げた上官を見て、下士官は内心で首を(かし)げた。確かに驚くべき話には違いないが、そこまで血相を変える事か? イラストリアの温情というのが(いささ)業腹(ごうはら)だが、現実に我が国民は利益を享受している訳だし、そうまで色を()す事は無いだろう。お蔭で隣国との不本意な軋轢(あつれき)も減る訳だし、まずは万々歳と言ってもいいではないか。



「……オドラントの話を知らんのか。我が国の建国から間も無い時の事だ。……その当時、オドラントの地は緑に覆われていた。……トレントの大群落によってな」

「トレント!?」



 思いもかけない単語を聞かされて、さすがに驚きの声を上げる下士官。



「……苦労してそのトレントを退治したのはいいが、トレントの呪いとやらで肝心のオドラントの地は、一木一草も生えない荒れ地になったそうでな。今に至るも荒れ地のままだ」

「…………」

「で、だ。トレントってのは要するに樹木のモンスターな訳だから、普通の樹木より成長が速い。……ここまで言えば、後は解るな?」

「……()の地に造られた木立が、実はトレントの林であると?」

「その可能性を否定できん……少なくとも、口を(つぐ)んでいる訳にはいかんという事だ」



 ――つまり、これが第二の影響であった。



 その後の顛末(てんまつ)を簡単に述べれば、(くだん)の木立がトレントである危険性を無視できなかった上層部は、村人たちの反対と嘆願を押し切って木立の伐採と焼却を強行。実際にはトレントなどではなかった――クロウもそこまでの仕込みはしていない――ために、テオドラム王国の強硬な措置は単に地域住民の生活の質を無意味に低下させるだけに終わり、結果として反王国感情を募らせる結果となるのだが……それはもう少し先の話である。


コミカライズ版の連載の御利益か、ここ暫くランキングに入る事ができております。ありがたや。

そのコミカライズ版ですが、連日更新は本日までで、次回は4月25日の更新となるようです。

今後も、コミカライズ版ともども本作をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様でした。 魔物かどうかなんて鑑定の魔術があるんだから、鑑定の専門家用意してから判断すれば良いのに、テオドラムの軍部は短絡的な輩が上層部多いようですね(笑)
[一言] コミック第5話2まで 先読み出来たんで読んできました(^^) 続きも楽しみです
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