第二百五章 「緑の標(しるべ)」修道会 10.「緑の標(しるべ)」修道会 活動計画始動
『……それで思い出したが、テオドラムに生えていたトレントの体組織も手許にあるんだよな』
『……再生させるつもりでおるのか? クロウよ』
『それも一興なんだが……さすがにそこまでやると不自然だろう』
――そこまでやらなくても不自然である。
『まぁ、今回は普通の樹種に施用して、結果を見るに留めるつもりだ。今後の展開を睨んでも、実験というのは必要だからな』
――万一トレント化したら……それはその時の事だ。
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……という感じで、修道会の活動は国境線に沿って盗伐された跡地の修復から始める事になったのであるが、
『精霊たちの事も忘れてないわよね?』
表向きはどうあれ、クロウ一味が修道会を立ち上げた理由は別にある。その一つが諜報活動を行なうに際しての隠れ蓑であり、もう一つが精霊門の設置のための魔力スポットの復元である。魔力スポットの復元のためには、魔力の流れが健全に維持されている事が不可欠であるため、態々それを名分とする修道会まで設立して、森林の復元などという作業を行なっているのだ。
迂遠に思えるかもしれないが、二十一世紀の地球における自然破壊の現状を知っているクロウにしてみれば、これは自然環境保全のため不可欠な作業なのであった。
『勿論だ。植樹と併行して森林環境の調査を行ない、魔力の濃集地をピックアップする。そのための調査には、精霊たちの協力を当てにしていいんだろうな?』
『勿論よ』
魔力スポットの候補地が発見されたら、そこを中心として魔力の流れの円滑化を図るべく、植栽や整地の計画を立てていく。既に精霊門として使える状態にあるのなら、適当な偽装を施した後で、そこに精霊門を開くという計画になっていた。
ちなみに、「緑の標」修道会の拠点には、既に精霊門を設置済みである。
『しかし……もう少し人目に付く場所での活動を想定していたんだがな……』
クロウ本人の感覚では、修道会として活動するなら多少は認知された方がやり易いだろうという程度で、過度な宣伝は不要と考えている。下手に修道会の事が広まった挙げ句、身内でない普通の人間が参加を申し込んできたりしたら面倒ではないか。不審人物と目されなければ充分である。……ただでさえ仮面と長衣などという怪しげな格好をしているのだ。
『無闇に宣伝するつもりは無いが、多少は活動内容の事を周知した方が好都合かと思っていたんだが……』
当初の予定に相違して、人目に付かない国境線での植樹活動から手がける事になってしまった。
『……かと言って、二手に分かれるほどの人員は揃っていないしなぁ……』
任務の性質上から腹芸のできる事が前提条件である上に、植樹作業の内容も相俟って、木・水・土魔法の素養のある者を優先して採用しているため、二個大隊相当の人員を抱えるクロウ一味と雖も、メンバーを揃えるのは容易ではなかった。今は修道士としての教育を終えた者から順に、目立たぬよう三々五々に配置している段階なのだ。
『まぁ、当面は植樹の現場と拠点の往き来の際に、不自然にならない程度に周知させるように心掛けます』
『その辺りはお前の判断に任せる。面倒な事があったら、オッドに助言を仰ぐといい。この手の仕事はあいつの方が詳しいだろう』
『そうさせてもらいます』




