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第二百五章 「緑の標(しるべ)」修道会 2.遊説仮面

平成以降に生まれた方は、最初の段を飛ばして下さっても結構です(笑)。恐らく理解できないネタだと思いますので。

〝マスター! この格好で植樹と緑化の重要性を説いて廻るんですね!?〟



 ……なぜか制服――制服だよな?――のデザインを見て、鼻息を大層荒くしている者がいた。



〝あぁ……まぁ、そういう事になるが……?〟

遊説(ゆうぜい)仮面ですよね! マスター!〟



 一体どこでそんな懐旧ネタを拾ってくるのかと呆れつつ、



〝いや……確かにマスクとマント……と言うか長衣(ローブ)は標準装備として支給するが……別にカツラは(かぶ)らせんし、()してやロケットに騎乗させるつもりなど無いぞ〟

〝手裏剣! 手裏剣は!?〟

〝まぁ……護身用にそれくらいなら……〟



 ……という、(ごう)の深い会話が一部で()わされていたのは、表沙汰にできないここだけの話である。



・・・・・・・・



 そんな裏話はさて()いて、今はその修道士――で、いいんだよな?――の一人と村人の会話に耳を傾けるとしよう。



「まぁ、最初の頃は半信半疑じゃったが……お前様方が木を植えんさってからというもの、間違い()ぅ空気の感じが変わりましたでな。作物の出来も良うなっとるし」

「それは結構でした」



 ――クロウたちが「緑の(しるべ)」修道会の拠点を選ぶに際しては、色々な点を考慮した上で、ここフルック村が選ばれている。

 その際考慮された条件の一つとして、候補地或いはその近隣の住人の信頼を得易い、少なくとも修道会の行動方針――植樹や緑化――を納得させ易い――というものがあった。

 要するに、その場所では植樹と緑化による環境改善が図り易いという事、詳しく言えば、悪化したその地の魔力循環が緑化によって改善される事が期待できる――という事である。

 誤解を恐れずに言えば、住民たちを洗脳し易い条件が整っているという事になるのだろうが……(もと)よりクロウたちには、住民たちを洗脳して信者にしようなんて考えはこれっぽっちも無い。何のために態々(わざわざ)、特定の神を奉じない「修道会」なんてものをでっち上げたと思っているのだ。自陣営の安全を何より重視するクロウにしてみれば、住民の好意と協力を買う――少なくとも、敵意・反感・余計な詮索などを買わない――事は、譲る事のできない前提条件であった。


 そしてここフルック村は、見事にそれらの条件をクリアしたという訳で、その証左が先程の――そして以下の会話にも現れているのである。



「木々のもたらす恵みは我々が生きていく上で必須のものですが、木々そのものを(うしな)ってしまっては元も子もありません。単に資源を得られなくなるだけでなく、魔力自体が稀薄になり、結果として諸々の生き物にも影響が出るのです」

本当(ふんと)にのぉ……爺っさまの頃までは、まだあちこちに精霊さぁがおったっちゅうが……」

「精霊視の力を持つ仲間の話では、過度に樹木を伐り過ぎた場所では、精霊の姿を見る事が稀になっているとの事。残念ながら、ここもその例に漏れる事はできませんでした。しかし、逆に言えばそれは、木々を復活させてやる事ができれば、弱まった魔力が蘇るのを期待できるという事。……恐らく時間はかかるでしょうが、いつの日か(かつ)てのように魔力が満ち(あふ)れ、神の祝福と恩寵を取り戻す日が来るのを願って、そしてそのための(みち)(しるべ)たらんとして、我々は木を植えているのですよ」

本当(ふんと)にありがてぇ(こっ)た。魔道具使って火ぃ(おこ)すんも、前よか随分楽になったっちゅうで」



 ――クロウたちがやった事は単純である。魔力の流れを改善できるポイントを予め精霊たちに訊いておいて、そこに木を植えただけの話だ。


 勿論、単に苗木を植えただけなら、こうまで早く効果が現れるような事は無い。植える場所にクロウ謹製の魔石を深く埋め込んで苗木への魔力の供給を保証した上に、土魔法持ちと木魔法持ちの眷属たちがその力を存分に振るったのだ。これに追い討ちをかけたのが、クロウが地球世界から持ち込んだ〝禁断の〟肥料であった。()(かつ)に使えばモンスター化を促進しかねない――と言うか、既にその実績がある――それを充分以上に稀釈したものを、それはもう細心の注意を払って施用したのである。

 ここまでの暴挙の甲斐あってか、植えられた苗木は――フルック村住人の度肝をぶっこ抜く勢いで――すくすくと育ち、停滞していた魔力循環の改善が図られたのであった。

 ちなみにフルック村での樹木の栽培は、今後の緑化法の開発・検討を睨んでの、実験の意味もあったりするのはここだけの話である。


 まぁともかくである。生活魔法および魔道具の使用感の改善という形で実利と実感を与えられた村人たちは、(こぞ)って「緑の(しるべ)」修道会の支持に廻ったのであった。……植えた苗木の生長っぷりには、多少腰が引けていたが。


 ……ちなみにこの辺りの手口については、クロウの世界における新興宗教の勧誘の手口を参考にしていたりする。



「村に拠点を造らせて戴いたので、同志が集結し易くなりました。ありがたい事です。それで、そろそろ本格的な活動を始めようかと思っているのですが……早急に緑化を手がけるべき場所とかに、お心当たりはありませんか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 遊説仮面なんて戦争はやめろネタかまされても わたしのような若者にはサッパリですな
[良い点] お疲れ様でした。 こういう時代設定の背景だと、製鉄業の多い町や交易地等、比較的森を潰して発展した地域は影響が出てるんじゃないかな?(古代ローマでは、燃料として木を切りすぎて、土砂崩れな…
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