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第二百四章 変転、贋金騒動 8.イスラファン、そして……

【訂正】2021/04/05、ダールとウォーレン卿の会話における「モルヴァニア」を「ヴォルダバン」に修正しました。

(そもそも)だ、テオドラムの贋金貨に関しては不自然な事が多い。今回の贋金貨を別にしてもだ」



 イスラファンの商業ギルドで、面白くなさそうに声を上げているのはザイフェルである。



「いやザイフェル老、マナステラの『贋』金貨については、必ずしもテオドラムが仕組んだとは言えないだろう。単に旧金貨の()(がね)を使っただけの可能性もある」

「だとしてもだ、テオドラムが()(しゅ)(にん)として名指(なざ)しされている構図は変わらん。それを言うなら、前回の贋金貨の一件とて、テオドラムが仕組んだものとは思えまい」

「まぁ……その点には同意するが……」



 一同を見回して鼻息を荒げるザイフェルの右手には、酒を満たしたグラスが握られている。どうやら既にメートルは上がっているらしい。



(そもそも)これらの贋金騒ぎは不自然だ。少しでも良識のある贋金使いなら、こんな真似はしでかさん。その点はお前らも認めるだろうが?」



 贋金使いに良識を求めるのはどうなのかと思った一同であったが、基本的にはザイフェルの意見に(うなず)かざるを得ない。

 アムルファンで発覚したテオドラムの贋金貨の場合は、態々(わざわざ)発覚し易い新金貨の贋金などを造っているし、マナステラの贋金貨に至っては、本物と同等以上の品位を保っている。経済観念というか、贋金で(もう)けようという意思が感じられない。商人としては何よりも気になる点である。



「営利目的と考えられぬ以上、何か別の目的を持って贋金騒ぎを起こしたという事になる。だが、何者が? どんな目的で? 犯罪者とは思えんが、かと言って軍や国の組織にしては妙に()(ぬる)いと言うか……中途半端に思えんか?」

「……ザイフェル老の言いたい事が解るような気がする。テオドラムの贋金貨が()()()()したのはアムルファンでの一件だけ。追い討ちが無かったのは不自然だ……そう(おっしゃ)りたいのだろう?」



 ラージンの指摘に、他の商人たちも口々に同意を表し始める。



「……確かに……贋金などという大掛かりな仕込みにしては……」

「うむ、尻切れ蜻蛉(とんぼ)の感じが(ぬぐ)えんな」

「資力の問題でここまでが限界だったという解釈は?」

「資力に問題があると判っていたのなら、もっと別の方法を採った筈だ」

「実際問題として、テオドラムはあれ以来、他国との取引には外貨を使用している」 

「そうだな。新金貨は国内での取引にだけ使用している。大きな混乱や不満があったとは聞かないな」

「大した効果は無かったという事か?」

「いや、テオドラムが持つ外貨は減る一方だ。当然、外貨獲得の手立てを考えているだろうが……」

「だが、小麦やエールの取引量は増えていない――どころか、(むし)ろ絞っているという話だぞ?」

「あぁ……その話は自分も聞いた。おかしな話だと思った憶えがある」



 ざわつく商人たちの思いを、ザイフェルが一言に要約する。



「……テオドラムに何が起きつつあるのか……探る必要があるだろうな……」



・・・・・・・・



「……ヴォルダバンへ行けという事ですか? マナステラではなく?」



 魔導通信機に向かって(いぶか)しげな声を上げているのはダール、通信機の向こうでダールに指示を出しているのはウォーレン卿である。



『今回の贋金貨に関わっているのは、テオドラムを除けばマナステラとヴォルダバン。ですが、貴方(あなた)たちのいる場所からマナステラは遠過ぎるでしょう』



 ダールとクルシャンクが現在いるのはアムルファンの港町インシャラ。確かにマナステラとは、祖国(イラストリア)を挟んで反対の位置にある。



『理由は他にもあります。マナステラ贋金貨の品位が高いのは、マナステラに迷惑をかけないためとも考えられますが、逆に言えば黒幕は、マナステラを巻き込むのを避けているとも考えられます。つまり、現時点でマナステラはこの件に無関係と考えられるだけでなく、下手に(つつ)けば黒幕の機嫌を損ねる(おそれ)がある』

「はぁ……」

『黒幕がマナステラを巻き込むのを避けている理由は気になりますが、それは別の話になります』

「はぁ……」

『それにヴォルダバンと言えば、このところ妙な事態が起きているでしょう? それも立て続けに』

「……国境で隊商(キャラバン)を襲う怪人と、アバンの『(まよ)()』の件でしたら、自分たちも耳にしています」

『それもあって、貴方(あなた)たちにはヴォルダバン向かってほしいのですよ。あ、勿論、アムルファンで充分な調査を済ませてからの事ですよ?』

「はぁ……」



 ダールとクルシャンク、これが遠大な(とばっち)りの始まりであった。

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