第二百四章 変転、贋金騒動 6.王都イラストリア 国王執務室
「またぞろ贋金じゃと?」
「そういう話で持ちきりのようですぜ」
インシャラに辿り着いたダールとクルシャンクが掘り出してきた厄介ネタの極めつけ。それがこの贋金ネタであった。
丁度小銭が無かったため、支払いを金貨――イスラファンで両替した沿岸国共通金貨――で済ませようとしたところ、店の親爺から〝まさか贋金じゃないだろうな〟――と、冗談交じりに訊かれたのである。どういう事かと問い返したダールに店の親爺が語ったのが……
「ヴォルダバンでマナステラの贋金貨が見つかった――とな?」
「はい。ただし贋金貨とは言っても、品位は寧ろ高いのだとか」
「……それは本当に贋金なのか?」
「不審に思ったヴォルダバンの商業ギルドが、マナステラに問い合わせたそうです。品位を高めた金貨を発行したのかと。マナステラからの回答は、〝否〟というものであったとか」
「本国が関知してねぇ金貨な訳ですからな。『贋金』にゃ違ぇ無ぇって訳で」
「尤もマナステラからは、この件を大事にする気は無いとも言ってきたそうですが」
「まぁ……自国の貨幣価値が下がる訳じゃねぇですからね。当然と言やぁ当然かと」
「……抑、この件はどういった経緯で明るみに出たのだ?」
困惑の念を隠し得ない国王にウォーレン卿が説明した内容は……
「テオドラムの商人が支払った……じゃと?」
「彼の国の贋金騒ぎは、今や知らない者がいないくらいに広まっています。支払われたのはテオドラム金貨でなくマナステラ金貨だったそうですが、ヴォルダバンの商人は念のため執拗に調べたらしく、その結果判明したのだとか。一見しただけでは区別できないほど精巧なものだったようです」
「……エメンの仕業……と、言いたいのかな?」
「断定はできません。ですが、おかしな話なのは同意戴けるかと」
「その一点に関しちゃあ、テオドラムの贋金貨と同じですな」
「……おかしさの方向性が違っておるじゃろうが」
「ですが逆に言えば、『おかしな贋金貨』がテオドラムの周辺国で相次いで見つかったのは事実です。放念はできないかと」
「「う~む……」」
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イラストリアの四人組のみならず、諸国を困惑させたこの「贋金貨」。元凶はまたしてもクロウであったが……その理由は極めて他愛無いものであった。
「ピット」地下に眠る大金鉱を手に入れて以来、クロウはそこから得た金塊で活動資金を賄っていた。足が付かないようにとマナステラで金塊を売却し、得られたマナステラ金貨を活動資金に充てていたのである。
一々マナステラに換金に赴くのが面倒になっていたクロウであったが、エメンを配下に引き入れた事で、碌でもない打開策を思い付いた。すなわち、エメンに命じてマナステラ金貨の「本物」を造らせたのである。
勇んだエメンが実物以上に品位の高い私鋳金貨――既に「贋金」と言えるレベルではない――を作成。以降はこれを支払いに用いていた。
最近では様々なアレコレの売却益が入って来る事もあって、この私鋳金貨が使われる事も減っていたのだが、テオドラム国内に流れ出た私鋳金貨そのものが減る訳ではない。巡り巡ったその一部が、今回テオドラム商人の手によってヴォルダバンに流れた……というのが秘められた実態なのであった。
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「ヴォルダバンの商業ギルドから、各国の商業ギルドに通達が行ったようです。インシャラにその通達が届いたのが、丁度ダールとクルシャンクが来る数日前だったようで、新鮮ホヤホヤのネタだったようですね」
「お蔭であの二人もその話に気付いたって訳で」
「だが……金貨としての価値は本物と較べても遜色無いのであろう? なぜ商業ギルドはそこまで気を尖らせておるのだ?」
困惑の表情で問いかける国王に対して、
「……ここからは将軍が商業ギルドを締め上げて吐かせたネタになります」
「まぁ、ちょいと苦労しましたがね」
「それで……そのネタというのは何なのじゃ?」
「問題のマナステラ金貨に使用された金ですが……テオドラムの旧金貨に使用されたものに酷似しているそうです」




