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第二百四章 変転、贋金騒動 5.インシャラ

 贋金騒ぎに巻き込まれたテオドラムとヤルタ教が贋金問題を、あるいはエメンの行方(ゆくえ)を注視するのは当然であるが、その影響は当事者以外のところへも及んでいた。そのせいで、彼らとはまた違った形で、正真正銘の――しかも遠大な――(とばっち)りに巻き込まれる者もいたのである。



・・・・・・・・



 ダールとクルシャンクがアムルファンに入り、カファの町を経て港町インシャラに辿(たど)り着いたのは、カファを出てから十八日後の事であった。順調にいけばもっと早い時期、遅くとも五日前には到着できていた筈が、天候の不順やら馬車の手配が難航するやらで、予定より大幅に遅れての到着となったのである。



「まぁったくよ……仕事の内容がコロコロ変わんなぁ勘弁してほしいもんだぜ……」

「状況の方がコロコロ変わっているようだから、任務の変更も仕方あるまい。それに厳密に言えば、調査の優先度が変更になっただけだ。違うか?」



 ブツクサとぼやいているのはクルシャンク、それに律儀に言葉を返しているのがダール。お馴染みイラストリアの密偵コンビである。



「……まぁ、そりゃそうだがよ……まったく……カファで余計な事を訊き込んじまったばっかりに、手間が増えちまったぃ……」



 クルシャンクの言う〝余計な事〟というのは、サルベージの南方海域説であった。シュライフェンでカイトたちが訊き出し、テオドラムで国務卿たちが議論の()(じょう)に上げていた怪説を、カファでクルシャンクたちも耳にしたのである。


 (クロウ)の動きに敏感になっていたイラストリア上層部が、こんな上ネタをスルーしてくれる筈も無い。

 食器の購入に関するノンヒュームたちとの交渉の過程で、彼らがサルベージに手を染めたのは確からしいと見当は付いたが、どこでサルベージを行なったのか、言い換えるとノンヒュームたちの活動範囲はどこなのかは、今もって不明のままなのだ。そんなところへダールとクルシャンクがこんな話を報告してきたのである。上層部が食い付くのは当然であった。

 ()くいった次第で、ダールとクルシャンクの二人には、この南方海域説の如何(いかん)について調べるべしという指示が下ったのであった。



「ぼやくな。どうせサルベージの件は最初から調査項目に入ってたんだ。調査内容が明確になったと思えば、手間が減ったとも言えるだろうが」

「……お(めえ)ってやつは、()くそんなに物事の良い面ばかりを見れるよな……」

「悪い面ばかり見てもつまらんだろう。それに、カファからインシャラ、アクラに向かうというのは既定の方針だったんだ。別段変わりはせんだろうが」

「まぁ、そうだがよ……」



 ブツクサと不平を(こぼ)しながらも律儀に訊き込みに励んだ二人が掘り出してきたのは、どうにも判断に困る情報の数々であった。



・・・・・・・・



「どうも(くだん)の南方海域説というのは、ここでは半信半疑という感じに受け取られているようだな」

「あぁ。カファじゃ割りと真面目(まじめ)に信じられてたみてぇだが……」

「それらしき船の目撃情報がまるで無い――というのが懐疑論の根拠のようだな」

「ここに来る途中の訊き込みでも、南下するほどに疑いの声が上がってきてたからなぁ……」



 モルファンやイスラファンでは可能性ありと見做(みな)なされていたサルベージ南方海域説であるが、それらより〝南方〟に近いアムルファンでは、それらしき船の目撃情報が全く上がってこない事から、疑いの目で見る向きもあるようだ。

 そして、南方海域説に対する反論の根拠は他にもあって……



「……ここから南に上陸したとして、そこから更にイラストリアに持ち込んで販売するメリットが不明――か」

(そもそも)の話よ、何でサルベージとやらを南でやらなくちゃならねぇんだ?」

「……沿岸諸国との軋轢(あつれき)を嫌ったため……じゃないのか?」

「いやな、軋轢(あつれき)とか関係無しに、偶々(たまたま)単に南にいる連中がサルベージをおっ始めて、それが偶々(たまたま)こちとらへ流れて来た……ってんじゃ駄目なのかよ?」

「仮定に頼る部分が多過ぎるだろう。……それに、その説を採用した場合、サルベージを行なった連中が()(もと)を隠している理由は何だ?」

「そりゃ……やつらの国から(うるさ)く言われんのを嫌ったんじゃねぇか? 足が付かねぇように、遠くに向けて売っ払ったんじゃ?」

態々(わざわざ)ノンヒュームたちを相手にか? だとしたら、その理由は何だ? その連中も実はノンヒュームだったという落ちなら、話の本質は変わらんぞ?」

「……こんぐらがってくんな。……おりゃあてっきり、『謎の異国人部隊』ってのがそいつらじゃねぇかと思ってたんだが……」

「あれもなぁ……何の手懸かりも無いくせに、俺たち以外にも探っている連中はいるらしいというのがまた……」



 その〝連中〟が〝探っている〟理由というのが、まさか自分たちの訊き込み行為に端を発したのだとは思ってもいない二人。



「……どうにも化かされてるようで気に入らねぇ。嫌な気分だぜ」

「まぁ、ややこしい事で頭を悩ますのは、俺たち下っ端の仕事じゃない。(しか)るべき方々にお任せしよう。……悩みの種は他にもあるしな」

「あれもなぁ……まさか贋金の件が再燃してくるたぁ思わなかったぜ……」


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