第二百三章 招かれざる客~@船喰み島~ 1.精霊からの報告
先日の国務会議で情報不足を痛感したモルファンは、国外の諜報を所轄する部署に対して、関連する情報を集めるよう指示した。
さすがに大国モルファンともなると、平時から各地各国に諜報員を潜入させている。そんな潜入諜報員に対して下された命令は――
・サルベージ品に関する情報の収集
・「謎の異国人部隊」に関する情報の収集
・ノンヒュームたちの動向の調査
――と、基本的にはダールとクルシャンクのコンビが命じられた調査内容と変わらなかったが、モルファンならではの指示も二つほどあった。曰く――
・過去五年以内に発生した「妙な話」の収集
・レンツの沖合にあるという船喰み島の調査
大国のマンパワーに任せて大規模かつ秘密の調査が開始され、その影響はクロウたちにも及ぶのであった。
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『得体の知れない男たちが島へ上陸した?』
シャノアからその報告を受けたクロウは困惑した。
イラストリア王家が食器の事で妙な話を持ち込んできて、その件を上手く捌いたと安堵していたところへ、またぞろ妙な話が持ち込まれたのである。
『〝島〟というのは「船喰み島」の事だよな? 先日精霊門を開いた?』
『うん、そう。そこで遊んでた精霊たちが、おかしな男たちがやって来るのを見たんだって』
ひょんな事から難破船荒しの財宝やら、それより更に古い盗賊の財宝やらを回収した船喰み島であるが、元々はクリスマスシティーとアンシーンの基地として考えていた場所である。予想外の財宝やら遺跡やらを見つけはしたが、本来の目的である基地としても充分使えそうだという事になり、地下にダンジョンを造るための階層を増設していた。尤も、現状では基地の整備まで手が廻らないという事で、単にだだっ広い空間でしかない。
ただし、海に囲まれた無人島という事で、精霊たちのリゾート地には使えるのではないかと思ったクロウが、精霊門の設置を許可している。念のために精霊門自体は海蝕洞の奥、人間には近寄れないような狭い裂け目の更に奥に設置してある。仮に何者かが島に上陸する事になっても、精霊門が発見される事は無い筈だ。〝転ばぬ先の杖〟というやつであったが、その用心が早々に役立った形である。
『失敗したな……こんな事になると判っていれば、哨戒役のモンスターを配置しておくか……せめて盗聴や監視用のギミックを設置しておいたのに……』
まさか寂れた無人島を訪れる者がいるなどとは思わなかったため、洞窟の地下にダンジョン用の空洞を設置した他は、遺跡のある崩落洞窟に偽装をかけたぐらいしかやっていない。一応、形式だけはダンジョンとなっているので、ダンジョン転移で移動する事は可能であるが、ダンジョンとしての機能は無いも同然である。
『……まぁ……俺が現場に行きさえすれば、ダンジョンマジックでどうにかできるんだが……』
その場合は、上陸している者たちに対して実力行使に出るという事であり、ダンジョンの存在を隠しておく事は難しい。侵入者自体を始末するのは容易であるが、もし彼らが何者かの意を受けてやって来ているのなら、それが未帰還に終わったという事自体、不審を掻き立てる原因となろう。
『……せめて、そいつらの素性や目的が判ればいいんだが……』
そう呟いたクロウであったが、
『んもう、クロウ、精霊たちの事を忘れてるんじゃないでしょうね?』
――心外といった様子のシャノアから抗議を受ける事になった。
『精霊たち?』
『向こうにはあたしの仲間が大勢いるのよ? こっそり様子を窺うぐらい、朝飯前よ』
妙に自信満々のシャノアであるが、クロウとしては安易に許可を出す訳にはいかない。
『待て待て、そいつらが万一テオドラムの兵士だったらどうするんだ? 精霊を害虫扱いするような蛮族だぞ?』
『見縊らないでよね。闇精霊じゃなくたって、本気で隠れた精霊を見つけるなんて、人間には無理よ』
結局、他に代替案も無いという事で、シャノアの提案を実行する事になったのだが……




