第二十五章 クレヴァス 1.防衛兵器の検討
クレヴァスの強化の話です。従魔たちを守るためなら自重なんてしません。
携帯ゲートの開発に取り組んでいるうちに、クレヴァスのダンジョンの防衛能力の不足が思い出されてきた。また中二病のドラゴンがやってきても面倒だしな、ダンジョンの一刻も早い強化とともに、襲撃者撃退の装置を考えるか。
確か前回は話の収拾がつかなくなって、兵装の話は後回しにしたんだよな。ダンジョンコアの魔力か罠かという話になっていたと思うが……コアも大分成長したが、まだドラゴンを相手取るほどの魔力はない。ダンジョン壁の強化も大分進んだが、それだけに頼るのも心許ない。となると、やはり罠が妥当か?
クレヴァスの内部は狭いから、ドラゴンが潜り込むのは無理だ。しかしダンジョン壁の強化が不完全な今なら、ドラゴンはダンジョンを掘り壊して進むことができる。つまり、撃退装置はダンジョン内の通路に設置しても意味がない。
自爆装置みたいなものも一応考えられるが、あの場所で自爆すると言うことは、クレヴァス組の住処が無くなることを意味する。却下だ。クレヴァスに接近する前に片付ける。
となると、クレヴァスの外にダンジョンを拡張して、そこで迎撃するか。キーンが言っていたトラバサミも冗談でなくあり得るな……。
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『と、言うわけで、第二回クレヴァスのダンジョン防衛会議を開催します』
『クレヴァスの外にダンジョンを広げるわけですか』
『あぁ、ドラゴンが来た場合には、外を戦闘フィールドとして迎撃する』
『あれっ、ドラゴンが来た時はって、普通は違うんですか?』
『そもそも普通はダンジョンでない振りをしておく。狭い岩の裂け目なんだから、黙っていれば判らんだろう?』
『はぁ……』
『話を戻すぞ。外の迎撃フィールドでどう闘うのかという点について、皆の意見を聞きたい。キーンはトラバサミを薦めていたな? どういう仕組みだ?』
『え? え、えぇっと……そうだ! 足が嵌る程度の大きさの深い落とし穴なんかどうでしょうか?』
『落とし穴の壁をダンジョン壁にしておけば破壊されることはない。上手く嵌れば足止めが可能か。ドラゴンクラスの体重でのみ作動するようにしておけば誤爆の恐れも少ない……いけそうだな。他には?』
『ますたぁ、雷って言ぅか、電気はぁ?』
電気? あぁ、地面に電流を流そうって言うのか。
『う~む。仕留めるとなるとかなりな巨大電流が必要になるぞ?』
怪獣映画じゃ大抵失敗してるしな。期待薄かな。
『残念ですぅ』
『いや、待て……地面に流すのでなく、有線の銛……触手を打ち込む形式なら何とかなるかもしれんぞ。ロムルス、レムス、どうだ?』
『そうですね。地面全体に流すより効率はいいです。触手を動かすだけなら魔力もそう必要ないですし、電撃は雷の魔石を使えばできそうです。あとは効果だけですが、これはぶっちゃけ魔石次第ですしね』
『うむ、これもなかなか有望だな』
『嬉しぃですぅ、ますたぁ♪』
『ご主人様……大砲は……作れませんか?』
……え?
いきなりぶっ飛んだ発言――最近多いな――をかましたハイファに尋ねると、この世界には火器あるいは砲熕兵器に相当する兵器が、いや、その概念自体が無いという。相手の意表を衝くことができるので、至近距離なら充分な勝算があると踏んだらしい。発想の元になったのは前回の対ドラゴン戦での俺の攻撃で、大いに感銘を受けたようだ。ハイファ自身もロックバレットという砲撃に似た魔法を使えるが、魔力を消費せずに連続で攻撃できるという点を評価しているらしい。
機関砲のような重火器は結構設計が面倒だし、造るとすればハイファの言うとおり大砲だろう。砲身の素材はダンジョン壁でいいが、曲がりや歪みをどう無くすかが問題だな。錬金術頼みか? 火薬の代わりは魔石を使って、砲弾は前回の対ドラゴン戦でも実績のあるダンジョン壁製でいいか。
岩山の壁の中に仕込んで隠顕式の砲座を設置して……ドイツ軍のナヴァロン要塞を参考にするか……。落とし穴に電撃鞭に要塞砲か……もうダンジョンとは思えなくなってきたな。
……開き直るか。
『ハイファ、この世界でレーザーあるいは熱戦砲は再現できるか?』
『レ-ザーは……無理です……熱戦砲は……光魔法に……似たものが……ありますが……指向性が……問題です』
『ロムルス、レムス、光魔法の攻撃に指向性や集束性を持たせられるか?』
『……魔法で生み出しても光は光ですから、クロウ様の世界の技術で光を集束できるのなら可能かもしれません』
『ふむ。なら、凹面鏡で集束させて目を狙えば使えるか。光魔法でなく太陽光を集束させる手もあるな。アルキメデスがやったやつだ。あとは……定番のところで超音波か。これは実現が少し難しいかもな。他には……』
『のう、お主、そろそろ自重してはどうじゃ? 既にダンジョンとは言えなくなってきとるぞ』
『いや、ドラゴン軍団撃滅のためにはまだ全然不足……』
『いつの間にドラゴンたちと雌雄を決する話になったんじゃ? ここまでやれば大抵のドラゴンは命惜しさに逃げ出すわい』
爺さまの説得を受け入れて、クレヴァスダンジョンの対ドラゴン防衛兵器は、大砲、光線砲(あるいはスタングレネード)、電撃鞭、落とし穴、の四段階に決まった。凹面鏡の入手は少し手間だし、電撃鞭は触手の培養や育成に時間がかかるので、最初の段階として落とし穴と大砲を装備することにした。
もう一話投稿します。




