表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
956/1804

第二百一章 食器騒動 5.ノンヒューム連絡会議事務局

 場面変わって、こちらはクロウに食器を押し付けられた連絡会議の事務局である。



「……これをどうしろってんだ……?」

「精霊使い様が(おっしゃ)るには、イラストリアの役人に見せて、必要なものを選ばせろというんだが……」



 クロウが送って寄越したのは食器の山だけではなく、一応は各食器の説明書き――と言うか、【鑑定】の結果――も付随していた。ただし、希望価格とかは何も書かれていない。



「……食器の値打ちなんざ俺には判らんぞ……?」

「それはこっちだって同じだ。……セルマインを呼ぶしか無いか?」

「他に適任者はいないだろう。……そろそろ菓子店も落ち着いた頃だろうしな」

「精霊使い様は、当分は王室だけを相手にしておけばいいと(おっしゃ)っておいでなんだが……」

「どれ……元々サルベージ品で只みたいなもんだから、値段は気にするなと書いてあんな……」

「……どこからどう見ても高級品っぽいんだが……」



・・・・・・・・



「これらを言い値で売り払え? ……正気なのか?」



 幸か不幸か、丁度シアカスターの砂糖菓子店「コンフィズリー アンバー」にいたところを呼び出されたセルマインは、食器類の山を見せられて頭を抱えた。



「……やっぱり問題があるか?」

ありまくり(・・・・・)だ。……まず、こっちの皿とか茶器は全てが磁器だぞ?」



 悲鳴を上げたいのをどうにか(こら)えているという様子のセルマインであったが、言われた面々は理解できていないようだった。

 溜め息を()きつつセルマインが――噛んで含めるように――説明したところによると、イラストリアを始めとするこの大陸西部の地域では、個人用の食器というものはまだあまり普及していない。貧しい庶民はパンなどをテーブルに直置きするか、或いはナプキンの上に置くぐらいが関の山であり、硬くなった平たいパンを皿代わり――兼、主食――にする事も多かった。個人が持っている食器と言えば、汁物と飲み物兼用のカップぐらいである。

 エルフや獣人たちは山間部に住んでおり、木材の入手が比較的容易なのと、種族特性から土魔法を使える者が少ない事もあって、木製の椀を使う事も多い。

 しかし人間たちの場合は、モンスター(ひし)めく森から伐り出した木材を気軽に使えない事もあって、焼き物を用いる事が多い。焼成のための燃料なら、魔法でもどうにかできるのだ。



「ただな……そういう焼き物はもっと分厚い陶器とかなんだよ」

「あぁ……そう言われてみれば……」

「この食器は薄手に作ってあるみてぇだな」

「色も……こっちは白さが際立っているな」



 汎世界的に作られる土器や陶器と違って、白磁や青磁などの磁器を作るにはそれ用の特別な土に加えて、高温焼成が可能な(かま)が必要になる。この辺りの人族はまだその技術を手に入れておらず、入手は輸入に頼るしか無い。



「ドワーフのやつらなら作っていそうだが……」

(かま)の種類が異なるし、(そもそも)焼き物作りに興味を持つドワーフがいないそうだ」

「「「成る程……」」」



 セルマインの説明を聞いて、(ようや)く問題を理解した気になる三名。だが、この程度はまだ小手調べに過ぎなかった。



「問題なのは磁器だけじゃない。こっちのガラスも大問題だ」

「あぁ、それは俺も気が付いた。ガラスの器ってなぁ珍しいんだろ?」



 (のん)()な口ぶりで――どこかドヤ顔で――言うダイムに恨めしげな視線を向けたセルマインは、



「……珍しいどころじゃない。ガラスの細工物は何度か取り扱った事があるが……これ程の透明度を持つものは存在しなかった」

「透明度……?」

「言われてみれば……」



 実は……これはまたしてもクロウの仕業であった。とは言っても、地球世界からガラス製品を持ち込んだ訳ではない。そこには彼我(ひが)の常識の懸絶(けんぜつ)ぶりに端を発した、クロウの誤解と――見当違いな――努力があったのである。


 難破船の積荷からガラス製品を発見して回収したクロウであったが、(もろ)いガラスの事とて、破損しているものも結構あった。クロウはダンジョンマジックで浄化を行なう際に、小さな破損や(ひび)()れなども軽く補修していたのだが……



〝……何だ? 曇りが取れないな?〟



 この時代ではまだ透明ガラスは普及していないのだが、仮にも歴史学科卒のクロウはなぜかそれを知らなかった。現代日本人であるクロウにしてみれば、ガラスなど透明であってナンボである。

 「曇り」が取れないのに業を煮やしたクロウが、むきになってダンジョンマジックやら錬金術やらを使い倒した結果……この世界のスタンダードから大きく外れた逸品群が出来上がったというのが、決して表には出せない裏事情なのであった。


 ――なお、クロウは当然気付いていない。



「……他にもある。例えばこっちの大皿だが……見立て違いでなければ、百年以上前に絶えた(かま)の作品の筈だ」

「百年……?」

「……新品のように見えるが……」

「あぁ。【浄化(クリーン)】は汚れを落とすだけの魔法だから、品物自体の(いろ)()せや色落ちまでは元に戻せない。だからこれは正真正銘の新品だ。……少なくとも、そう見える」

「……新品のまま海に沈んでたのを、精霊使い様が引き揚げたって訳か……」

「話の筋は通っているが……これは下手をすると今まで以上の……」

「あぁ。間違い無く大騒ぎになるな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様でした。 難破船からの引き上げ品にしては、食器に使われている技術レベルが高過ぎるので、「ロストテクノロジーを使ったより古代の食器」と疑われても仕方ありませんね(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ