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第二百一章 食器騒動 4.クロウ

『中規模の宴会用で特別感のあるもの――ねぇ……少しは具体的になったか?』



 連絡会議を通じて王家からもたらされた注文内容に、クロウたちは首を(ひね)っていた。



 実は、宴会用の食器と言われてクロウが最も懸念していたのは、用意すべき食器の数であった。


 沈没船に搭載されていた食器類は(いず)れも高級品であったため、色・柄・形などはまちまちである。パーティと言うからには同じ規格のものを多数揃えなければならないであろうが、それはサルベージ品だけでは厳しそうだったのである。

 最悪、地球産の量産品を持ち込む事も検討はしたが、これまでの前歴――もしくは前科――に(かんが)みると、異界渡りの際に妙な効果が付く事が予想される、いや、付くに決まっている。そんなものを王家に提供した日には、余計な騒ぎになる事は目に見えている。

 幸か不幸かダンジョンマジックだか錬金術だかで、規格品の量産や複製は可能なようだ。いざとなったらエメンにも手伝ってもらって……いや、そうだ。「スリーピース」のやつらにも手伝わせよう。他のダンジョンはいざ知らず、あいつらは「(あわい)の幻郷」のダンジョンマスター見習いだからな。ドロップ品の手配を考えるなら、これくらいはできた方が良いだろう……


 ――とまで考えていたのだが、最悪の事態は回避できたようだ。数が必要になる小皿やなんかは、王城備え付けのもので(まかな)う方針らしい。今回依頼されたのは、大皿や深鉢、スープポットといったものであった。それならサルベージ品の在庫にある。



『何とか最悪の事態は回避できたか……』



 とは言え、問題が無い訳ではない。最大の問題は……



『……俺はこっちの食器事情なんて知らんのだが……誰か知っている者はいるか?』



 ――愚問である。


 クロウの眷属や配下のほとんどは人外。人間社会の、()してや王族貴族の食器事情など、知っている者がいよう筈も無い。一番近そうなのがペーターかハンス、或いは准男爵家出身のマリアぐらいか? ヴィンシュタットの留守居役を任せているソレイマンも貴族の出ではあるが、百年以上前の、しかもマーカスの貴族であったから、イラストリアの事情については明るくないだろう。作家の端くれとは言え、クロウもそこまで詳しくはない。経験らしいものと言えば、親戚の結婚式に出席したくらいである。出版社主催のパーティに出席した事はあるが……あれは何か違うだろう。大学でのコンパも違いそうな気がするし。



『ますたぁ、ルパさんとかはぁ?』

『一応考えてはみたが……ルパにしろ()(ぜん)にしろ、何でそんな事を訊くのかと疑われそうな気がしてな』



 追及せずに黙っていてくれそうな気もするが、やはり危ない橋は渡りたくない。



『エルフたちに任せちゃえば?』

『ふむ……イラストリアが話を持ちかけたのはノンヒュームなんだし、ノンヒュームに一任するのも手か』

 


 シャノアの提案をクロウが呑んだ事で、使えそうな食器を全部押し付けてやって、どれを選ぶかは向こうに任せるという基本方針が決定する。

 ノンヒュームたちが困るのではないかとの意見も出されたが、



『選定と運搬をイラストリアが行なうのなら、その分だけ値段を安くするとか、提案させればいいだろう』

『ご主人様……連絡会議の……事務所には……食器類を収容できる……倉庫などは……ありましたか……?』

『そんなものはダンジョンゲートを開いてやれば……あぁ、そうか。イラストリアの役人に、ゲートを見せる訳にはいかんのか』



 エルギンにある連絡会議の事務所は、元はヤルタ教の教会だった筈だ。倉庫の(たぐい)はそこまで広くないかもしれぬ。



『面倒臭いな……見本だけ一式ずつ送ってやって、そこから選ばせるか?』



 在庫のカタログを準備するというアイデアがクロウに浮かんだが、クロウ本人が挿絵を描くと画風でバレる危険があるし、何よりそんな仕事はしたくない。写真を撮影してパソコンでカタログを作成するのも、面倒と言えば面倒である。



『……差し当たり、グループ毎に(まと)めるのと、簡単な説明を付けるくらいはやっておくか』



 それくらいなら、【鑑定】とダンジョンマジックで()ぐできる。



『……汚れを落とす必要もございますな……』

『このままでは色も柄も判らんしのぅ……』



 サルベージ品の数と手間を考えてゲンナリした気配が漂うが、



『何、そんなものは俺のダンジョンマジックでどうとでもなる――そら』



 クロウが言い終わる前に、目の前にあったサルベージ品の壺が往年の輝きを取り戻す。



『クロウ、あなた【浄化(クリーン)】の魔法を使えるの?』

『いや、そんなもんは使えんが、「洞窟(ここ)」は一応ダンジョン扱いになっているからな。一旦ダンジョンの支配下に置けば、備品管理の一環として似たような事はできる』

『へ、へぇ……そうなんだ……』



 眷属(けんぞく)たちは純粋に感心しているが、シャノアと爺さまは疑いの(てい)である。……ダンジョンマスターの能力とは、そんなものまで含むのだろうか?



『最終的には、鬼火(ウィスプ)に魔力の痕跡を吸い取ってもらって証拠隠滅だな』

『色々と考えてはいるのね……』


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― 新着の感想 ―
[良い点] ダンジョンマジック、本当に便利w なお、主人公だからできる模様w
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