第二百一章 食器騒動 3.王都イラストリア~国王執務室~(その2)
「……ここは逆に考えてみましょう。畏れながら陛下、この際に『処分』なさりたい古酒の本数は、ざっと如何ほどになりましょうか? 幾らかは残しておく必要もあると思いますが」
ウォーレン卿の具申を聞いた国王が考え込んだ。
……確かに……先月は古酒など悉く始末すべきと思っていたが……残さず飲み尽くすというのは拙いかもしれん。
既に古酒の件は国外にも広まっておるようだし……マナステラ辺りが何やら言い出さんとも限らぬ。外交の手札として、幾らかは残しておくべきか。しかしそうすると……無理に大宴会を開く必要は無いのかも……先月は疲れて追い詰められておったのかもしれん……
「……陛下?」
「あ……いや、すまん。少々考え込んでいたものでな。……古酒の全てを飲み尽くすような大宴会は、さすがに拙い気がする」
「ってぇと、大宴会は無しって事で?」
「中小のどちらかという事になりますか?」
「……だったら城に備え付けの食器だけでも、何とかなるんじゃねぇですか?」
あわや〝ノンヒュームたちに頼む〟という依頼の大義自体が綻びそうになったところで、
「いえ……仮にも稀少な古酒を振る舞うのですから、何か特別な宴会である筈です」
ウォーレン卿が白馬の騎士よろしく助け船を出した。
「何がどう特別なんだよ?」
「それをこれから考えるのでは? ……図書寮がですが」
考え無しの上司が発した問いを、さらりと責任回避の方向に誘導する辺り、ウォーレン卿も中々狡猾である。
「……図書寮の連中が頭を抱えそうだな」
「そこは彼らに任せましょう。何にせよ、そういう特別な宴会であるとすれば、代わり映えのしない食器というのは些か物足りない……という事になりませんか?」
「……言えなくもなさそうだな」
現在の状況から、一応ノンヒュームたちへの食器発注に至る筋道は付けた。
「……ともかくも、その線で料理長に相談してみるしかないじゃろう」
・・・・・・・・
「……要するに、規模が中くらいで特別な宴会っていう以外、何も決まってないと仰るんですな? 宰相閣下」
「う、うむ……そういう事になるかのぅ……」
厨房で料理長の突っ込みを受けて、目を泳がせているのは宰相である。一国の宰相だなどと威張ってみたところで、要は上級の中間管理職に過ぎない――という悲哀を宰相が抱いたかどうかはともかくとして、宰相の目の前に居る料理長は、お偉方の無茶振りに何とか応える方針を採用したらしい。
「はぁ……まぁよござんす。とりあえずは『特別感』ってやつを念頭に置いてメニューを考えてみますが……万一実行って事になったら、予算の方はお任せできるんでしょうな?」
そこまで厨房の方では責任を持てない――と、宰相に念を押す。
「そこは大丈夫じゃ……多分。……宴会を開くと言うても、年が明けてからの事になる筈じゃしの」
「年度末に開く……なぁんて事にならねぇよう、くれぐれもお頼み申し上げますぜ、宰相閣下?」
「う、うむ……善処するとしよう」




