第二百章 ダンジョンマスター友の会 9.「呪いの装備作成キット」
ダンジョンのドロップ品は、通常は犠牲となった冒険者たちの遺品で賄われている。ゆえに、ダンジョン側がドロップ品を充実させようと思ったら、そこそこの装備を持った冒険者を狩って、その武器や防具を接収する必要がある。
そして冒険者たちの食い付きが良い装備とは、言い換えれば強力な装備である事は言うまでも無い。
その一方で、強力な装備をドロップ品にすると、それを得た冒険者によってダンジョンが攻略される危険性が高まる事になる。
ダンジョンに冒険者を引き付けるためには強力な装備を供する必要があり、強力な装備を放出する事はダンジョンの安全を脅かす事になる。
この背反する命題をどう両立させるか。
その答の一つが――
『……ドロップ品に呪いを付けておく事ねぇ……』
『先人の知恵というものは、まことに有り難く、侮り難いものでございますな』
『まったくだ』
初心者に対するサービスとはいえ、気前よく作成キットまでくれるとは……
お礼に粗品は渡しておいたが……気に入ってくれただろうか。
――クロウ渾身の魔石を与えられて引き攣っていた彼らの表情など、記憶の中から華麗に抹消して、
『まぁ、呪い装備を作るにしても、そうでないドロップ品を用意するにしても、何れも先立つものという問題がある訳だが』
平均的なドロップ品だけでなく、呪い装備を作るにしても、その材料となる〝普通の〟ドロップ品を用意する必要があるのだが……
『今現在、最も不足しているのが、その「通常ドロップ」だというのがな……』
『ダンジョンマスターにしては珍しい悩みよね』
『で、どうするつもりなんじゃ? クロウよ』
『宝飾品とかは、例の「海賊のお宝」を活用するとして……武器の類は、当面はテオドラム兵士の予備備品を基に、どうにかするしか無いだろう』
『あっ! マスター! 魔改造ってやつですね!?』
身も蓋も無い発言をしたキーンにジロリと一瞥をくれたクロウであったが、
『ご主人様……その場合……理外シリーズの再登場という事には……ならないでしょうか……』
――というハイファの指摘は無視できなかったようである。
『……考えたんだが……不用意に異界の素材とかを使わなければ、大丈夫の筈だ……多分……』
これまで散々やらかしてきた前科を自覚しているだけに、クロウの言葉も尻窄みなものとならざるを得ない。
疑わしげな視線を向ける一派もいたが、どのみちこれについては試しながらやっていくしかない。万一不穏当なものができたとしても、理外シリーズなら使いどころはあるだろう……多分。
『……まぁ……他に当ても無いんじゃし、少なくとも当面はそれでよかろうて』
『そうね。クロウが〝ほどほどの〟ものを作って、なおかつ渡す相手を選べば、大した事にはならないんじゃない?』
〝偉そうに……何様のつもりだよ〟――と、内心でむくれたクロウではあったが、ここで突っ込んでもグダグダになるだけだ。ここは「大人」な自分が、物解りの良いところを見せるべきだろう。
各自各様の思惑を抱きつつも、ドロップ品についての基本的な方針が固まった。
……そう遠くない将来、この方針が修正を余儀無くされ、それがために更なる面倒が降りかかってくる事など、神ならぬ身のクロウには予想できないのであった。




