第二百章 ダンジョンマスター友の会 6.ダンジョンマスター懇親会(その2)
「どうやってと訊かれても……やって来る冒険者たちを狩っているだけですが」
「しかしダンジョンの創生期には、訪れる冒険者もあまり期待できないだろう。どうやって冒険者どもを誘き寄せているのだ?」
ちなみに、ここまでクロウは――新人だというのに――平素どおりの口調であるのに対して、「先輩」のダンジョンマスターたちは恭しい態度でクロウに接している。
ワグ、マット=マグ、モンドの三人の場合は、ダンジョンマスター……いやダンジョンロードとしての格の違いをクロウに感じ取ったのが理由であるが、クロウの方はそこまで深く考えていない。単にダバルやトゥバに対するのと同じように接しているだけである。まぁ、今更ダバルやトゥバに対して敬語を使うのもおかしいし、然りとてダバルやトゥバを差し置いて他の三人に敬語を使う事もできないので、公平を期するために偉そうに振る舞っている……という事情もあるのだが。
話を戻して――クロウに質問を振られた形の三人衆の答は……
「どう――と言われましても……我々のようなダンジョンマスターは、或る程度力を蓄えたダンジョンコアと契約する訳で……そういうダンジョンは、大抵はその時点でそれなりに名が売れていますから……」
「それ以前の事までは知らんという訳か……」
「はぁ……」
「あの……ダンジョンの立場を忖度してみますと、単に侵入してきたものを狩っているだけではないかと」
「ふむ……特に冒険者を誘い込もうなどとはしていない――と言うのだな?」
「恐らくですが」
「場合によっては、長い間人間どもに気付かれぬまま、強大なダンジョンに成長する事もあるようです。スタンピードを引き起こして、初めてダンジョンの所在が知られた事例があったと記憶しています」
「成る程、ダンジョンの存在を周知させるために、敢えてスタンピードを起こすのか」
「いえ……そういう目的でスタンピードを発生させた訳ではないと思いますが……」
三人の答を――自分なりに――参考にして、クロウは新たなダンジョンのあり方について考える。対象である仮称「鍾乳洞」ダンジョンはマナステラの僻地にあり、人が立ち寄った痕跡は確認できていない。今のままではダンジョンとして周知させるのは難しいだろう。そう言う意味で、〝スタンピード〟というのは一考に値する提案――註.飽くまでクロウ視点であり、発言者であるワグにはそういった意図は無い――に思えたが……
(現状では、マナステラで騒ぎを起こすのは拙いか……)
実はこの少し前に、死霊術師のスキットルから、シュレクの「ダンジョン村」気付でネスに手紙が届いていた。
……もうこれだけでも大概な話であるが……その内容が実に興味深いものであった。スキットルの手紙には、マナステラ国内でテオドラムへの反感が地味に募っていると書いてあったのである。
無論の事その原因は、スキットルが――義憤に駆られて――吹聴した、〝テオドラム兵とシュレクの村人との諍い、および、怨霊と骸骨の勇士の活躍〟が、マナステラにも拡がったためである。
最初にこの話を持ち帰ったのは、マナステラが派遣した五月祭視察団であったが、スキットルから話を聞いた冒険者たちが積極的にこの話を広めている事もあって、マナステラの国民にもテオドラム兵の愚行と悪行が広まっていた。何しろテオドラムの兵士と言えば、嘗てリーロットで余計な騒ぎを引き起こした挙げ句、ノンヒューム直営の喫茶店を閉店に追い込んだ前科がある。悪評も拡がり易いというものだ。
インターネットも電話も無いこの世界では、噂話が広まるのには時間がかかるのが常である。ただし今回は、移動する機会の多い冒険者たちが噂を運んでいるため、噂の伝搬が加速している。加えて、この件を恰好のネタだと認識した吟遊詩人たちが、積極的に話を広めて廻っている。抑、スキットルの手紙を村に届けたのが、取材のためシュレクを訪れた吟遊詩人であったのだ。村人たちは当然、その時の様子を――微に入り細を穿って――説明し、件の吟遊詩人をいたく満足させたのであった。
だが、それはそれとして……
(折角反テオドラムの空気が育ち始めたマナステラを、不必要に混乱させるのは避けたいしな。……となると……マナステラ以外の場所に新たなダンジョンを造るか……それとも、マナステラのダンジョンにテオドラムの冒険者か兵士を引き込むか?)
暫し考えていたクロウであったが、これはそう簡単に決断できるような問題ではないと思い直す。今この場で考えるべきは別の事だろう。




