第二百章 ダンジョンマスター友の会 4.お迎え 【地図あり】
なんだかんだでオフ会の当日、クロウはダンジョン転移で参加者たちを「ピット」に拉致……ではなく案内した。
――と、口で言うのは簡単だが、そこに至るまでには幾つもの手順を踏む必要があった。
まず、「友の会」――正式名称は「ダンジョンマスター互助会イラストリア支部会」――に参加しているダンジョンマスターは、クロウとダバルを除いて三名。それぞれ、「ゴーラの窪地」「ユフラの古洞」「魔像の岩室」のダンジョンマスターである。そしてそれ以外に、正式なダンジョンマスターのいない「迷いの森」ダンジョンから世話役が参加している。余談ながら、「迷いの森」はイラストリア・マナステラ・モルファンの国境が接する辺りにあるため、マナステラとモルファンの地区会にも参加しているのだが、そういう話はさて措いて……参加者たちの所在が見事なまでにバラけているのであった。
ちなみに、バンクスの南の山にも討伐済みのダンジョン――「バモンのダンジョン」――があるが、こちらは既に廃ダンジョンとなっているため、ダンジョンマスターは不在である。付言しておくと、ここはクロウたちの越冬拠点に近過ぎるという理由から、ダンジョンの候補地としては没になっている。
ここまであちこちに散らばったダンジョンマスターたちを一ヵ所に集めるには、やはりダンジョン転移が簡単だろう……と、クロウは軽く考えていたのであったが……
〝……閣下……ダンジョン転移は全てのダンジョンマスターが使える訳ではありませんから……〟
〝僭越ながら申し添えますと、某の知る「ダンジョン転移」は指揮下にあるダンジョン間、或いはダンジョン内を移動する能力であって、いきなり他所のダンジョンに転移する事はできなかったと思いますが……〟
――という、ダバルとネスの指摘によって、この案は一旦没になりかけた。
しかし、クロウのスキル【壊れたダンジョン】であれば、マーカー代わりに設置したダンジョン壁の破片を目印にして、任意の場所に転移する事ができる。
ただしそのためには、予め目的の場所に「マーカー」を設置する必要がある。
斯くの如き事情を踏まえてクロウが採った手は――
1.ダバルの案内の下に、クリスマスシティーに搭乗して各ダンジョンの近くに赴く。
2.マーカー代わりにダンジョン壁の破片を、当該ダンジョンの近傍に設置する。
3.当日にダンジョン転移で現場に赴き、招待者を会場に連れて戻る。
――というものであった。
ちなみに、ステルス能力の高いアンシーンでなくクリスマスシティーにしたのは、単に巡航速度が速いという理由である。また、最初からクリスマスシティーで迎えに行かないのは、これはアンシーンの場合も同じであるが、〝空飛ぶダンジョン〟などという、文字どおり〝ぶっ飛んだ〟存在を知らしめる必要は無いと考えられたためである。況や、異世界の鋼鉄製巡洋艦などという存在をや。
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さて、オフ会の当日になって、そんな感じで迎えを受けた地区会のダンジョンマスターたちであるが――
〝こりゃダメだ〟
――というのが、彼らが一様に抱いた感想であった。
得体の知れぬ新参のダンジョンマスター――ダバルの言に拠ればダンジョンロード――が、自分たちのホームダンジョンに侵攻して来るというのだ。警戒心を抱くのも当然である。
が……そんな警戒心も、クロウを一目見た瞬間に雲散霧消する事になる。
――生半可な警戒心など、何の役にも立たない――
あまりにも格が違い過ぎるのが、明々白々であったのだ。
況してこの時は、案内役のダバルの他に、護衛と参観を兼ねてネスが随行しており、留めにシャノアがふよふよと浮遊していたのであった。ライとキーンの眷属コンビが同行しているのは無論である。
――お解り戴けようか?
底知れぬ魔力を窺わせるフェイカーモンスターに闇精霊、更には、得体の知れなさではクロウをすら上回る、恐らくはリッチらしき者に案内役の魔族。
……もうこれだけでお腹一杯である。
一応は礼儀に則って、ダンジョンの入口で案内を請うているが、そのままズカズカと入って来ても、これを阻止する手立てなど無いだろう。
ダンジョンマスターたちが温和しく招聘に応じたのも、蓋し当然であったろう。
新作短編「飽食の餓死者」、第二話が本日21時に公開の予定です。以前に公開した「デュラハンの首」と同じシリーズになります。宜しければお目をお通しください。




