第百九十九章 サルベージ怪説 3.モルファン~国務会議(その2)~
「出所を偽った理由とも関連するが……サルベージ品であるというのが偽りだとするならば、古酒と革の入手先は沈没船ではない――という事になる」
「確かに。抑の話としてだ、酒が海中でそんなに保つとは思えん。古酒の存在自身は確かだとしてもな」
――という反論に、多くの者が同意する。
……不幸にして、反論の根拠自体が間違っているのだが。
「うむ。それにだ、偶々引き当てた一隻や……多くても二隻程度の沈没船に、そう都合好くあれもこれも積まれていたというのは、幾ら何でも出来過ぎだろう」
「うむ、違い無い」
クロウがクリスマシシティーやアンシーンなどの「可潜型ダンジョン」を駆使して、多数の沈没船を総浚えした――などというのは彼らの想像外であるからして、こういった誤解も無理はないと言えよう。だが、誤りなのは変わらない。
「そうすると……これも巷間に流布しているとおり、盗賊の隠し金か何かを見つけ出したか?」
「……一介のコソ泥が溜め込んだにしては、ちとデカい気がせんか?」
「ふむ……グーテンベルク城の伝説か?」
「出所はともかくとして……この仮説を採用した場合、サルベージ船という難問が消散してくれるのは有り難いな」
「だが、或る意味で我らに都合の好い……好過ぎる解釈とも言える。軽々しく飛び付く訳にはいかんだろう」
「うむ。この問題も一先ずは棚上げにして……〝なぜ出所を偽ったか〟という話だったな」
……偽ってなどいないのだが……
「単純に考えて、出所を明らかにするのが問題だからだろう」
「……所有権の問題か……」
「あり得るな」
財宝だの埋蔵金だのというものは、押し並べてその所在が明らかになっていないものだが、それでも漠然とした範囲や由来がまことしやかに語られているものもある。先程話に出た「グーテンベルク城の財宝」などはその一つで、発見が明らかになれば所有権を巡っての争いが勃発するのは不可避である。
その面倒を嫌って、出所の定かでない沈没船の財宝という事にしたというなら、これはこれで理解できる話である。
「可能性は他にもあるぞ? 他ならぬテオドラムから掠め取ってきた――というのはどうだ?」
「テオドラム!?」
「そりゃ……確かに大っぴらにはできんだろうが……」
「別にやつらの城から盗んできたとは限るまい? 領内にあった財宝を持ち去ったのかもしれん」
うぅむと考え込む一同であったが、
「いや……だとすると幾つかの疑問がある。第一に、テオドラムも知らぬ財宝の所在を、ノンヒュームたちは知っていた事になる。第二に、ノンヒュームたちが敵対するテオドラムの領内に、危険を冒して忍び込んだ事になる。まぁ、これについては冒険者か何かを派遣したのかもしれんが……。第三に、彼の国は山林を根刮ぎ伐り払い焼き尽くして農地に変えたような国だ。手の入っていない場所など残っているのか?」
説得力のある反論であったが、言いだした者はこれに対しても答えを用意していた。
「無くはないぞ? 元から領民たちが近寄らん場所ならどうだ? 祟りがあると評判の〝フォルカ〟ことトーレンハイメル城館跡とか、或いは国境近くで開墾が禁じられている……」
「――ヴォルダバンとの国境か!? 騎兵の動きを阻害するために、岩場のままに残された!?」
「あそこなら普段から人の出入りは多くない。小なりとは言え街道があるのだから、接近にも侵入にも不都合は無かった筈だ」
成る程、これはあり得る話かと得心しかけた国務卿たちに、取って置きの爆弾が放り投げられる。
「しかもだ……あの場所では先頃、謎の賊徒が間道付近を封鎖したそうだ。丁度、『幻の革』が市場に登場する少し前になるな。……面白いとは思わんかね?」




