第百九十八章 革騒動~第二幕~ 16.イラストリア(その6)
「いや……しかし、これ以上彼の仁に負担をかけるのは好くないのでは?」
感心しないという表情で異論を差し挟んだのはマルシング卿。想定外の事態に引っ掻き廻されて忙殺されるのは、外務卿にとっても他人事ではない。……現に今も内務部では、死屍が累々と積み上がっているし。
「……まぁ、そうですね。これ以上あの親爺さんを追い詰めると、冗談でなく謀叛でも起こしかねませんぜ」
「ノンヒューム側へ亡命するという選択肢もありますね」
ローバー将軍とウォーレン卿が相次いで同意を表するが……彼らの発言に笑いが起きないのは、それが冗談にならない事が解っているからである。
「……大真面目な話、陞爵くらいは考えるべきかもしれんな……」
「一介の男爵に押し付ける仕事ではありませんからな……」
「仕事っつうか、災難が向こうからやって来ただけなんでしょうがね」
「功績に報いると言うより、被害の補償という感じではありますね……」
……笑えない雰囲気が室内を覆う。
「……ホルベック卿に無理はさせぬとして……ノンヒュームとの伝手と言うなら、エルギンにある連絡会議の事務所に誰かを派遣するべきか?」
国王の提案はしかし、幼馴染みのローバー将軍の懐疑的な発言に迎えられる。
「派遣ったって、ノンヒュームのやつらがすんなり受け容れますかい? こっちが一方的に決める訳ですぜ?」
「……事務所に派遣という形は止めて、エルギンに連絡員を派遣するという体裁を取るべきでしょう。『連絡会議』と顔を繋ぐ必要はありますが」
「……またもホルベック卿に苦労をかける事になるの……」
「自分の後釜だってぇんなら、案外ホクホク顔で仲介するんじゃねぇですかぃ?」
「あり得ますね……」
ローバー将軍とウォーレン卿の指摘に、案外そうかもしれぬと納得する一同。自分の後任の連絡員だと思えば、仲介にも力が入るかもしれない。
「……と、なると……然るべき者を選ぶ必要があるが……」
「第一の条件が、ノンヒュームたちと上手くやってける事ですかぃ……そこらの三下貴族にゃ難しいかもしれませんな」
「外務閥から選ぶべきか、それとも軍部から選ぶべきか……」
「ちょいと陛下、軍はこれ以上深入りしたかぁねぇんですけどね」
「今はそんな我が儘を言ってる場合ではないだろう」
「……マルシング卿……自分のトコが貧乏籤を引くのが嫌で、こっちに押し付けようってんじゃねぇでしょうな?」
「貧乏籤とは何じゃ!? 抑この任務は、わがイラストリア王国とノンヒュームたちとの友誼を結ぶ、栄えある任務であって……」
「あぁハイハイ、そんなご御託は後回しにして、さっさと決めちまおうじゃありませんか」
「イシャライア! お主は昔から……」
……執務団の一日は、まだ終わらない。




