第百九十八章 革騒動~第二幕~ 14.イラストリア(その4)
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
単刀直入なローバー将軍の質問に、居並ぶ全員が沈黙を返す。暫くして言葉を発したのは宰相であった。
「……我が国とノンヒュームたちとの間には……少なくとも『連絡会議』とやらの間には、今のところ正式な関係は何も無い。……であれば、まずは何らかの形で友誼を結ぶのが先決であろう」
筋の通った正論ではあるのだが、
「それで間に合いますかぃ? てぇか、その前に商業ギルドの連中がそれを信じますかぃ?」
「問題はそこでしょうな……」
「うむ……」
思い起こせばビールと清涼飲料を皮切りに、砂糖及び甘味菓子、古酒と来て、つい先日には「幻の革」。何れもイラストリアだけで――或いは、イラストリアで最初に――販売しているのだ。これでノンヒュームたちと誼を通じていないなどと言ったところで、説得力が無いというのは自覚している。
となると、何が何でもノンヒュームたちと誼を通じておくしか無いのだが……
「……連中を納得させるためには、単に顔を繋いでおくだけじゃ駄目なんだよな。最低でも、連中の要望ってやつを取り次げねぇと」
個々の交渉については各国に任せるとしても、交渉の場を設けるところまでは期待されているだろう。しかし、現実にはそこまでの信頼関係を構築できてはいない。今からそれを構築するとして、果たして間に合うかどうか。また、間に合わせるためには、どれだけの対価を支払うべきなのか。
「……対価については後で考えるとして……現状でできそうなのは、マナステラや沿岸諸国の希望をノンヒュームたちに伝えるくらいですか」
「けどよウォーレン、マナステラや沿岸諸国のやつらぁ、会談の場を設けるくれぇは期待してんじゃねぇのか?」
「十中八九それは無理でしょう。いえ、我々が伝手を持っているとかいないとかではなくてですね……」
「……何か理由があると言うのかの?」
「抑ノンヒュームたちの『連絡会議』というものが設立されてから、まだ一年か二年しか経っていません。充分な準備期間があって設立されたようには思えませんから、まだ組織が十全に機能していないのでは?」
マナステラなり沿岸諸国なりに支部を作るだけの余力は無いのでは――と示唆するウォーレン卿。それを聞いて、あぁ成る程――と納得の声を上げる一同。……と同時に、ウォーレン卿の隠された意図というものにも気付く。
「……そういう理屈を入れ知恵して、時間稼ぎを勧めようってんだな?」
「人聞きの悪い。そういう事情があるのかどうかを確認するだけですよ」
「……確かに……話を聞いて右から左に支部を開設……などという訳にはいかぬくらい、あやつらとて判っておろう。じゃがその一方で、一月か二月くらいの間にはどうにかしてほしいとの思いもあろう。……そこに釘を刺すと言うのじゃな?」
「言わせて戴きますが、自分が釘を刺す訳ではありませんからね? お間違えの無きように」
しれっとした顔で断りを入れ、ついでに周囲の視線を黙殺したウォーレン卿。その彼が続けて投げ込んだ爆弾には、一同も厳しい表情を禁じ得なかった。
「……で、ノンヒュームたちとの伝手ですが……どこまでを想定していますか?」
「〝どこまで〟……?」
「えぇ。単にノンヒュームたちとの交渉に留めるのか、それとも……彼らの背後にいるであろうⅩとの仲介まで考えるのか」
「む……」
「Ⅹか……」
いきなり核心に斬り込んだウォーレン卿の質問に、一同無言で思案に沈んでいたが、
「……ウォーレン、Ⅹに伝手ったって、ノンヒュームのやつらが素直に仲介するか?」
ノンヒュームたちにとっても、Ⅹ(クロウ)の存在は秘匿しておきたい情報の筈。多少はイラストリアにも友誼を感じてくれているかもしれぬが、そこまでの情報を打ち明けてくれるほどとは思えない。下手に強要しようものなら、これまでの好感度も一気に暴落するだろう。
「難しいでしょうね。ですからいつかと同様に、モローのダンジョン跡地で独り言を言わせるくらいしかできませんけど……それでもこちらの意図は通じるでしょう」
「……あの臭ぇ芝居をまたぞろやらかそうってのか? だが……ダールとクルシャンクは目下諸国を漫遊遊ばしてるぜ?」
「彼らが戻ってからという事になりますね。どのみちこれは最終目標のようなもので、今すぐどうこうとはできません。今のところは……そうですね、ノンヒュームたちにⅩとの交渉を匂わせるくらいでしょうか」




