第百九十八章 革騒動~第二幕~ 11.イラストリア(その1)
「……一体全体、何でそんな話になったんで?」
早朝からイラストリア王国の国王執務室に集まっているのは、例によって例の如き四人組であるが、今朝はこれにイラストリア王国外務卿たるマルシング卿が加わっている。
――という事はつまり、国際的な厄介事が生じたと言う事であり……それに巻き込まれる事がほぼ決定しているローバー将軍とウォーレン卿としては、恨み言の一つも言いたくなろうというものだ。……が、恨み言は後で存分に言ってやるとして、今は事態の把握が先決である。
――錚々たる面々をして頭を抱えさせるに至った事態というのは、マナステラが使者を派遣しての、ノンヒュームたち――正確に言えば「ノンヒューム連絡会議」――との伝手を結ぶのに助力してほしいという要請であり……そして、その対価として秘密裡に提案された〝対テオドラムにおける協力〟の申し出であった。
「……公式には、我が国は取り立ててテオドラムと事を構えておる訳ではない」
公式には、それは確かに宰相の言うとおりであるのだが、
「マナステラだって、んな能書きなんざこれっぽっちも信じちゃいねぇから、こうして秘密提案という形で持ちかけて来たんでしょうが」
――という、ローバー将軍の発言の方が実情には即しているだろう。
「建前論は暫く措いておくとして――マナステラの真意はどこにあるんですか? こう言っては何ですが、たかだかノンヒュームとの仲介と対テオドラム戦略への協力では、釣り合いが取れていないのでは?」
「あぁ? んなもん、釣り合いが取れる程度の協力しかしねぇって事だろうが」
ウォーレン卿の疑問を言下に切って捨てたローバー将軍であったが、マルシング卿の分析によると、事はそれほど単純なものではないらしい。
「まず第一に、ノンヒュームとの友誼の問題は、お主が考えておるほど軽いものではない。……少なくとも、マナステラにとってはな」
「……どういうこってす?」
「ノンヒュームたちが――何を考えてなのかは知らんが――我が国で古酒と『幻の革』を放出した事は、結果的にマナステラの顔を潰したような事になった。ノンヒュームとの融和を謳っておきながらの、この為体だ。それが彼の国の面子と国策をひっくり返しかねない事ぐらい、お主とて解っておろう」
「まぁ……それくれぇは……」
「しかも、問題はそれだけに留まらん」
難しい顔付きのマルシング卿の発言に反応したのは、王国の懐刀と称されるウォーレン卿であった。
「……クリーヴァー公爵家の件が蒸し返される虞がある――と?」
「如何にも。古酒に続いて『幻の革』でまでイラストリアの後塵を拝するような事になれば、現政権の失政を糾弾する声が上がってくるのは火を見るより明らか。その挙げ句、追及の矛先がクリーヴァー公爵家の粛正にまで遡った日には、ただでさえ燻っている火種が再燃するのは間違い無い」
「……それくれぇで王家が潰れるような事にゃ……と、言いてぇが……実際に公爵家を取り潰すような国だからな、あそこは……」
難しそうな表情で呟いたローバー将軍に、我が意を得たりという顔付きのマルシング卿が相槌を打つ。
「その通りだ。信頼すべき筋からの情報によると、既にマナステラ国王府における勢力図に変化があるという。この状況で隣国マナステラが混乱する事は、外務を預かる者としても看過しかねる」
――というのが、外務卿としての公式見解であるらしい。
それは理解したが……
「……んで、イラストリアとしちゃ、この件にどう対応するってんで?」
「まぁ待て。話はそれだけではない」
「「はぁ?」」
――少しばかり厄介な話だと思っていたが、どうも続きがあるらしい。




