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第百九十八章 革騒動~第二幕~ 7.イスラファン~商人たち~(その1)

 イラストリアの西隣の沿岸国イスラファン、その南東に位置する商都ヤシュリク。この日その町の一角に(つど)っているのは、イスラファンの有力商人たちであった。

 彼らがここに集まった理由は、イラストリアで売り出された「幻の革」、それに端を発する一連の諸問題について討議するためである。



「……イラストリアは何を狙っている?」

「『幻の革』の独占……もしくは統制か?」



 そしてその場で口に出されたのは、マナステラが抱いたのと同じ疑問であり、



「いや……イラストリアが率先して動いていると言うより……(むし)ろノンヒュームたちの動きに振り回されているような……」



 それに対する異論もまた、マナステラで()わされたものと同じであった。そして……



「さっき誰かが統制と言ったが、どう見てもノンヒュームたちを統制しようという動きには見えん。商品の流通をどうにか統制したいというのが本音ではないか?」

「古酒騒ぎの再来を阻止したい……そんなところか」

「恐らくな」

「それもこれも元を辿(たど)れば、亜人……失敬、ノンヒュームと言うのだったな……彼らが気前良く古酒だのクリムゾンバーンの革だのを(ばら)()いたせいだが……彼らは何を考えているのだ?」



 腹に据えかねた様子で言い立てている商人、実は息子からクリムゾンバーンの革製品の話を聞かされて、それを買うようにと指示した商人であった。

 生憎(あいにく)と息子がバンクスに戻った時には、「幻の革」は既に品切れとなっており、次回以降の入荷分は全てイラストリア王家に納入するよう指示されていると突っぱねられたのである。なまじ(息子が)小銭入れを入手していたばかりに、逃した魚が()(てつ)も無い大魚であったように思えて、溜め込んだ憤懣(ふんまん)も一際大きなものとなっていた。

 そしてそう言う彼に応えて、



「……何も考えておらんのではないか? 少なくとも、古酒にせよ革にせよ、その価値というものを解っていないように見える」



 ……という議論の流れまでは、マナステラの場合とほぼ同じであった。



「……彼らが価値を解っておらんというなら……付け込む隙はあるか?」



 そう言った一人も疑わしげであったところをみると、本気で言った訳ではなさそうだ。事実、この提案――もしくは陰謀――には、即座に反論が加えられた。



「あるだろうが、それが元でノンヒュームたちとの間が(こじ)れては、元も子も無いだろう。ここは友好的に振る舞うべきではないか?」

「しかしだ、(そもそも)彼らとの間には伝手(つて)が無いだろう」

「イラストリアに頼むしかないのか? あそこなら仲介をしてくれそうな相手の心当たりもあるだろう」」

「だが、イラストリアはノンヒュームたちとの間に伝手(つて)を持っているのか?」



 この疑義は、他の商人たちにも意外なものであったらしい。



「それは……持っていると考えた方が普通だろう。古酒にしろ『幻の革』にしろ、最初に持ち込まれたのはイラストリアだぞ?」

「その点は認めるに(やぶさ)かでない。ただし、だ――イラストリアの誰に話を持って行くつもりだ?」



 反問を受けた商人は、面喰らった様子で(しば)(くち)()もった。



「……王家と言うか……国王府ではいかんのか?」

「私が問題にしたいのも、正にその点だ。古酒にしろ『幻の革』にしろ、ノンヒュームたちは販売をイラストリア王国に委ねた事は無い(・・)。前者はエルギン領主への贈り物だし、後者はバンクスの革商人に卸したものだ。イラストリアはその情報を知って、後になって割り込んで来ただけだ」



 予想外の、しかし筋の通った指摘を受けて、寸刻黙り込む商人たち。もしもこの仮説が事実なら、どこに話を持っていけばいいのだ?



「……いや……イラストリアの王立講学院には、確かノンヒュームの研究者が在籍していた筈だ。それが駄目なら、酒造ギルドに仲介を依頼する手もあるだろう」

「ふむ……最初から王国に話を持ち込むのは、(むし)ろ悪手か?」



 そういう話になりかけたところで――



「そんな話はどうでもいい!」



 ――一人の商人が大声を上げた。

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