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第百九十八章 革騒動~第二幕~ 5.マナステラ(その3)

「……ノンヒュームたちが(くだん)の品々の価値を解っていない、もしくは気にしていない可能性については諒解した。――だとしたらどうなる?」

「ここからは想像の占める部分が大きくなるが……ノンヒュームたちとしては、特にイラストリアを優遇しているという意識は無いのかもしれん」

「ほぉ……」

「古酒にしろ革にしろ、イラストリア王家と直接の取引をしていないのがその(あかし)だろう」



 ――少なくとも、ノンヒュームたちはイラストリアと特別な交誼を結んではいないらしい――


 このところ無常観に浸りつつあったマナステラには朗報であった。イラストリアを厚遇している気が無いのだとすると、マナステラを冷遇しているつもりも無いのかもしれないではないか。


 だが――そんな淡い希望も次の指摘によって(しお)れる事になる。



「しかし、だ。ノンヒュームたちが古酒と革を提供した先がどちらもイラストリアの者であった……この事は(ゆるが)せにはできないと思うが?」 

「うむ。それに先程の話にしても、飽くまでも〝今の段階では〟という但し書きが付く。古酒と革は挨拶代わりのつもりなのかもしれん」



 空気を読まないヤツらだ――という視線が発言者たちに突き刺さるが、遺憾ながらその指摘には一理も二理もある点は認めざるを得ない。現状ではイラストリアが一歩、或いはそれ以上に先行しているのが実情である。



「……そうなると、イラストリアの意向を無視する訳にはいかんか……」



 ここで国務卿たちの意識は、再びイラストリアの動きへと戻る事になった。



「……イラストリアは何を考えている? 『幻の革』については、王家が一手に引き受ける事にしたようだが?」

「推測だが……古酒の時の騒ぎが繰り返されるのを嫌ったのではないか?」

「……古酒のせいでエルギンの領主は大変な目に遭ったようだからな。ありそうな話だ」

「聞けば『幻の革』を扱っている店も、同じような目に遭っているそうではないか。イラストリア王家としては、妙な騒ぎに発展する前に手を打っておきたいというのが本音なのだろう」

「彼らの目的は飽くまで騒ぎを未然に防ぐ事であり、『幻の革』の流通統制はその手段でしかないと?」

「現時点では推測に過ぎんがな。しかし、それほど目の無い推測だとも思わん」

「と、すると……話の持って行きよう次第では、『幻の革』の入手も難しくないか?」



 国務卿たちが懸念しているのは、マナステラの国民感情であった。


 古酒に続いて「幻の革」でまでイラストリアの後塵を拝するような事になれば、現政権の失政を糾弾する声が上がってくるのは火を見るより明らかである。追及の矛先がクリーヴァー公爵家の粛正にまで遡った日には、ただでさえ(くすぶ)っている火種が再燃するのは間違い無い。そんな事態は願い下げだ。



「……二番手だろうが何だろうが、イラストリアから他の国に流れる前に、どうにか手に入れる算段をせねば……」

「うむ。騒ぎを起こしたいやつがいるのは、イラストリアもマナステラも同じだからな」

「だが、ここで我々が下手に騒いで、ノンヒュームたちから嫌厭(けんえん)されるようでは元も子も無いぞ?」

「と、なると……やはり交渉の相手はイラストリアか」

「我が国の状況に理解を示してくれるよう、親書でも出すか?」



 ――というところまでは、割とスムーズに話が進んだのだが……



「……しかし……こちらから一方的に要求するだけでは、イラストリアとしても本腰を入れて聞いてはくれんだろう」

「ふむ……ここは我が国の誠意というものを見せる必要があるだろうな」



 ――という意見が出た辺りから、議論は再び迷走を始める。

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