第二十四章 ダンジョンゲート 3.試験運用
「足跡」の発見で王国が大騒ぎしている頃の話になります。
新しい道具を手に入れたら使ってみたくなるのが人情だ。早速買い物に出かけようとしたところで、はたと気がついた。どこに行けばいいんだろう。
王都では顔を知られている。うっかり素材屋なんかに出くわしたら厄介だ。あの時はメイクアップで変装していたが、同じメイクは使えない。新しいメイクを考えるのも面倒だ。かと言って、素顔を晒すのも考えものだ。
バレンやヴァザーリでは夜だった事もあって変装していない。顔を見られているとは思わないが、用心はすべきか。そもそもあの町では余所者を警戒してるんじゃないか? 少なくとも、俺ならそうする。却下だな。
ノーランドを訪れた事はないが、やはり余所者を警戒している可能性は高い。ここも却下だろう。
モローは廃墟一歩手前の、寂れに寂れた町らしい。俺が買うものなんか売ってないだろう。
では、どこにするか。俺はこっちの地理を知らない。皆に聞くべきだな。
『で、どこに行くのがいいと思う? 行く時は飛行術を使うから、距離はあまり考えなくていいぞ』
『それでも……飛ぶ距離が……長いと……気づかれる……可能性も……上がりますから……近い町の……方が……いいかと』
『エルギンじゃな』
『エルギンって……あの貴族の子供を置き去りにした町か? 以前にあそこは拙いって事になったろう?』
『いや、よく考えてみたんじゃがな。夜に、しかも仮面を被って出かけたんじゃろう? 身元がばれる心配は無かろうよ。子供と出会う事を危惧しておるなら、その心配は無用じゃろう。あの子の方こそ屋敷内に隔離されておる筈じゃ』
『それは……そうか。町としては大きいのか?』
『おうよ。獣人やエルフも出入りしておるでな、彼らとの交易も盛んで、商都としても栄えておる。必要なものは大概揃う筈じゃ』
では、そのように。
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王都の時と同じように変装して、エルギンの領都に出向いて行く。例によってお供は二名、ライとキーンのコンビである。
同じような変装とは言ったが、今回は毛染めの代わりにウィッグにしている。あまり気は進まなかったんだが――買う時店員に変な目で見られたんだよ――素早く変装を解く必要があるかもしれないというハイファの意見に同意した結果だ。
今回の主目的は靴の入手、および携帯ゲートの試験運用だ。それだけでは勿体ないから、少しは売れる事を期待して水晶の丸玉を幾つか持って行こう。薬草はあまり手持ちがないから、今回は無しで。人造魔石は持って行かない。俺だって学習はするんだよ。代わりに、ドラゴンの革を少しばかり持って行こうか……地雷のような気がするのは気のせいだ、多分。
王都ほどではないものの、エルギンの町はかなり賑わっていた。王都と違って上品な店は少ないが、その分威勢のいい売り声が響いている。爺さまが言っていたように、確かにエルフや獣人を見かける事も多いようだ。人間たちが亜人を気にする事なく、普通に接しているのを見ると気持ちがいい。やっぱりファンタジーの町はかくあるべしだよな。
町をぶらついていると防具屋らしき店があり、中を覗いてみたら片隅に靴が見えた。ふらりと入って店の親爺と交渉。銀貨十五枚は高くないか? 他を当たろうと店を出ようとすると、銀貨十二枚まで下げた。やっぱりボロうとしてやがったな。品はいいようなので買っておく。次は人気のないところへ行って、携帯ゲートの試験運用だな。
携帯ゲートを開く時に少しばかり魔力が漏れるか。勘のいいやつがいたら気づかれそうだ。これは注意しなくちゃな。この欠点が判っただけでも収穫だ。
買ったばかりの靴を投げ入れると、ゴトリと音を立ててダンジョンの、いや収納室の床に落ちた。……そうか、そうだよな。ラノベのアイテムボックスじゃないんだから、不思議空間内に安全に保管されるわけじゃないよな。収納室の床にマットか何か敷いておかなきゃ駄目か。酒の瓶なんかが割れた日には一大事だし、荷物の取り扱いには注意だな。
当座の目的は達したので、見物がてら町を歩き回る。あの店が高かったのかどうか確かめるためにも、もう一、二軒ほど別の店を覗いてみるか。ふと顔を上げると、あそこにいるのは……ホルンじゃないか! 獣人の男と話している……あ、こっちに気がついた。
もう一話投稿します。




